テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
もちぷよ
46
やわしゅん狂
247
はる☻
45,450
ブーブーブー、ブーブーブー……。
枕元で鳴り響く、聞き慣れた無機質なスマホの目覚ましアラームの音に強制的に起こされる。
カーテンの隙間から容赦のない朝の光が差し込んでいた。
もう朝だ。
結局しゅんとの電話のあとも色々と考えてしまって、実際に眠りにつけたのは朝方だった。
身体がだるくて、まだもの凄く眠たい……。
『んんっ……、おはよ、柔太朗』
「んー……はやちゃんおはよ、……」
まだ半分夢の中にいるような掠れた声で挨拶を返すと、僕のすぐ横ではやちゃんが少し困ったように、でもどこか愛おしそうに低く笑った。
『おーい、じゅうちゃ〜ん……。こんなの、昨日お前に振られた相手に対する仕打ちとしては、ちょっと酷すぎではないかい?』
「え……?」
そんな彼の声に驚いてパッと目を開けると、視界のすべてがはやちゃんの広い胸元で埋まっていた。
僕は毛布の中で、はやちゃんの首元に自分の両腕をがっつりと回し、身体ごと正面から完全にのしかかるようにしてしがみついていたのだ。
またやってしまった。
頬に触れるはやちゃんのスウェットの柔らかな生地と、そこから伝わってくる確かな彼の体温に、僕は頭が真っ白になった。
無意識のうちに自分からこんなにしがみついていたなんて、気まずさと羞恥心でどうにかなりそうだった。
真っ赤になっていく顔を見られたくなくて、僕は回した腕に力を込めたまま、はやちゃんのスウェットの胸元に力任せにぐいっと顔を押し付けて埋もれさせた。
そうして必死に顔を隠しながら、ぶっきらぼうな言い訳を口にする。
「……寒かっただけ、ごめん」
そう苦し紛れの言い訳をして、大慌てで身体を離そうとしたのに、はやちゃんはフッとおかしそうに、とてつもなく愛おしそうな笑みを零した。
『ふふっ。そっかぁ、寒かったねぇ』
逃げるような僕の動きを先回りするように、はやちゃんの大きな両腕にぐっと力が込められる。
離れるはずだった身体を強引に引き戻され、僕はその胸の中にすっぽりと抱きすくめられていた。
ほんの数時間しか眠れていない身体に、はやちゃんの温もりが心地よく染み渡っていく。
離れなきゃいけないのに、強烈な眠気とその優しい体温の心地よさに抗うことができなくて、僕の意識はまた、とろけるように深い重力のなかへと引きずり込まれていった。
『こら、じゅうちゃーん、寝ちゃだめ! 今日から普通に仕事だよー』
「あ……仕事、……っ」
その単語を聞いた瞬間、色んな記憶がドッと頭に蘇り、一気に心が鉛のように重くなる。
そんな僕の急激に暗くなった雰囲気を感じ取ったのか、はやちゃんは僕の頭を大きな手で優しく撫でながら明るい声を響かせた。
『よしっ! じゅうちゃん、今週末会お? 俺の家か、お前の家な?』
今日と明日の2日間仕事を乗り越えれば、またすぐに週末の休みがやってくるのだ。
正直に言えば、週末はひとりで家に引きこもってのんびりと過ごしたかった。
しゅんとの関係のこと、これからのこと…。
色々とありすぎたこの数日間のことを、頭の中で静かに整理したかったから。
思わず、分かりやすく眉をひそめて渋い顔をしてしまう。
『おいおい、そんな露骨に嫌そうな顔すんなよ〜、普通に傷付くわ!』
「あ、いや、ちがくて……っ」
『うそうそ! 冗談だって! どっちかの家でのんびり映画でも観ようぜ! 今の状態のお前が一人でいても絶対にろくなこと考えねぇだろ~?』
はやちゃんの言う通りだった。
僕はその優しい気遣いに甘えて、小さくコクンと頷いた。
ようやく布団から抜け出すと、僕は重い身体を無理矢理に動かして、まずは目を覚ますためにシャワーの温かいお湯を浴びた。
浴室の中で、僕はふと、これからの予定を考えた。
今日の仕事終わり、僕はしゅんと二人きりで会って話す約束をしている。
はやちゃんにこのことを言うべきかどうかすごく悩んだけれど、結局言わないことを選んだ。
昨夜、あれだけ僕のために必死になってくれたんだ。
これ以上はやちゃんを巻き込んで、余計な心配をかけたくなかった。
何より、もう甘えないって決めたんだ。
これは僕が強くなるために、ひとりでちゃんと向き合わなきゃいけないことだから。
シャワーを終えて僕が浴室を出ると、入れ替わりで今度ははやちゃんがシャワー室へと入っていった。
僕は洗面台のドライヤーで髪を急いで乾かしリビングに向かった。
するとキッチンカウンターの上には、すでに温かいカフェオレと、こんがりと焼けたトーストが並べられていた。
はやちゃんが作ってくれたみたいだ。
テレビの電源をつけ、時計の代わりに天気予報の画面を見ながら、さっきのトーストを口に放り込んで頬張る。
気象予報士の人が東京は午後から激しい雨が降ると伝えていた。
『おい、柔太朗。早く食べて行くぞー!』
カチッとしたスーツを完璧に着こなした仕事モードのはやちゃんが声をかけてくる。
その声に促されるようにテレビの画面を見つめ直して、僕は小さく声を漏らした。
やばい、のんびり天気予報を見すぎてしまった。
出発の時間まで、あと十分しかない。
急いで残りのトーストを、温かいカフェオレで胃の中に一気に流し込む。
口をもぐもぐと動かしたまま洗面台へダッシュし、大慌てで自分の髪をセットする。
鏡の前ではやちゃんと二人並んで、無言で歯ブラシを動かす。
大急ぎでジャケットを羽織って仕事用の鞄を掴んで家を出た。
もちろん、予報通り午後からの雨に備えて、折り畳み傘も忘れずに鞄に放り込んだ。
マンションのエレベーターを下りながら、僕は隣の彼に声をかける。
「はやちゃん、朝食作ってくれてありがとう。美味しかった!」
『おう! ちゃんと食べないと、今日一日仕事頑張れねぇからな!』
そんな話をしながら、僕たちはエントランスの前に停めてあるはやちゃんの車の助手席へと乗り込んだ。
ここから会社までは、彼の運転による約15分のドライブ。
隣で静かにハンドルを握るはやちゃんの横顔を盗み見ながら、僕はそっと鞄の中の折り畳み傘に触れた。
to be continued……
コメント
1件
