(ケーキ一つ……)
私はガラスケースの前で中腰になり、ジーッとケーキを見つめ、ピンときたのに決めた。
「これにします。タルト・フレジェ」
私は苺が沢山ついている可愛らしいタルトを指さす。
「じゃあ、これもお願いします」
尊さんは持ち帰り用に多めのチョコレートを注文してくれていたらしく、ケーキも合わせて包装してもらったあと、清算してサッとお店を出た。
「今の店は『レールデュトン』。埼玉県の川口市に『知らない世界』でも紹介された『シャンドワゾー』って店があるんだけど、そこのシェフの弟子が開いた所。西東京のひばりヶ丘駅近くにある『ル・マグノリア』は、『レールデュトン』のシェフの弟弟子の店だ」
「へええ……!」
そしてタクシーは速くも次の目的地に着き、私たちはマンションの一階にある茶色い外観のお店に入った。
カカオのイラストの横には『ボン・ヴィバン』と書いてあり、赤紫色で統一された店内には、手前の棚には小さなバスケットに入った焼き菓子が並び、ガラスケースにはケーキやチョコレートがある。
「わわわ……」
テンションマックスになった私は、また尊さんが時間を稼いでくれている間に、籠を手にして気になった焼き菓子をポイポイ放り込んでいく。もう値段は無視だ。
それから、人生でこんなに真剣になった事はないんじゃないだろうかってぐらい、真剣に悩んで、「U」を逆さにしたような形の、フランス風ショートケーキのフレジェに決めた。
尊さんはここでもしこたまチョコレートを仕入れてくれ、おまけに移動しながら飲めるよう、ショコラ・ショー――ホットチョコレートも買ってくれていた。
「お邪魔しました!」と言わんばかりにサッとお店を出た私たちは、またタクシーに乗ってホッと溜め息をついた。
「今回はこの二軒を厳選。ここで買ったチョコレートは、一応俺から朱里へのバレンタインチョコな」
「あっ!」
言われて、私は目をまん丸にして固まってしまった。
……いや、バレンタイン旅行のつもりだったけど、私は当日にチョコを買って渡すつもりでいた。
……甘かった。
パーフェクト・スパダリ速水尊は、私がしようと思った事の百倍以上のサービスをしてくる。
(……つ、釣り合わない……!)
私はふつふつと変な汗を掻きながら、ちびちびとホットチョコレートを飲んだ。美味しい。
そして車は予約時間の十三時には、地下鉄円山公園駅からすぐにある、『日仏食堂さらもじ』に着いたのだった。
私たちはお店の前で降ろしてもらい、運転手さんは近くのパーキングに停めに行く。
尊さんは「俺たちだけ食うのもアレだから」と二名と一名で運転手さんの分も予約していて、彼にランチをご馳走するらしかった。
ナチュラルなウッド調のお店は落ち着いた雰囲気があるしセンスが良く、さすが尊さんの選ぶお店だなぁ……と思った。
私たちは席に案内され、遅れて運転手さんも別の席に座った。
頼んでいたのはランチコースらしく、フレンチのお店だけどお値段は比較的リーズナブルだ。夜はアラカルトを提供しているらしく、メニューを見るだけでもめちゃくちゃ美味しそうだ。
「メインを選べるけど……、朱里は牛フィレいくか?」
「良ければお願いします」
本当ならプラスメニューでなくて、ノーマルの鶏腿肉で十分だけど、相手が尊さんとなると甘えないと逆に失礼なのでは……と思い、存分に甘えさせてもらう。
尊さんは人数分、スープ、パン、前菜プレートに牛フィレ肉のコースをオーダーし、食後にコーヒーをオーダーしてくれた。
彼いわく、ここは札幌にある高級フレンチレストランのシェフがおすすめしているお店らしい。
「思ったけど、テレビ塔前からの送迎バスに間に合ったら……と思ったけど、このままタクシーで行ってもらうか」
「尊さんがそれでいいなら。私も貸し切りタクシー代、一万円出します」
「いいって。こういうのは主催者負担だから」
よく分からない理由をつけ、尊さんはヒラヒラと手を振る。
「朱里の役目は、しっかり楽しむ事。OK?」
「……分かりました」
彼の好意に思ったあと、カジュアルフレンチを「うまいうまい」と食べ、再びタクシーに乗った。
コメント
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ラーメンにお寿司🍜🍣🐟️、そして チョコレート、ケーキにお肉も....🍰🥩💕💕 北海道は美味しいものがいっぱいですね🥰💖✨
パーフェクト・スパダリ速水尊は朱里ちゃんがくれる物ならなんでも嬉しいよ〜🍫🎀
美味しそ🤤 北海道イコール海鮮🦐🐟みたいになっちゃうけど、お肉も野菜も良いんだから、美味しい料理の宝庫だね(*´˘`*)♡