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ザー……ザザー……ブチッ
「ひぃっ。」
情けない声が狭い部屋の隅まで響く。その声にビクリとなる八神さん。うん、ごめんね、だって何か変な夢見たんだもん。あれ…でも……なんの夢だったけ?ま、いっか。八神さん達と再会してから少し時が過ぎてもうかれこれ半年。相変わらずの牢獄生活に相変わらずの沈黙。あの後、お互いがお互いを警戒しあう、ピリピリした空気が流れめっちゃ気まずかった。ま、今もそんなもんだけど。…ん?夢原っちは何処へ?
「夢原さんの姿が見えませんが。」
かくれんぼ……なわけないので素直に八神さんに聞いてみる。こういう偶に夢原さんが居なくなるのは珍しい事では無い。いつもどっか行ったと思ったらすぐ帰ってきて、寝てた、などのびっくりするぐらいの普通の事を言う。今回も一緒かな?本人は人体実験されてるみたいで気持ち悪ぅ、って言ってたけど。
「あ…夢原さんなら、クロンって言う人に連れてかれたけど。」
それだけ聞いたら何か誘拐事件に聞こえるな……あながち間違って無いのかも。まあ、夢原さんが連れて行かれる理由として挙げられるのは、妖夢視幻覚と言う特殊能力。あれ、本当は魔法でもスキルでも何でも無かったっぽい。てか、本人が言ってた。『魔法とか、スキルとかそんなんクロンからしか聞いたこと無いからわかんないけどこれ、違うわよ、なんとなくだけど』って。だから……なのかも。確信は無いけど。まあ、もう少ししたら帰ってくるでしょ。
………ん?
何で私は今この状況を大丈夫だと認識した?知らない間に連れて行かれてるんだぞ?大丈夫か大丈夫じゃ無いかじゃ無くて、私ならもっと不思議に思うはず。なのに、何で?それに何で私はもう少しで帰ってくると錯覚していた?その瞬間ゾワッとした何かが背中をつたった。これは確実におかしい。今こうやって自分の考えを否定しているっていうのに一行に私が私に大丈夫って訴えてる。まるで内側から徐々に組み込まれてるみたい。その瞬間、私の体がガクンと下に落ちる。
「つ、黒葛原さん!?大丈夫!?」
結局その日、夢原さんが帰ってくることは無かった。
こんにちわ。私の名前はシャールと言います。サルヴァトール王国のセイレンと言う町で冒険者ギルドの受付人をやっている、極、極々ふつぅーの、受付人なんです。
「ど、どうひっ、ましたでしょうか?」
思わず噛んでしまいました。やばいです。ピンチです。いえ、正確には今までここまで怯えるどころか、一度でいいから見てみたいなどとほざいていました。でも、今は違います。今目の前で悠々と立っているこの方は、世界でトップ10に入ると言われている最強の剣士、その名もカイン。名字は無く、ただのカイン。出身地不明、年齢不明、身分不明、素顔不明、ましては名前すらも偽名ではと言われているほどです。
「あの__」
「は、はい!何でちょっ、…か。」
やってしまいました。終わりです。……だと思っていたのですが、彼は首を傾げていかにもな動作をします。イメージと違います。もっと、怖いと思ってました。彼の姿は白と黒のシンプルな仮面に青と黒のグラデーションのかかったマント。明らかに怪しいです。でも、冒険者が仮面などを付けるのは別に怪しい事ではありませんし、マントだって珍しいものではありません。何故私がこの方を伝説の冒険者、カインだと分かったかと言うと単純にギルドカードです。見た瞬間、「あ、あの、伝説の冒険者カイン様ですか!?」何て言う後から考えたら凄く恥ずかしい事を叫びそうになったのは秘密です。まあ、言う前にカイン様に防音のスキルで止められましたけど。
「大丈夫ですか?」
「はい!」
「……あの、大声出すのやめてくれませんか?」
ムグッ。はい、お口チャックです。と言うか私のイメージだと、かなりのごっついおっさんだったのですが、結構若めの声ですね。イケボです。
「そ、それで、ご要件は?」
私が問うと彼は一枚の紙を取り出し私に見えるような形でそっと置きました。
「依頼をしにきたんだよ。依頼内容はセインの森に潜む魔物の討伐とそこの古代遺跡の探索。冒険者のランクは問わない。報酬は、魔物の数だけ一人金貨一枚増加。勿論、魔物のランクは問わずに金貨一枚。引き受けてくれるかな?」
今まで何事も無く、話をしていた冒険者の視線が一気にこちらに集まります。でも、防音の魔法がかけてあるのに何故?…ああ、そういうことですか。答えは単純、カイン様が防音のスキルを解いて、音量のスキルを発動したからです。
「勿論です。」
いえ、本当は大丈夫ではありません。むしろ問題おおありです。で!す!が!あの伝説の冒険者様の頼みとあらば、このぐらいなんのこっちゃないのですよ!……嘘です。なんのこっちゃあります。でもですよ、でも。こんな依頼聞いて断るとかありえませんって。まあ、自分でやればいいのにとかそういう疑問はありますが。でも、一周まわって考えたらそうですよね。いくら凄い人でも古代遺跡を一人で探索何てそんな……え、まず何で彼は古代遺跡を知っているのですかね?私、ここの現地民ですが存在すら聞いたことも無いんですけど。
「どうもありがとう。これで契約成_」
「マスター!ギルドマスターを呼んできますので、少々お待ち下さい!」
急げ!急ぐのですシャール!よくよく考えたらこんな依頼、私一人じゃどうしようも無いじゃないですか!マスタァー!
「お前何がしたかったんだ!?馬鹿なのか!?」
「はい!馬鹿です!」
「割り切るな!」
案の定、怒られました。ていうか、そうですよね。は、ははは。クビですね。ふ、ふふふ。まあ、ね。これがマスター呼んで収まったら良かったんですよ。戻ったらお祭り騒ぎ。よっしゃ、良い仕事が来た!って具合に。もう、依頼を拒否ったら暴動が起きるぐらいには。してやられました。カイン様、いえ、カインの奴にしてやられました。
「はあ。もう過ぎた事を言ってもしょうがねえ。で?例の依頼人の名前は?」
「ぼ、冒険者カイン。」
「……は?」
マスター?戻ってきてください。
「大丈夫ですって、ギルドマスター。あの人そんな短気な人でも無さそうですし。」
先輩のカータさんがマスターの肩をがっちり掴みグングン揺さぶる。あの、カータさん。それ、脳揺れてません?
「そういう問題じゃ無い!!」
「ひっ!」
お花畑から戻って来たマスターのどなり声が響きます。
「そんな事は知っている!問題はあいつが得体の知れないやつだからだろう!?てかまず、あいつがこちらに頼ってくる理由も分からん!もう自分でやれよ!何でこっちに来るんだよ!あー、クソっ!」
「「マスター……。」」
暫く微妙な空気が流れました。
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カイン:(大きな声がしたけど、何かあったのかな…?)