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「大丈夫。子供だったんだよ……で、全部終わる話じゃないけど。でもどうしたらいいのかわからないことが、大人よりも多いのは絶対だよ」
まだ無条件で味方されたかったんじゃないだろうか。
(……悪いことしたけど大丈夫だよって、お母さんがいるからねって)
そう予想できる理由なんて簡単だ。
真衣香にとっても母の存在はとても大きいから。
ぶつかることも大きくなるにつれ、もちろん増えた。けれど、わがままを言える相手。
それを受け止めてくれる相手。
八つ当たりしても 喧嘩しても、次の朝起きたなら朝ごはんを作って『おはよう』と言ってくれる。
気兼ねなく甘えられる唯一の相手だった。いや、過去形ではない。会う頻度こそ減っても今も変わらない。
(もちろん、お父さんも……そうだけど、でも)
1番近くで長い時間を共にしたのは、やはり真衣香にとっては母だから。
流した涙を受け止めて欲しい人が、いなくなってしまったなら。一番求めていた時に、失ってしまったなら。
こんなに悲しいことはない。
(中学生なんて、生意気でも、だってまだまだ子供だよ)
震えそうになる声を押さえつけるようにして言葉にしていく。
「たくさん重なって、きっと怖かったんだよ、その頃の坪井くんは、頑張って頑張って……きっと、凄く頑張って……っ」
泣いていいと思う、と言いながら。泣いているのは自分じゃないか。
そう思うのに、止まらない。今より少し幼い顔をしていたであろう10年前の彼は、どんなふうに毎日を生きていたんだろう。
考えると、それだけで目が熱くなってしまう。視界が滲む。
「み、認めてあげようよ、頑張ったこと一度……それから、次に、どうしようかなって、それから考えようよ。一緒に」
「一緒に?」
「そう、一緒に」
早く会いたいな。そう、真衣香は心から思った。
「どんな、坪井くんに会えるのかなぁ」
「……どんなって?」
「一緒にいたら、新しく知れる坪井くんってどんな人かなぁって。早く会いたい」
ぽつりと零した、その言葉の後。
爪を立てられてでもいるのだろうか。そう感じるほどに、酷く背中が痛んで。
けれどそんな痛みもすぐに吹き飛んでしまった。
静かな室内に響く真衣香の息遣いと――嗚咽混じり、小さな啜り泣く声。
真衣香も、触れている坪井の髪に指を絡ませ、きつくきつく掻き抱く。
「どうしたらいいかわからなかったんだ……」
「うん」
胸元に、更にきつく押し付けられる頬の感触。
「誰かを、ま、守る余裕なんてないよ、俺だって怖かったんだよ、大丈夫だって言って欲しかった」
「うん」
「怖かった……俺のこと責めるみたいに見て、血が見えて」
「うん……」
「話したくて、病院行っても母さんもう起き上がれないから、それ見たらもっと……怖、くなって……っ」
“怖かった”と、掠れた声が涙と一緒に溢れてく。胸元が涙で濡れていく感覚が、どうしようもなく愛おしい。
どうしようもなく、守ってあげたい。
そんなふうに大好きなひと。
こんな感情があるのかと、熱くなり続ける心臓に語りかけた。
きっといろんなものが恐ろしかったんだろう。涙とともに吐き出したなら、どうか。
(坪井くんが新しい自分と出会えますように)
その願いは傷ついている人が確かにいたのなら、綺麗事だと言われるんだろう。けれど真衣香はそう願わずにはいられなかった。
誰かを特別に思うことは、イコール、その人以外を決して特別には考えられないのだから。
恋や愛なんて、酷く残酷で、だからこそ人を魅了し続けるんだろう。
諸刃のような感情だ。