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惣一郎が身を離し、その重みから解放されたと同時に疑問が湧き上がった。
(奥さんが居ないって、どういう事)
玄関先に複数人の気配を感じた。素裸の私はシーツに包まり息を殺し、その会話に耳を澄ませた。
「井浦惣一郎さん、夜分恐れ入ります」
それは太く厳しい声だった。
「あぁ、またあなた方ですか」
惣一郎はその人物と面識が有るようだ。
「あぁ井浦さんこそまた、ですか」
「なんの事でしょう」
「そのサンダル、女性、若い女性のものですね」
「それがなにか僕の画絵のモデルのものです」
「若い女の子、とうとう生徒にまで手ぇ出したんですか」
それはきっと私の黒いギンガムチェックのサンダルの事だ。
「あーーーー!井浦先生の絵具には無味無臭の毒があるんですよーー!」
男性は私に聞こえる様に声を張り上げた。
(ーーー毒?)
それにしても無味無臭の毒なんてあるのだろうか。以前、大垣光一が「これ銀朱ぎんしゅ、舐めるなよすぐ洗って来いよ」「水銀中毒を起こすぞ」と言っていた朱色は酷い臭いがした。
「刑事さん、人聞きの悪い」
「あぁ、井浦先生のご使用になっている<カドミウム系>の絵具は無味無臭の毒が入っているらしいじゃないですか。カドミウム中毒、貧血、骨粗鬆症、全身の痛み、肝機能の低下、物騒ですな」
「毎日食べる訳じゃありません」
毎日、このコテージに来てから毎日の食事の支度は惣一郎がしている。
(まさか、そんな、なんの為に)
玄関先で惣一郎と遣り取りをしている人物は警察官だった。