テラーノベル
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何事もなかったかのように美月たちの輪に合流し、会話を始めたナギを横目で睨む。
相変わらず、掴みどころのない男だ。冗談にしては悪趣味すぎるし、本気で言っているとしたら尚更質が悪い。
人を振り回すのが好きだと言っていたのを思い出し、蓮は思わず眉間にシワを寄せた。
雪之丞はといえば、先ほどの光景を目の当たりにして完全にフリーズしている。
「おーい、大丈夫か?」
心配になって声を掛けると、弾けたように顔を上げ、目が合った瞬間、あからさまに顔を背けられた。
「……えーっと?」
もしかして怒っているのか? でも、なんで? 原因があるとしたらさっきのキスだとは思うが……。
よくよく見れば、ただでさえ赤かったさらに赤く染まっている気がしないでもない。
……これはもしかして――?
「雪之丞って、もしや童貞?」
「ブッ、げほっ、げほっ、な……っ、な……っ、いきなり、なに!?」
蓮の問いかけに、雪之丞がむせて咳き込む。何気なく尋ねたつもりだったが、どうやら図星らしい。
真っ赤になって俯く姿を見ていると、なんだか楽しくなってきて、蓮は思わずニヤリと口角を上げた。
「そっかそっか。さっきのアレは雪之丞には刺激が強すぎたか」
ニヤニヤしながら雪之丞の肩に手を置くと、ビクッと身体を震わせ、顔を逸らす。……面白い。もっと揶揄いたくなってきた。
「雪之丞もしてみるか?」
「ぅえっ!? なっ、何言って……っ」
蓮の言葉に、雪之丞の顔が一気に紅潮していく。
「あんまり虐めちゃ駄目だよ。ゆきりん困ってるじゃん」
もう少し揶揄ってやりたかったのに、背後から腕が回され、抱き寄せられる。
ふわりと香る柔軟剤の匂いに、一瞬ドキリとしたが、すぐにその正体に思い当たり、蓮は小さく苦笑した。
「ハハッ、ごめんごめん。あまりにも可愛い反応するからつい……」
「えっ、冗談……?」
ほんの少しがっかりしたような表情をのぞかせ、雪之丞が呟く。
「あれ? もしかして、本当にして欲しかった?」
「ッ! ち、違うからっ!!」
ブンブンと首を振り、目の前にあったジョッキをぐっと飲み干す姿に、思わず苦笑いが漏れた。
「蓮さん、そろそろ出ませんか? 私と逢坂さんは明日学校もありますし、姉さんもこのまま寝てしまいそうです」
「あぁ、そうだね」
時計を見れば、すでに22時を回っている。確かに高校生組はそろそろ帰ったほうがいい時間だろう。
「今夜は、姉さんが失礼なことばかり言ってすみませんでした」
「えっ? いやいや、僕は別に構わないよ」
会計を済ませて店を出ると、弓弦がウトウトしている美月を背負いながら頭を下げてきた。
この子は本当に高校生だろうか? とても礼儀正しく、しっかりしていると思う。
「幼い頃からの夢だったんです」
「ん?」
「ずっと女優になることを夢見て頑張ってきたのに、現実は残酷ですよね。今日、監督に色気が足りないと言われたらしく……。その上、あんな場面を見せられたので、余計に落ち込んでしまっていたみたいで。姉さんは“平気だ”なんて言ってましたけど、お酒を飲んで気が緩んだんでしょうね」
「あぁ……」
あの監督は、女性なら誰でもいいみたいな節操なしだからな。
子供番組なんだから色気は必要ないだろ!? あのエロオヤジ、最悪だ。
演技の指導に色気は関係ないだろうに。
「わかった。監督に余計なことを言わないように注意してもらえるよう、兄さんに伝えて……」
そう言ってから、はっと気が付いた。兄から言われた言葉の意味を考えるつもりだったのに、すっかり忘れてしまっていた。
「蓮さん?」
「えっ? あぁ、大丈夫。何でもないよ。ほら、タクシーが来た。またね、二人とも。はるみんも気を付けて帰るんだよ」
「ガキ扱いすんなよ。オレは走って帰るから平気だし」
「走る!? げ、元気だな……」
家がどこにあるのかはわからないが、ここから走るとは……若さって恐ろしい。
去っていくタクシーと東海を見送り、振り返る。
「じゃあ、俺たちも帰ろうか。雪之丞、立てるか?」
「……平気」
そう言いながら、電信柱に凭れている姿はとても平気とは言い難い。
「送っていくから、場所教えて」
「……蓮君の家に、泊まりたい」
「えっ?」
トロンとした目で見つめられ、戸惑った。
「……ダメ?」
「ダメ、というか……うーん」
特にこの後の予定はなかったが、なんとなくナギと一緒に過ごすつもりでいた。だが、それを雪之丞に伝えるのはなんだか憚られる。
それに、この状態の雪之丞を一人でタクシーに乗せるのは……ちょっと心配だ。
「お兄さんの家に行くの? いいなぁ。俺も一緒に行ってもいい?」
「えっ!? キミも!?」
ナギの提案に驚愕する。確かになんとなくそうするつもりではいたけど、雪之丞も一緒だというのにこの男は一体何を考えているんだ?
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