テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません
深澤→「」
岩本→『』
______________________________________
深澤side
なんだかよくわからないけれど記憶が曖昧だ。でもその曖昧な記憶の中で、1つだけはっきりと覚えているものがあった
「…ちっちゃい、向日葵…」
どこで見たのか、誰と見たのかは全く思い出せない。でもこの向日葵がほぼ毎日、数本花瓶に生けられているのは記憶があった
『お疲れ、元気?』
向日葵を眺めていると岩本さんが来た。彼は俺の同僚?まあ仕事仲間?らしくて、俺が唯一家族以外に気を許しても大丈夫だと思えた相手だ。まあまだ出会って一週間も経ってねえんだけど。それでも何か既視感を感じるし、もっさんが凄いいいやつなのはこれまでの対話で十分わかっていた。そして、友達以上の感情が芽生えつつあることも自覚していた
「ん、お疲れ~」
そんな彼に今日はいい報告ができる日だから俺は浮かれていた。きっと彼も喜んでくれるだろうと
「ねぇいわもっさん、俺明日退院すんだ」
______________________________________
岩本side
「そんでね、俺からまたお願いあるんだけど聞いてくれる?」
『ん?うん、聞くだけなら全然』
何をお願いされるんだろうと思った。何かを思い出したのかな、とも思った
「明日退院のタイミングで俺の事迎えに来てくんね?」
『え、そんなこと?』
そんなのお安いご用だ。いくらでも迎えに行く。俺がいる限りはもう絶対事故になんて遭わせず安全に連れてかえると心を決めているとさらにもう一言付け足された
「あと、ここ連れてって欲しい」
スマホの画面をスッと差し出される。そこにうつっていたのは紛れもない俺らの初デートの場所だった。思い出したのかと思って彼の顔を見ると違うらしい
「ずっと行ってみたかったんだよねぇ、ここ」
やっぱり覚えてはないか、それでも記憶をなくしても尚行きたいと言う場所が変わっていないのは彼自身もあの時から全く変わっていないようで俺は嬉しかった
______________________________________
『っし、行くぞ~』
「うぇーいしゅっぱーつ!」
彼が行きたいと言った大きな水族館。行くルートも初デートの時と全く同じ道を使った。さすがに初デートのときと同じ信号が全部青、という奇跡は起こらなかった代わりに今回は全部赤だった。俺らの初デートにはなんか信号の神様的なのがついてるんだろうか
『信号…』
「また赤だな、わら」
『こういうの憂鬱じゃね?』
「んや、別に。…長く、一緒に居られるし、」
『…ぇ、』
「あ、タピオカ屋ある」
『えどこ?』
「あの角のとこの…」
タピオカ好きだなんて記憶が消えてから言っていないのに、無意識下では彼は俺の好みなどをギリおぼえていることもあるみたいだ。それが嬉しい反面辛かった。でもそれを顔に出したら彼が余計気にしてしまう。だからずっと笑顔でいることに決めて2度目の初デートを終えた
______________________________________
深澤side
「何気におこぜ可愛かったわ」
『俺今日はメンダコ結構刺さったかも』
そんな会話をしながら家におくってもらう。彼の助手席、異常なほどに落ち着く。しっくりくる。この感覚が何なのかはさっぱりわからないけれど、入院期間中のことと今日のお出掛けを通してわかったことが一つだけあった
「んでね」
『…着いたけど、笑』
「あれ、ほんとだ」
気付かないくらい彼との話に夢中になっていた。…帰りたくないな。あとこの車を降りる前に一つだけ聞きたい。きっと彼は嘘をついていると思う。はっきりとはわからないけれど、俺のために
「最後に1コ質問いい?」
『ん、いいよ』
「俺といわもっさんって、ただの同僚だった?」
『え…うん、そうだけど』
「…そっか、」
勘違いだったのかな。でもなんだか、彼を信用していないわけではないけれど違う気がする。なにが違うのかはわからないしこんなこと言っても彼を困らせるだけなのはわかっている。何より出会って一週間の人間にこんなこと言うのはおかしいってわかってる。でも、伝えなきゃ後悔する気がしたから
「今恋人っている?」
『…い、る…のかな、いや、いた。になるか、?』
そこに居るのは…彼の隣に並ぶのは、俺じゃダメなのかな。記憶が無くなっても身体は何かを覚えている。彼を離してはいけない、なんとしてでもこの縁は繋ぎ止めなければいけない
「あの…さ、」
『うん』
「名前で呼んでいい?」
『え…いいけど、』
思い出せ、絶対に忘れちゃいけないことがあったはずだ。俺は何を忘れている?彼の名前を呼んだとき、外にあった向日葵が視界のはしに揺れて入ってきた
「…ひかる、?」
なんで、忘れていたんだろう。どうしてこんなにも大切な人を、感情を、過去を、忘れてしまっていたんだ
『…なんか違和感あるね、前と一緒でい…』
「照、ひかる」
『…ふっか?』
「ごめ、俺…全部忘れてて、」
『…?ぇ、え?』
「照、好きだよ、大好き」
視界がぼやけて彼の輪郭だけがギリギリ見える。ときどき何かが目元を行き来しているのを見て彼も涙を拭いているんだとわかった
『…戻った?思い出したの?』
「…ん、うん、ごめんほんとに、めっちゃ心配かけたしいっぱい傷つけた。迷惑も…」
精一杯の謝罪。それ以外に伝えられるものはその時俺にはなかった。そんなことで許してもらえるとも思っていなかったけれど、彼は優しいからそもそも怒ってさえいなくて
『心配…は、したし多少は傷ついたけど迷惑なんかかかってねえよ、謝んな』
“泣きすぎ笑”と大きな手で頭を撫でられる。大好きな、あったかい手
「…はぁもう、記憶無くなってもお前のこと好きになるとか、ある意味イカれてるだろ、わら」
『は、お前あんときも俺のこと好きだったの?笑』
その後も二人で泣きながら笑い合った。やっと正しい形に戻れた、彼の心からの笑顔が見れた。それが本当に嬉しかった
「んじゃまた明日ね、照。…俺の事諦めないでくれてありがとう。これからも、この先も。ずっと大好きだよ」
『ん、また明日。…ふっかを一番愛してる男のこと、もう二度と忘れんじゃねえぞ』
何度でも俺は、君に恋する
コメント
1件
いやぁーー😭😭😭 よかったぁ 記憶を無くしても何度も2人は恋をするのね💛💜