テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ところでお前、藤原君のどこが好きなの?」
カウンターに肩肘をついた谷口が、さきイカをもしゃもしゃ頬張りながら聞いた。
谷口……俺の話、真剣に聞く気あるの?
「それはもちろん可愛い所」
「外見かよ。だから嫌われるんだぞ」
確かに、最初に祐希を見た時はそうだった。
小柄で可愛らしい顔。俺のタイプ。
でも――
「見た目だけで好きになったわけじゃないから」
◆
毎年恒例、新入社員の教育係に任命された俺は祐希に不安を覚えていた。
「――……ったぁ」
背後から呻き声と共にバサバサバサッと紙の束が散らばる音がした。
振り返ると、転んで床にへばる祐希と目が合った。
「藤原君大丈夫!?ケガはない?」
「……はい、大丈夫です……」
足がもつれて転んじゃいました……と散らばる書類を拾いながら恥ずかしそうに祐希が答えた。
足ってもつれる事あるの?藤原君はおっちょこちょいだなぁ……可愛いけど。
祐希は何もない所でよく転ぶ。おまけにこの間は、給湯室で紙コップに注いだお湯を盛大にぶちまけていた。
「藤原君大丈夫!?火傷してない?」
「はい、すみません……」
コップが思いの外熱くて……ビックリして手を離しちゃいました。と祐希は俯きながら答えた。
天然なのか、ドジなのか、何だか危なっかしい。
おかげで目が離せないよ、おっちょこちょいの藤原君。
2年前に担当した服部さんを思い出すなぁ……
服部さんは祐希と同じくおっちょこちょい。
彼女も何もない所で転ぶし、物もよく落とす。というか失くす。
仕事のミスも多い。データの数値が一桁多かったり少なかったり。何度注意したことか。
祐希は服部さんにおっちょこっぷりが似ている。
服部さんの再来か?藤原君も仕事のミス多そうだな。なんて初めは思っていた。
しかし、そんな俺の不安とは裏腹に祐希は仕事が出来た。
データは正確。ミスも無く、何なら見やすくまとめられている。
おっちょこちょいはみんな仕事が出来ないと思い込んでいたが、出来るおっちょこもいるんだな。と祐希を見て考えを改めた。
「先輩これ、頼まれてた分です」
「ありがとう。藤原君の書類はミスも無いし見やすくて助かるよ」
労いの言葉をかけると、祐希ははにかんだ笑顔を見せた。……可愛い。
「――あれ?藤原君、その指どうしたの?」
祐希の右手の人差し指と中指には絆創膏が貼られていた。
「そこの通路で転んで、散らばった書類を拾ってたら紙で切っちゃいました」
また転んでる!おっちょこ藤原!
「ちゃんと前見て歩いてる?」
「歩いてますよ。先輩、失礼ですね」
「藤原君って仕事以外はおっちょこちょいだよね……」
「分かってます」
自覚あるんだ……
「僕は普段ドジなんで、仕事の時はドジが出ないように気をつけてるんです」
ドジって周りの人達に迷惑かけちゃうから。
祐希は少し申し訳さそうに笑った。
藤原君は健気でひたむき。周りに気を使い、迷惑をかけまいと一生懸命。
――良いな。
「……可愛い」
「……?先輩、何か言いました?」
「ううん、何でもないよ」
祐希は小首を傾げ、きょとんとした顔で俺を見ていた。
可愛いなぁ……庇護欲そそられるんだよなぁ……
「藤原君にお願いがあるんだ」
「はい、何ですか?」
純粋で真っ直ぐな視線を向けてくる祐希に、俺は告げた。
――俺と付き合って
◆
「――なるほど。普段ドジで間抜けな藤原君が仕事ではきっちりしてて感動したわけね」
ギャップにやられたのか。と谷口はしみじみと呟いた。
「藤原君が好きならもう少し夜は控えてやれよ。嫌がってるだろ」
「え〜、あんなに悦んでるのに?」
不平を述べると谷口にバシッと頭を叩かれた。
「いたっ!」
「うるせぇ、性欲の化け物が。藤原君と仲直りするまでお前はうちの店出禁だからな」
谷口は俺の顔をビシッと指差した。
「別に良いけど。俺、来週から1ヶ月アメリカ出張だし」
「そうかよ。ならちょうど良かった」
1ヶ月間、禁欲生活送ってしっかり反省してこい。と谷口は再び俺の頭を叩いた。