テラーノベル
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プロローグラストコール五時間前の午後九時。事件がひと段落し、バーは賑やかになっていた。道化師に貴婦人、子供までいる。僕は、バーテンダーとして酒をつくる。その隣で同じくグラスを手にしているのは、もう一人のバーテンダー、ベル。
「ベル、君は客と話していて構わない。あとの仕事は僕がやろう。これほど賑やかな日は珍しいしな。」
彼女は僕の言葉に少し驚くと、少し空けてから頷き答えた。
「ええ、分かったわ。」
彼女は笑顔で答えると、僕の目の前のカウンター席に座る。
「ベル?」
「今日ほど珍しい日はないわ。貴方も今日は仕事のことは忘れて、楽しまない?」
「いや、僕は……」
「……釣れないひとよね。」
「しかし………。………っ!!」
その瞬間、僕はネクタイを掴まれ引き寄せられると、彼女の唇に言葉を塞がれた。三秒、いや五秒ほどのキスをしてきた。そして、彼女は手を離し席に座った。
「ベル……?ど、どういうつもりだ。」
「……まだわからないの?今夜は私、バーテンダーでじゃなく客になってもいい?ワインを飲みながら、貴方と話したい。」
「………………え、ああ、構わない。」
幸い、あの一瞬の出来事を見ている人はいなさそうだ。見られていても、みな酔っているので気にしてこないだろう。
そして、ドアがカランカランと音を立てながら開くと、中に新しく二人入って来た。
「アンディ!それにレイドも!」
ベルが声を掛けると彼らは笑顔でこちらに手を振った。アンディとレイドだ。三十分ほど前に、彼らは仕事の整理をすると言って事務所に戻った。後でここに来ると思い、いつも彼らが頼むアップルティーとリキュールを作っておいていた。
「こんばんは、店主。そろそろ蜜月が来るね。」
「エヴァン、今日は酔い潰れそうだ!」
「却下だ。」
彼らは、ベルを挟むようにカウンター席に座った。
「こんばんは、二人とも。今日は楽しくなりそうね。」
三人に、アップルティー、リキュール、ワインを出すと、一、二時間時間ほど話した。僕はあまり話す方ではないのでほぼほぼ彼らが話す世間話や依頼のことを話しているのを聞いていた。
「さっき、事務所へ行ったら人がいてね。また新しい依頼が来たみたいなんだ!手紙だけもらったんだけど。」
アンディの手には開けていない封筒があった。それを見ると既に少し、いやかなり酔っている様子のレイドが話しかけていた。
「今回の依頼は俺がみた〜い!」
「……。これは渡さなきゃ煩くなりそうだね。」
アンディが封筒を彼に渡すと誰にも見えないように顔に近づけて読んでいた。すると、
「今回の依頼は、俺もアンディも手出し出来なさそうだぜ?」
「どういうことだい?」
「アンディはみない方が良いなぁ、お前が嫌いそうな依頼だ。適任は…………エヴァンとベル、お前ら。」
「僕が?」「私!?」
このペアで依頼を行うことは時々あったが、さっきのことが頭から離れず……彼女に何されるか分からないという不安な気持ちがあった。
「ああ、そういう依頼か。それはやめてくれと、国王には言ったはずなんだけどね…。」
「内容、私達はみて良いかしら?」
「僕たちにも見せてくれ。」
「ほいよ。」
アンディには見えないよう渡された手紙にはこう書いてあった。
——探偵殿、先日私の大切な品物がなくなった。代々つけ継がれてきた大切な指輪があるんだが、地下室の奥で厳重に保管していたはずが箱ごと無くなっていた。盗まれたとは到底考えにくい。どんな方法でも良い、報酬などいくらでもなんでも出す。来週までには見つけ出してもらいたい。——
とあった。
「僕たちは何でも屋と間違えられていないか?」
「レイド、これ本当に私たちに適任なの?」
グラスを持ち、薄く赤い顔で彼が答える。
「そのゆびわは、おれの呪いとおんなじだ。手に入れた七年後にゃなくなるものだ。んで、また手に入れるにはアスモデウスがいなきゃ無理だぜ。」
「……アスモデウスとは?」
彼がグラスを置くと、真剣な表情で答えた。
「色欲の悪魔。ごめんね、エヴァン。お前にゃ耐えれると思うから頼んだんだ。ちょいと汚いやり方だけど我慢してくれ。あとで記憶は消してやるから。」
「……どういう意味だ?」
意味が全く理解できないが、まずい予感がする。
「ま、今は楽しもうぜ。エヴァン、お前も飲まないか?」
……話を逸らされた。
「僕は仕事をしなきゃならない。」
「ベルちゃんを放って置いてお前だけ仕事かあ?もうみんな酔って出て行く時間だ。ほら時計は今、十二を指してる。」
十二時、ラストコール二時間前。ここからはこの四人以外の客は全く来なくなる。どんどん人が店を出て行くのが見え、中には酔い潰れて引きずられている人がほとんどだ。
「あっ!俺が作ってやるよ、いや俺に作らせろ!オーナー は何が飲みたい?」
カウンター席に無理矢理座らされると、レイドがバーテンダーをすることになった。ちゃんと作れるのか心配だが、
「……。僕は酒以外ならなんでもいい。」
すると、ずっと黙っていたアンディが口を開く。
「ぷっ、ふふふ。なんだい?この茶番は。いやあ、見てられないな、バーテンダーが酔っていてどうする?ふふっ。」
ずっと堪えていた笑いに耐えられなくなったんだろう。ずっと笑っている。
「うっ、うるさいぞアンディ!俺は酔っていても理性を保てる人間だからなあ!」
「保てるかは怪しくないか?」
#異世界
コメント
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あら、第1話からすごい空気感ね!バーの温かい雰囲気と、キャラ同士の絶妙な距離感がめっちゃ好き。特にベルがネクタイ掴んでキスするところ、ドキドキしたわ😳 レイドの「色欲の悪魔」発言も不穏で気になるし…。エヴァンとベルのペアでどんな依頼になるのか、続きめっちゃ読みたい!