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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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若い頃からの自分の持論がまたしても証明された事を、心中で喜びながらも慎重に距離を取りつつ、次の行動について考えを巡らす。


モラクスの角による攻撃は、幸福寺での訓練では決して経験出来なかった、速度と切れ味を持って襲いかかって来る。

今は自分の回避能力の方が若干上回っているようだが、それも持続性の不確かな『アクセル』に拠る所が大きい。

未だ明確な勝利への道筋が見えていない現状、発動は最低限に抑え、体力の温存に努める事が肝要だろう。

その為には距離の安全マージンを余計目にとって、相手の動きの観察を徹底しよう。


そして、動きの中から何かの癖や、隙を見つける事が出来た時、接近してコイツを刺し込んでやればいい。

その絶好の機会を逃さない為にも、モラクスの一挙手一投足を見逃さない事、不用意に攻撃を仕掛けない事、それさえ守りきれば、アタシに負けは無い!


ススススススス……


静かに無感情な声が響き続ける中、そんな風にコユキが考えている間、同時にモラクスは不規則に動き回り続けるコユキの声に向けて話し掛けていた。


『なるほど、確かに我が兄の技を使いこなしているようだな! ならば、未熟者と言った言葉は取り消す事としよう、なにしろその技は兄の二つ名ともなっている別格の物だからな…… 貴様が『アクセル』と呼んでいたその技本来の名は、『神速(グリゴリ)』という…… 人間も、それ以外の知恵ある者達も尊崇(そんすう)の念を持って兄を、神速(グリゴリ)の(トウ)オルクス(オルクス)と呼んでいた物よ、そして我も又、畏敬(いけい)を込めこう呼ばれていた、エピドロミ』


モラクスが言葉を止めたその時、コユキが自分の考えを纏(まと)め終えたのは全く同時だった為、ここまでの彼の発言は一言も彼女に届いていなかった。


『強襲(エピドロミ)の(トウ)モラクス(モラクス)となっ!』


「へ?」


――――何か、わけワカメな事を叫んだけど? 馬鹿なのかな? あ、『馬鹿』だったわね! ああ! そう言う意味だったのか……


何故中途半端な形で受肉した悪魔の事を『馬鹿』と呼ぶのか、その理由を甚(はなは)だ自分勝手ではあったが理解したのであった。


「そうよね、アンタも辛いわよね…… 待ってて! 今アタシが治してあげるからね!」


『? エピドロミ』


言葉を発する為に『アクセル』を解除したコユキに対して、僅(わず)かに戸惑った様子を浮かべたままであったが、モラクスがスキルを使用した。

モラクスの全身から周囲に溢れ出した漆黒のオーラは、中空で固まり球体へとその形状を変化させ、付き従うように彼を中心に回転を始めた。

その数四つ。


不規則にグルグルと動き回るそれは、魔力を見る事が出来ないコユキからしても、それまでの攻撃とは全く違う悍(おぞ)ましさを感じる。


『突角長槍(ロングホーンランス)!』


モラクスが声にした瞬間、球体の内二つが渦のように角へと纏わり付き、同時に繰り出されるロングホーンランス。


「! 『アクセル』」


コユキの肩に鈍い痛みが走る、避け切れずに傷を負ったようだった。

傷自体は掠り傷だったし、出血もほぼ無かったが、問題はそこでは無いと、コユキは高速移動を繰り返しながら心中で唸った。


――――なんだ、今の? 角の伸びる長さが変わった? いや長さもだけど、伸びる速度が上がった! み、見えなかった!


充分な余裕を持って距離を取っていたつもりであった。

実際ここまで目にしたロングホーンは、元の長さ(五十センチ位)から一メートル程度しか伸びていなかった。

だからこそ、コユキはオーバーな程のマージンを取り、五メートルほど離れた位置から声を掛けたのだった。

その距離を越えて伸びた角の槍は、コユキの目で捉える事が出来ないほどの速さを持っていた、まるでコユキのアクセル並の速さを……


っ!


コユキの脳裏に、座学の中で善悪が口にした言葉が浮かんだ。


『三角折りの事だったら再考の余地は……』


違った、そこじゃなかった! ええっと、コユキは再び言葉を浮かべた。


『コユキ殿の育成方針は『特化』でござる! はっきり申せば『回避特化』で、ござるっ…… ござる…… ござ』


それだ! コユキは思った。

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