テラーノベル
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塾の一角、教材庫の裏手にある小さなベンチ。 そこは、塾生があまり立ち寄らない“隠れスポット”だった。
今日の授業は終わっていたけれど、らんはすぐには帰れなかった。
理由はシンプル。家に帰る勇気が、まだ湧いてこなかったからだ。
風が強くなる前に、と制服の上にカーディガンを羽織ったとき――
🎼📢「いた」
その声に振り返ると、塾の裏口から出てきたいるまが、少し息を切らせていた。
🎼🌸「……なんで、わかったの」
🎼📢「お前がいそうなとこ、もう覚えた。……サボり魔」
冗談めかして笑いながらも、その声はやさしくて、あたたかかった。
らんは少し目を伏せて、ベンチの隣をぽん、と叩いた。
🎼🌸「座っていいよ」
いるまは無言で隣に腰を下ろした。
少しの間、言葉はなかった。
静かな時間が、風と一緒に流れていく。
🎼📢「なあ、らんってさ」
不意に名前を呼ばれて、らんは息をのんだ。
🎼📢「ちゃんと名前で呼ばれるの、久しぶり?」
その問いに、らんは――小さく、でも確かに頷いた。
母は“あんた”、父は“おまえ”としか呼ばない。
双子たちは名前を呼んでくれるけど、それは兄としての“役割”にすぎない気がしていた。
でも、今。
この人は、まっすぐに、ただ“らん”という存在を呼んでくれた。
🎼🌸「……なんかね、忘れてた。自分が“名前”持ってるって」
🎼📢「それは……さすがに忘れすぎ」
🎼🌸「ふふ……でも、ほんと。いるまが呼んでくれて、なんか、思い出した」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
ぽろりと涙がこぼれたのに、驚きすらしなかった。
これが――“守られている”ってことなのかもしれない。
🎼📢「らん」
もう一度、名前を呼ばれた。
今度は、そっと肩を抱かれる。
🎼📢「……お前が“いなくなってもいい”なんて、誰が言ったよ」
らんは小さく嗚咽を漏らした。
誰かに名前を呼ばれただけで、こんなに涙が出るなんて。
生まれて初めて、自分が“ここにいていい”と思えた気がした。
コメント
1件
エピ名?最高(*´∇`) この作品切ない感じが好き✨