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保育園の頃とは違い、小学校は一気に「音」の種類が増えました。
休み時間のチャイム、大勢の生徒が廊下を駆ける足音、そして何より、慣れない集団行動でのざわめき。
「……もとき、顔白いぞ。大丈夫か」
教室の隅で、滉斗は自分の机を元貴の机に限界まで寄せて座っていました。
二人は運良く同じクラスになれましたが、元貴にとって小学校は、どこにいても「トゲ」が刺さってくるような場所でした。
「うん……ちょっと、耳がじんじんするだけ……」
元貴は、涼架からもらった「魔法の耳当て」を放さず持っていました。でも、授業中にそれをつけるのは、少し勇気がいります。周りの子たちに「変なの」と思われるのが怖かったのです。
ある日の休み時間、教室で男子たちが騒ぎ出しました。机を叩いて笑う大きな音に、元貴は思わず耳を塞いで机に突っ伏してしまいます。
「おい、元貴! なんで寝てんだよー、遊ぼうぜ!」
一人の男子が元貴の肩を叩こうとした瞬間。
ガタッ、と椅子を鳴らして立ったのは滉斗でした。
「……やめろ。元貴は今、疲れてるんだ」
1年生とは思えない冷たい視線。滉斗はもともと端正な顔立ちをしていましたが、怒るとその眼差しは一層鋭くなります。
「なんだよ、滉斗。いつも元貴ばっかり……」
「いいから、向こう行け。……元貴に、触るな」
滉斗は元貴の前に立ちはだかり、盾のように彼を隠しました。滉斗だって、本当は新しい環境に緊張していたはずです。それでも、彼にとっては「元貴を守ること」が、自分を保つための唯一のルールでした。
放課後、二人が不安な足取りでへ玄関を出ると、そこにはいつも涼架が待っていました。
4年生の涼架は、二人を見つけると大きく手を振ります。
「おかえり! 二人とも、今日も100点満点に頑張ったね」
涼架は二人のランドセルをひょいと持ち上げると、いつものようにふにゃりと笑いました。
「元貴、今日は学校の音、どんな色に見えた?」
「……今日は、チクチクする黒い色だった」
「そっか。じゃあ、お兄ちゃんが美味しいココアを買ってあげよう。ココアを飲めば、明日は少しだけ優しい色になるよ」
涼架の買ってくれるココアは、驚くほど甘くて温かい。
それを飲むと、トゲトゲしていた元貴の心も、少しずつ溶けていくのでした。
家へ帰る通学路で、元貴は滉斗のシャツの裾をそっと掴みました。
「……ひろと。守ってくれて、ありがとう」
「……べつに。おれ、もときの隣にいるのが一番落ち着くから」
滉斗は照れくさそうに顔を背けましたが、繋いだ手は離しませんでした。
「明日も、俺の隣にいろよ」
「うん。約束」
小学2年生で「付き合う」という形になるまで、あと1年。
二人の絆は、こうして誰にも邪魔できない場所で、静かに、けれど確実に深まっていったのでした。
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