そして別室に通されてから3年の時間が流れた。流れてしまった……
最初は最近忙しかったしゆっくり休んで疲れを取るか、と思えていたのは2・3日程。
スマホなし・ネットなし・暇潰しできる要素皆無の蟄居状態は現代日本人の精神を酷く蝕んだ。
遂に限界を迎えた俺は話し合いの様子を覗きに……
行くとかいう見え透いた死亡フラグを蝶☆華麗にスルーして、黄泉の国に響き渡れと言わんばかりの勢いで
花ちゃんを呼んだ。
……おかしい。黄泉侍人の子の足音はトコトコだったと思うんだが、今聞こえているのは、
ドシーン、ドシーン、ドシーン……
な、なんかまた 悪い予感がしてきたのぅ……(松尾並感
「貴様が……名前を呼ぶなと、言ったじゃろうがあああああああああ!!!!!」
ちいさな身体に見合わぬ剛力で大岩を担いできた花ちゃんに追い回される事1時間。
「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ。お、落ち着いたかな?」
「ふん、投げれる岩が尽きてしまったか。運が良いの。見逃してやるわ」
クリーンヒットは無かったけど、肩に掠って辞世の句を意識した事は事は何度か。
「で、何の用だったんじゃ。大神様方の話し合いはまだ続いておるぞ?」
「うん。まずは、その”大神様方”に関して聞きたかったのと、折角だから他にも色々と話が聞けたら、と思ってね」
「ふむ、ならば私より書士方の皆様の方が詳しいぞ。手の空いている方がいらっしゃらないか声を掛けてみるから暫く待って居れ」
「あともう一つ、頼んでばかりで申し訳ないけど、幟旗を一つ作りたいんだけど、材料を用意してくれないかな?」
「幟旗?棒と紐と布、後は墨と筆でいいか?」
「うん、それだけあれば十分かな。現世に帰った後お礼はするからよろしく」
「相変わらず変な事を言うのう?霊が現世に帰るのは己の業を濯ぎ落し、魂が前世の諸事を忘却した後に生まれる命を割り当てられて初めてここを出ていくのじゃぞ?」
死んでいないとあれほど(ry
しかし、花ちゃんでさえ死後の世界の魂の加工工程とか言うエライ爆弾情報を持っているとは。ボーッと過ごしているのは悪手だな。
どうせ話し合いの結果、試練を受けてもらうとか謎展開になるんだろう?俺は詳しいんだ。
そんでもって、試験の内容は二人の内、どちらが本物でshow!!!とかなるんだ。お約束ってやつだな。小説家になれよで見た。
正しい回答、あるいは理想の回答を選択肢に出すためにはフラグを立てなくちゃならんのだろうし、その為の情報収集ならコミュ障程度何だというのだ。
それはそうと、酒場で酒を奢れば情報が聞けるシステムの導入が切実に望まれる……orz
今後の動き方を考えながら思考錯誤している内に花ちゃんが帰還。戦利品として、幟旗の材料と、謎のお姉さんを持ち帰ってきた。
「え、花ちゃん。幟旗の材料はともかく、こちらの女性は……?」
まさか、暇潰しに女を宛がおうと……!?いや、それは…困る。(童貞並感
「何を変な顔をしておる。こちら書士方にお勤めになられる紫様じゃ。無礼の無いようにな」
紫……!?女性で紫って……
「初めましてお目に掛かります。私、藤原香子と申します。……ご存じのようですので、紫式部でもいいですよ?」
そう言うと悪戯っぽく微笑む紫式部……否、香子さん。
あかん、この人読子先生と同じや。関わったら性癖がゆが、歪む……はっ俺は今何を……
「私は、小野麗尾 守です。この度は急な御呼び立てにお応え頂き大変に恐縮です」
「いえ、丁度仕事も一段落しましたから。それで、お話が聞きたいという事でしたが……
源氏物語の続編についてでしょうか!?ええ、実は構想1200年掛けた予定巻数150巻程の大作となりますが、既に原案は……」
ステイ。それはそれで気になりますが、今回は別件なのです。
「そうなのですか……これが、ションボリという情感なのですね……」
そう言って泣きそうな表情をするのはズルイと思います!!!
「そちらのお話はまた後日改めて……」
「はい!それでは私、構想を纏めた資料等を用意しておきますので、ご都合が付きましたら、是非!!!!!」
そんなこんなで話を聞きだすまでにひと悶着あったものの、キーワード”常世の成り立ち”と”常世の神々”の情報を入手。
古事記の裏読みした積もりが、リアリティパイセンに右ストレートをキレイにぶち込まれた気分に。
いかん、気分が……
「あの、大丈夫でしょうか?」
不安げに聞いてくる香子さんに、
「ハイ、ヨロコンデー!!!!!」
「キャッ!?」
不安にさせてはイカンととりあえず声は出してみたが、イカン、これでは別の意味で(情緒)不安な人に……
「すみません。思っていたより酷い話だったので」
「そうですよね、私も最初に話を聞いた時はまさかと」
しかし困った。聞いた話では2択問題が出た時の決め手になるような部分が今一つ。
花ちゃんを始めとした黄泉侍人の子らに聞き込みするのもいいが、まずは、幟旗を作るか。
千学万来、求師匠、と。神話の追及は大切だけど、失われた知識とか技術を習得する唯一絶好の機会だしなぁ。
そんな事を思っていた時期が俺にも(ry
作った幟旗を門の外に立てた翌日、千どころか万でもなく億単位の死者の行列を見るまでは。
最初の一人が魚屋の田中さんでお茶教室だったのはまだ幸いだった。
ごめん。
嘘ついた。
今死ぬほどポンポンペインフルだわ。
食中毒的な意味でも黄泉竈食的な意味でもなく。
待って。千利休(タナカ)さん待って。
貴方程のお茶会のレジェンドがド素人にカルチャースクール感覚でお茶教室開かないで!?
作法はおろか、所作も心得ぬ無作法者だから!?
その後も現代までに途絶えた○○流剣術・槍術・弓術・武術等々etcetc……
そられとは別に初対面で槍で人の畜生腹ぶち抜いてきた森君は絶許。
お返しに払暁奇襲仕掛けて木槌でド頭カチ割って来たからノーカンにするけど。
そんなこんなで3年が過ぎ、田中師匠と設立予定の小野麗尾興業の名物”冥土の土産”の開発を計画していると、遂に呼び出しが来た。
呼び出された先では、伊邪那美神が居て、大きな座敷があり、座敷の奥には、御簾で区切られた空間が2つある様に見えた。
「待たせたな。黄泉の神々で話し合った結果、汝が黄泉醜女を連れて行くのであれば、試練を受けてもらうことになった。
見事試練を越えたのならば、黄泉醜女を連れて行く事を許そう」
ふむ、神々と言いながら、この場にいる神は伊邪那美神様とおそらく黄泉醜女のみ。そして”許そう”という言い方……
やはり、情報収集をしておいて正解だったな、これは……
「分かりました。それで、試練とは何をすれば良いのでしょうか?」
輝夜姫系のお使いクエストは勘弁してほしいが。
「うむ、試練の内容だが、こちらにいる2中の神の内のどちらが黄泉醜女であるか見極めて「二人とも、です」もらう……」
「どちらが蛭子様で淡島様かまでは存じませぬが、黄泉醜女とは推察しますに二柱で一柱の神であらせられると存じます。故にお二人とも黄泉醜女様であると答えさせていただきます」
「ふむ。話をするくらいは認めるつもりであったのだが。即答とはの。本当にその答えでいいのか?」
「はい、恐れながら話は常世におわせられる皆様方にお聞きさせて頂いておりますれば」
1億人と2千柱神から聞ーきー出ーしたー8千人過ぎた頃からもっとコミュ障になりーかけたー
「ほぅ、それはそれは……では二人共、この男と契りを結ぶという事で良いのかの?」
あれ~?何か言い方、言い方!?
「はい、お母様が御認めになられた方であれば、私に不服など……」
「お母様が認めても私はまだ認めていないからね!
調子に乗って姉様に手を出そうもんなら平坂と閻魔審判スッ飛ばして地獄送りにするから!!!」
何か儚げな声音で粛々と受け入れてしまう推定:姉(蛭子)と、
シスコンチックな妹様(淡島)。
待って(震え声)
「おや。二人共私の自慢の娘なのだが、婿殿には何か不満でも?」
よもやなぁ?よもやなぁ?と煽ってくる義母(希望)(伊邪那美神)
「お待ちあれ」
マジお待ちあれ(真剣)
「古き時ならいざ知らず、昨今の習わしでは契りを決めるは家にあらず、当人の意思が最も尊ばれる物なれば。まずはお互いを知り交流を深め、長い時を共にしていけると信を置く事適わねば」
だから本契約じゃなくて仮契約からどうかな、と……
「やはり、私の醜さがお嫌なのでしょうか」
推定:姉(蛭子)からボソリ、と。
「蛭子様、私は現代の現世にて醜き者として扱われてきたため、貴方様の苦悩が少しは分かる、とはとても申せません。
少なくとも父親に生まれた瞬間に醜い者として葦船に乗せて海に流されるような事も無かった者がその悲哀を理解できる、とはとてもとても。しかし、この小野麗尾 守、貴方様のその御心の尊さは存分に承知しているつもりです。
この地に来るときに見た黄泉平坂、あれは葦船が渦潮に飲まれた時に貴方が現世で最後に体験された常世への黄泉路のイメージ、死者の魂が迷わない様にと、下りの螺旋坂を作られた、と。坂の下の御勤め所とは、死者の魂を歓待し、慰める場所であるとも。
そして黄泉の国。此の地こそが貴方が神として国生みを為された地。
大地無き虚空に貴方の身体の皮を剥ぎ広げて地の底として、その御身を千切り大地を成し、心の臓を燃やし太陽とした貴方が全ての死者の、そして次に来るであろう妹の為に用意した国。
おお、時よ止まれ!
我が声よ3千世界に響き渡るがよい!!!
誰よりも辛く苦しい目に逢いながらも、誰よりも優しく、そして美しい心を持つ神、
黄泉大毘売命(ヨモツオオヒメ)に生きとし死せる全ての者より祝福があらんことを!!!!!」
正直、ノリと勢いで言い切ったが、途中から自分が何を言っていたか憶えが無い。
目の前に推定:姉(蛭子)ちゃんが走ってきて俺の胸元に縋りついて泣きじゃくっているんだが。
おっかしいなぁ。泣かせたくない一心で頑張ってみたんだが。
妹様(淡島)はひとの頬を拳でグリグリするのをやめなさい。
伊邪那美神はニヤニヤしながら若いってええのう、とかぬかしおる。
そして遠くから花ちゃん達が御膳を運んできて大宴会が始まった。
困ります!!困ります!!お客様!!困ります!!あーっ!!困ります!!お客様!!あーっ!!お客様!!お客様!!お客様困り!!あーっお客様!!困りますあーっ!!困ーっ!!お客困ーっ!!困ります!!困り様!!あーっ!!お客様!!困ります!!困ります!!お客ます!!あーっ!!お客様!!
宴席に乗り込んできた戦国フリー素材最大手様にSAKEを勧められたり、
推定:姉(蛭子)ちゃんが人の膝に頬擦りして「旦那様……」と呟いたり、
妹様(淡島)に「新しい身体はどんなのが良いか」(本人の体は常世入りした時に姉に譲っていた(本人曰く、それしか姉上に譲れる物が無かったからとか))と聞かれたので、
「日本全国17歳女子高生の平均値でお願いします!!!!!」
と躊躇いなく回答したらとんでもない美女が顕現したり、酔っぱらった伊邪那美神が、
「何が吾の余りたる部分を吾の不足したる部分に合わせて国生みせん、じゃ。吾の女陰を埋めるに全く足りず、
余っていたのは皮ばかりだったではないか」
うん、聞いちゃいけない事を駄々洩れしてる。
飲んだ事の無かった酒を食べ慣れた……食べ慣れてしまった黄泉竈食をツマミにチビチビと飲んでいたらいつの間にか眠っていて、目が覚めたら白須等神社の契約の間だった。
鬼の貌で伊邪那岐を追いかける黄泉醜女のカードが、白無垢を着た姉妹の黄泉大毘売命の契約済みカードに変わり、
翌日、俺は全国紙の新聞とテレビデビューをする事になった。
-———————後書きリターンズ————————————————————————
初めて古事記読んだ時の疑問点
黄泉の国は誰が作ったの?
黄泉の国の神々って誰?
黄泉醜女ってどこから来た(出た)の?
作者が捏造した回答
黄泉の国は誰が作ったの?
→最初に死んだであろう神(蛭子神)
黄泉の国の神々って誰?
(蛭子・淡島・伊邪那美
黄泉醜女ってどこから来た(出た)の?
→黄泉醜女:黄泉で一番強い女神
と伊邪那美視点で解釈すると、伊邪那美以上の力の持ち主
→俺屍的解釈:神の子
→蛭子・淡島
→黄泉醜女:黄泉にいる醜い鬼女
と伊邪那岐視点で解釈しても、醜い形相で追ってくる捨ててとっくにくたばった筈の出来損ない
→蛭子・淡島
と言う感じで捻くれた解釈をしています。
異論・珍説があれば参考にさせて頂きますので是非ともご感想を。
民俗学・神学的見地からの知見もお待ちしております。
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