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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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冬の恋風、白い息を吐いてそれを感じる。

私を冷やす出来事が起きてしまった───。




























































『足跡』




















私は生まれた頃からありとあらゆるものをもっていた。









容姿や財産、名誉、権力、才能。









要らないと思ったものは全て分け与えられ、要ると思ったものは手に入らない。









きっと今もそれを感じ取っていた。










「幸、今日は寄りたい所あるんだが一緒に来てくれないか?」









首に白いマフラーを巻いて私の方を見つめる彼。









「勿論いいよ」なんて言葉は出ず、どう話せばいいか羅列が上手く回らなかった。









「え、う、うん。いいよ。今日は塾も家庭教師も無いから。」









「ありがとう、俺を分かってくれるのはお前だけみたい。」









彼は雪が溶けるような笑顔をしてまたどこかを見つめる。








その見つめる先が私では無いことを、私は知っていた。









だがこれ以上求める事は出来ない。









恋人ではないのに恋人繋ぎをして恋人のように笑って恋人のように甘い言葉を掛ける。









これで私の役目は全うしている筈だから。









「本当は私でない誰かを好きなくせに….罪な人ね。」









小さく呟く。









「え?なんて言った?ごめん、聞こえなかった。」









「…..門限があるから急がないとって言ったの。お母様、私に対してだけは過保護だから。」









「あー、確かに幸の母さんは、幸のお兄ちゃんとかお姉ちゃんより幸を溺愛してるよな。俺は一般家庭とそう変わらないけど。」









「ふふ、何言ってるの。貴方の家も充分立派なお家柄じゃない。今だって周りの女の子達が貴方を遠くから見ているわよ。」










「それは幸を見てるだけじゃ….まぁ、早く行こうぜ。早くしないと怒られちゃうし。」









怒られるということに私は疑問を覚えた。









誰かが彼と知らぬ内に知り合いになっていたということなのだから。









唇を噛んで、携帯を見た。









通知には母からの連絡と、兄からの電話。









彼に嘘をついて怒られても私は満たされるからと、ずっと通知音をoffにしてしまっていた。









今日だけは嘘をついたっていいのだ。









彼だって私に嘘をついて隠し事をしている。









息を吐くと色が白く、雪のように見えた。









「今日は寒いよなぁ、東京は滅多に雪が降らないからこれはこれで嬉しいけど。しかも雪って幸と同じ名前だしラッキー。」









彼の傷つける言葉が心にナイフのように刺さる。









もがき苦しみたいのに彼の前だとそれは出来なかった。









「漢字は違うけどね。結城だって似てるわよ。ゆうきと、ゆき。ほんと、私達運命みたい。」









「運命は二人の人がいるから、まだわかんないよ。」









運命の言葉を濁されてしまった。









運命が欲しくて欲しくて堪らないのに、彼はそれを眼中にすらない。









ナイフより痛いこの感情を私はどこにぶつければいいのだろう。









涙目を浮かべてそれと同時に笑顔も浮かべる。









感情を直隠すようにして。









「あ、ここだよ。寄り道する場所。」









指を差し、それを示した。









それは沢山のお墓だった。









東京の中に小さく縮こまりながら存在するお墓。









その中の一つに向かって彼は歩いて行った。








一つのお墓の前へ行き、彼は体勢を崩ししゃがみこむ。









「永久、遅くなってごめん。今日は雪だったから早く来れなかったんだ。それで、俺の隣にいるのが幼馴染の来栖 幸って言うんだ。」









「はじめまして。来栖 幸です。」









お墓には『相笠家之墓』と彫られており沢山の花束が添えられている。









カーネーションやアイリス、ユリなど多種多様な花束があった。









この相笠さんという人はこれ程までに愛されていたのだと実感した。









だから彼にも愛されていたのだろう。









相笠さんはどんな人だったのだろうか。









彼のように活発な人だった?









それとも私のような内気な人だったのか?









私には無いものを彼女は持っていた。









心底羨ましいと小さく思ってしまった。









「永久、幸は凄いんだぜ。大会やコンクール、出たもの全部金賞や優勝をとるんだ。きっと永久も友達になれるはずだよ。」









「ふふ、そんな褒めても何も出ないわよ。ところで、永久さんはどんな人だったの?」









「うーん….」










数秒考えた後、彼は口を開いた。









「素敵な人、….かな。」









「そ、そうなんだ….。」









笑えないぐらいのきつい思いが私を包む。








私と恋人ではない理由が明確となってしまった。








きっと、彼と相笠さんは永遠と恋人なのだろう。









私はただの幼馴染だから手を繋ぐような事はしても、それを越える事はしてくれない。









考えなくてもいい事を都合悪く考えて、私は一粒の涙を流す。









「相笠さんは…結城にとても愛されていたのね。」









「うん、愛してる人だから当たり前だよ。あの時助けられていたら生きていたはずなのに。」









私よりも数多の涙を流す彼を私は放っておけなかった。









思いっきり抱きついて、私も涙を流した。









「大丈夫、相笠さんはそんな事思ってない。むしろ誇りに思ってる。だから元気を出して、結城。結城が元気じゃないとこっちまで泣く羽目になるんだから。」









「ごめん….ありがとう、幸。」









「ほんと、いつまでも貴方は馬鹿ね….。」









彼の背中を叩いて、私は立ち上がる。









「帰ろう、結城。門限過ぎちゃう。」









「うん….また、来るね。永久。」









振り返って私達は指を絡めて手を繋いだ。









幼い頃からの友情の証。









それが途切れる事はきっと無い。









永遠に、彼と私は幼馴染であり、一番の親友である事は変わらない筈だ。









「相笠さんと私も会いたかったな…。一度でいいから。」











「ダメだよ、永久は俺だけの永久だし。」









「うん、知ってるわよ。貴方が愛した人がどんな人か気になるってだけ。」









「そっか、今度来てやったらどうだ?」









「そうだね。」









桜の季節が訪れるように肩にのった雪が溶ける。









そして雪の恋風を感じて、私を暖かくしてくれた。

































































「永久さん、遅くなってごめんね。道が混みあってて。結城はまた明日来るみたい。」









桜が舞い散る季節があの時から三回程来て、その度に私は此処へ足を運んだ。









花束の添えられる数が多いほど、春の訪れを感じてしまう。









嬉しい半面、悲しさもある。









それを弾け飛ばすかのように私は永久さんと話した。









最後に花束を添えて、私はお墓から立ち去る。










肩にのる桜の花びらを取り、それを見つめながら。









「今日と明日は寒いのね。結城、大丈夫かしら。」











































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