コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「太刀川先輩と浦川先輩、仲良いね」
「まぁ付き合ってるからね」
先輩方の背中を見ていた私を置いて、スタスタと歩き始める瀬南くん。
「そうなの?!」
「見てて分かんないの?」
「え、分かんなかった」
「はぁ…想像通りの鈍さだね」
何でそんな言い方…あれ?いつもより瀬南くんの声が低い気がする。それに普段なら時折こちらを気にかけてくれて、目が合うことがあるのに今日は会ってから一度も視線が合わない。
「会って数分だし、分からなくない?」
「あれで恋人同士だって気づけないなんて相当な鈍感だとしか思えない」
いつも辛辣だけど、今日はなんか態度も口調もかなり冷たい気がする。
「仲良しだなっていうのは気づいてたよ」
「五十嵐はそういうのに疎すぎるんじゃないの」
怒ってる?私知らぬ間に瀬南くんの地雷踏んじゃったのかな…ていうか、歩くの早くて隣に行けないし、いまだに全く目が合わない
「人のことは、結構見てるつもりだけど」
「そんなんだから、必要以上に絡まれたりして自分の首締めちゃってるんでしょ」
何で今日こんなにイライラしてるの?
待って、待ってよ。
近づいた距離が離れていくのは嫌だ
歩くのじゃ追いつかなくて駆け寄って、彼のスクールバッグの紐を握る。歩くスピードが早い彼の身体が反動で少し後ろに引っ張られるような形になった。
「っ…ちょっと、そんな強く引っ張っ」
「置いてかないで」
ようやく目が合った彼は私の顔を見た瞬間、口を噤んだ
「………」
「瀬南くんに置いていかれるの、すっごい嫌だ」
「離して」
「………」
「ちゃんと、隣歩くから」
手を離すとスクールバッグを持ち直して、私の隣に来てくれた。
「これでいい?」
「…うん」
「行くよ」
私の歩くペースに合わせて瀬南くんは歩いてくれている。
いつもみたいにスクールバッグの紐を掴んで歩く気にはなれなくて、瀬南くんの不機嫌はどうすれば直るのかな?なんて考えていたら、沈黙の時間が数分流れた
「…………」
「’はい’か’いいえ’で答えて」
「え?」
真っ直ぐ前を見て歩く瀬南くんに唐突にそんなことを言われた。
「他人から自分がどう見られているのか気になる」
「…はい」
「人に頼られると嬉しい」
「はい」
「人に何か頼み事をされると断れない」
「はい」
「頼まれ事を断ったら相手はどう思うんだろうと考えてしまう」
「はい」
「自分で決めるのが苦手で相手に決めてもらう事が多い」
「はい」
うわ、全部’はい’なんだけど何だろうこの質問…
「まぁ分かってたけど、やっぱりお人好しで利他的だね」
「お人よし…利他的…」
「自分より他人を優先しようとすること、多いんじゃないの」
相変わらず前を向いていて全く視線は交わらないけど、声色は冷たく突き放すようなものではなくなっていた。
「そう、なのかな?」
「もうちょっと自分のこと大切にしてあげなよ」
「自分で言うのもなんだけど、充分自分には甘いと思うんだけども」
「嫌だ。いらない。こうしたいって自分が思ってる事、ちゃんと言葉にして行動出来てんの?」
ふいに自分の目を真っ直ぐ見つめられて問われると、その質問に答えられない自分がいて目線を下げてしまう。
「探し物に関しては、よっぽど執着してるのか自分に素直だけど、それ以外は基本受け身で相手合わせ」
「………」
「自分の気持ち、ちゃんと口にしなよ」
「………」
「…嫌なら、嫌って言いなよ」
「瀬南くんには私がそういう風に見えてるんだね。これからはもう少し自分に正直にな…」
「っ!!…バカッ!!」
突然手を掴まれて後ろに引っ張られる。聞き慣れない瀬南くんの焦っている大きな声に俯いていた視線を上げる。
「何考えてんの?!前見て歩きなよ!!信号見えてないの!?」
歩行者の信号に目をやると赤色に光っていて、何台もの車が私の目の前を横切っていた。
けれど、私はそれよりも
「ほんっと、危なっかしすぎ」
彼の冷たい手のひらが未だに私の手を力強く握ってくれていることに意識を持っていかれていて、言葉が出てこない。
あれ、ますみんと手を握って歩いた時も水島くんに手を掴まれた時も普通に会話できてたし、こんな顔が熱くなるような感じはなかったのに
「僕の声聞こえてる?」
「……うん」
声を絞り出して返事をする。
今この心臓がドキドキとうるさいのは、一歩間違えたら死んでいたかもしれないから?
それとも、瀬南くんに手を握られているから?
この手を握り返したら、瀬南くんはどんな反応をするんだろう。
「………あ、ごめん 」
私が握り返そうとする前に掴まれた手がゆっくりと離れていく。ほんの少し、何だか寂しいような変な気持ちになる。
「ううん」
やばい、今顔上げたら変な顔見られちゃう
「…鞄の紐掴んでていいから、ちゃんと僕についてきて」
「うん、ありがとう」
スクールバッグの紐を掴む。今私の隣にいるのは声も態度も冷たくない、連休に外へ連れ出してくれた時の瀬南くんだ。