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(I can't)change the world

第1話 - 🖤💚　約束の時間

201

2025年06月27日

#BL

#バッドエンド

kino

テレビボードの上に置かれた時計を見る。約束の時間まで、あと少し。

もし、彼が今日この部屋を訪れたら、俺たちはもう一度やり直すことができる。訪れることがなかったら、これで終わり。

俺は祈るように瞳を閉じて、ソファに深く腰掛けた。ちょうど、その時だった。

「あ…っ」

鳴り響いたインターホンに、弾かれるように立ち上がる。彼が来てくれた！　思ってすぐさま玄関まで行き、来客を確かめることなくドアを開けた。それじゃあ、俺たち、またやり直せるよね？　そんな期待に満ちた思いで。…けれど。

「お疲れ」

目の前でにっこりと微笑む形の良い唇。

「め…ぐろ、何で？」

彼じゃなかった。

俺は思わず肩を落としてしまった。

「何でって、近くまできたから寄ってみたんだけど。今日オフでしょ？　阿部ちゃんいるかなって思って」

住人と一緒にオートロック抜けてきちゃった。そんなことを言いながら、こちらのことなんておかまいなしに部屋に入ってくる目黒。俺は慌てて目黒の腕を引いた。

「ちょ、ちょっと待って」

「何？　何かあった？」

「今日、は…」

振り返った目黒からあけすけに尋ねられて口ごもる。俺は思わず俯いて唇を噛んだ。彼が来るなんて保証はない。それでもあと少し、約束の時間までは彼を待っていたかった。

「はっきり言ってよ。用事あるなら帰るし」

「あ、そうっ、用事、あるから。だから…」

「じゃ、時間になるまでは俺の相手してくれる？　せっかくここまで来たんだし」

ああ、もう。

この最大のチャンスに、帰るよう促そうとした俺を遮って悪気なく笑った目黒は、もう既にソファに座って、適当に置いてあった雑誌を手にしている。俺は目黒に気付かれないように短くため息をついて、再び肩を落とした。

「………」

ちらりと盗み見た時計は約束の時間5分前を指している。彼が来たら、どうすればいいんだろう。もし彼が来てくれたら、今日はお互いにとって特別な日になるはずなのに。

それとも、彼は来ないだろうか？

ぐるぐると胸に渦巻く不安をかき消すように俺は首を振った。

「阿部ちゃん、時間大丈夫？」

「え…？」

そうして、待っていたのは最悪の結末だった。

「来た時言ってたでしょ。用事あるって」

と、目黒が言ったのは、約束の時間をとうに2時間も過ぎてからだった。俺は再度時計を確認してからまつ毛を伏せた。

彼は、来なかった。俺たちはもうこれで終わってしまった。もう、やり直せない。

彼が来なかったら俺は泣いてしまうんじゃないかと思っていたけれど、なぜか瞳は乾いていた。第三者の目黒が目の前にいるからだろうか。

俺は次第に、もうどうにでもなってしまえという気になってきた。

彼のことが、どうしようもないくらい好きだった。

彼がいないのなら、彼が俺を好きでないのなら、何もかもどうだって良かった。

「阿部ちゃん？」

隣から目黒に肩を叩かれてハッとする。

「…あっ、めめもうお茶ないじゃん。なにか飲む？」

慌てて立ち上がり、取り繕うように笑うとキッチンへ向かいながら目黒に尋ねた。

「用事、今日じゃなかったみたい。勘違いしてたわ。めめ、ゆっくりしてっていいよ。夕飯一緒に食べる？　あ、そうそう、CMやったチューハイいっぱいあるから飲んでってよ。お前、お酒甘いのいけたっけ？」

くるくると、よく口が回る。自分でも不思議なくらいだ。本当はどん底くらい落ちてもおかしくないはずなのに、どこかハイな気分になっていた。

「低アルだから物足りないかなぁ…っ」

冷蔵庫から取り出した缶を確認していると、不意に後ろから抱きすくめられた。

背筋を這うような、予感。

「めめ？」

「阿部ちゃん、こっち向いて」

「…んっ」

腰を引き寄せられて、そのまま首筋に口付けられる。突然のことにびっくりしながらも、啄むようにいくつもキスを降らせてくる目黒の唇に、俺は小さく震えた。

「やっ、やめろ…って」

身を捩って抵抗を試みるも、目黒は諦めることなく頬や顎、シャツの襟から覗く鎖骨や首筋にキスを繰り返してくる。

いつもされていたのとはまるで違う口付けに、ふと彼を思い出す。でも、どれだけ願ってももう、彼がキスをしてくれることはなくて。

「んん…」

考えていると、唇を目黒のそれで塞がれた。すぐに滑り込んでくる舌。背中を抱き、腰を撫でる手のひら。

腕を突っ張って抵抗してみるけどやっぱり目黒の力には敵わなくて、すぐに諦めた。

ああ、もう、どうでもいい。

彼に愛されていないのなら、もう、何がどうなってもどうでも良かった。

「阿部ちゃん、ソファ行こ？」

耳元に甘く囁かれて、俺は小さく縦に首を振ったのだった。

ソファに座った目黒の膝に向かい合って跨ると、その首に腕を回し、深い深いキスに舌を差し出して応える。

「ん…っ、ん…」

着ていたシャツのボタンは外されて、露わになった肌を辿る指に背を反らせる。

目黒は何も言わない。目黒が何を考えているのかなんてわからなかったし、自身自分の考えていることさえわからなかった。俺たちはただそこにある快楽を追いかけた。

「あっ、めめ…っ」

目黒の柔らかい舌先が鎖骨を這う。胸を辿っていた指が、熱を上げ芯を持った俺のそこに絡まる。片足にだらしなく引掛かったままのジーンズがもどかしい。

「阿部ちゃんて感じやすいの？　それとも、誰かに開発された？」

「んん…」

俺の欲望を包みこんだ手のひらを上下に動かしながら言う目黒の唇を、俺は夢中で塞いだ。

何も聞きたくない。今は何も言わないで、ただ、もっと感じさせて欲しい。

「め、めっ…俺、もう…っ」

ぎゅっと目黒にしがみつき、絶頂を感じる。ひくひくと喉の奥が引きつる。一瞬真っ白になった意識が、やがて冷静さを取り戻し始めた。

はあはあと肩を揺らして息を整えながら、俺は顔を上げ、虚ろな瞳で目黒のことを見つめた。目黒も恍惚とした目でこちらを見つめ返してくる。そうやってしばらく見つめ合ったあと、どちらからとも言えない何度目かのキス。くちゅくちゅと音を立てて舌を絡めながら、また目黒の首に腕を回す。

その時、ガチャリと音を立てて背中でドアが開いた。

「んっ…？」

俺はビクッと肩を震わせて振り返り、そして凍りついた。

「阿部…？」

「…ぁ、ひか…る…」

どうしてどうしてどうして？　頭が混乱する。どうして、今、彼がやってきたのだろう。

どうして？

約束の時間はとっくに過ぎているのに。

「それが、お前の答えってこと？」

自嘲気味に笑う照の顔を信じられない気持ちで見つめながら、俺ははだけたシャツの前をかきあわせた。

思考が砂嵐のようにぐちゃぐちゃになって言葉が出てこない。

どうして？　だって、約束の時間に彼は来なかった。俺はもう、俺たちはおしまいなんだって、そう思ったから。だから…

「っ、ひかる…、待って」

俺はやっとの思いで声を絞り出したけれど、時は既に遅く。目の前に照の姿はなく、閉まった玄関の向こうからはガシャンとボトルか何かが割れる音が聞こえた。

「や…やだ…、待って…っ」

すぐさま追おうと立ち上がった身体を抱き締められる。伸びてきたその腕に抵抗すれば追いかけられたのかもしれなかったけれど、俺は全身から力が抜けていくのを感じた。

「ダメでしょ、阿部ちゃん。こんなんで行ったって」

耳元で目黒の声がする。

どうして？　どうして行ってはいけないんだろう。今は、照を追わないと、いけないのに。

頭ではそう思うのに、身体はピクリとも動いてくれなかった。目黒は低い声で続けた。

「だって阿部ちゃんはさ、岩本くんを裏切ったんだから」

言われた瞬間、鈍器で頭を殴られたような感覚に襲われて、俺はぐらりとその場に崩れ落ちた。否、崩れ落ちそうになった身体を目黒に抱き止められた。

「ああ、そういえば…」

目黒が時計を指差して言った。俺も、つられて時計の方を見やる。俺の視界はゆらゆら揺れてほとんどまともな景色を映してはいなかったけど、時計がカチコチと規則正しく時を刻む音があたりにこだましていて、その音が耳にこびりついていた。

そういえば…、何？

「あの時計壊れてるよね。時間が違う」

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201

7件

💛💚ーー😭😭😭でも🖤💚かぁ…難しいなぁどっちも好きだから笑

色々無理があるので、お遊びの設定と思って読んでいただけると🙏 何かあるとすぐ別れがちな(?)うちの💛💚…😂 💚さんのおうちの素数時計では誰もちゃんと何時なのかわからなそうですね笑

kino

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