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「坪井くんがひとりで考えて怖くなる必要ないじゃない! 私は坪井くんが傷つけちゃった彼女さんじゃないし、好きになったその先を一緒に作って見つけられるんだよ」
「た、立花……」
坪井が心配そうに真衣香の名前を呼んでいるけれど。
「だって、今一緒にいるんだから……。こ、これからも一緒にいたくて、私坪井くんに会いにきたんだから」
その声に応えることよりも、頭の中に次から次へと浮かんでくる言葉を声にする方が先だと感じたから……止めなかった。
「私は、坪井くんにひどいこと言われて振られても嫌いになれなかったし、今もそう! 何聞いたって知ったって嫌いになんてなれないの」
でも、その言葉たちはめちゃくちゃで、自分でも何を言っているのか把握できない。
「坪井くんならいいよって、思ったの。傷つけられてもいいんだって。坪井くんが女の人に何を求めててもいいの」
できないのだけれど、伝わって欲しいと願ってる。
「でも、お願い……求めるのも傷つけるのもその相手は全部私がいい」
ほんの数秒の、けれど、とてつもなく長く感じた沈黙のあと。
息を切らす真衣香と。
そんな真衣香を強く抱き返した坪井。
(……あ)
坪井の力強い腕に囲われてしまい……真衣香は自分から無理やり抱きついたにも関わらず全く身動きが取れなくなってしまっていた。
そうなって初めて、坪井の顔に胸を押し付けている体勢であることにも気がつき、恐ろしいほどの羞恥心が襲ってきたのだ。
しかし真衣香の力などまるで及ばず、どれだけ力を込めようとも腕の自由が効くだけで。
そのため、どれだけ坪井の表情を確認したくとも、それが叶わない。
「つ、坪井くん……? ごめん、私変なこと言ってるってわかってるんだけど、でも」
顔を寄せてなんとか顔を見ようとするけれど。
ささっと反対を向かれてしまう。
(え、ど、どうしよう……変なこと言ったんだ)
怯みたいが、まさかここにきてそうはできない真衣香は、必死に呼びかける。
「よ、避けないで……ほしい」
「違う、避けてない」
「じゃあ顔見せて欲しい」
本格的に顔を合わせてもらえない。
真衣香が顔を逸らした坪井のほうに再度近づこうと首を動かすと。
「待って! ……ごめん、今ちょっと……待って、ごめん」と、弱々しいながらも焦る声が真衣香の耳に届いた。
「坪井くん……?」
「ちょっと、今ヤバい。カッコ悪い」
――真衣香は、よく泣く方だと自分で認識している。だから涙を押し殺すような、そんな声には否応なく気がついてしまうのだ。
「……な、泣いたって、いいと思う!」
「い、嫌だよ」
「嫌でも泣かなきゃ、泣きたい気持ちになった時の色々なこと流れていってくれないんだから」
ぎゅっと、坪井の腕にさらに力が込められたのがわかった。今何を思っているのか、知りたいと真衣香は強く思う。
「悲しいことがあったり、悔しかったり怒ってたり、坪井くんは隠すの上手だから私見つけられない時もあるかもしれないけど、でも」
そんな真衣香の声を聞き終わるよりも前に、坪井の声が響く。時々詰まって、懸命に涙を堪える息遣いが真衣香の心に重く響いて。
「泣いて、喚いてさぁ、でもどうにもなんないじゃん。だったら気付いてなきゃ済む話で、何でもない顔してたらそれがほんとみたいになるんだって、いつも」
「……うん」
「俺、自分にも他人にも嘘ばっかりだ」
吐き捨てるように言った。そのとおり、自分への軽蔑や嫌悪でいっぱいの言葉。
(いいことも悪いことも重なる時は重なるって言うけど……でも、でもこんな)
ずっと1人きりで自分とだけ対話して、肩肘張って、歩く。その為に押し殺して犠牲にしてきたものって何だろう。
明確な答えを今の真衣香に出すことはできない。ならばせめて。
「……じゃあ、嘘、つかせてあげない。坪井くんの嘘、全部見つけるから。だから大丈夫」
大丈夫、を繰り返す以外に言葉をうまく見つけられないけれど。