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「……えぇ?」
起きて一番に寝ている間に来ていた連絡を確認して今、レダーは困惑した。
『お疲れ様です。先日のお話の件ですが、私のどこがどうしてお好きなのか伺いたいです。』
仕事の連絡のような文面で書かれていたのは、その印象とは真逆の色惚けた内容だった。しかも意外に送信元はぐち逸だ。
いやまあ、この内容ならぐち逸しかありえないのだが。
そもそもあの日の告白について、ぐち逸から触れてくるのは思いもよらなかった。恋愛の話題は苦手そうだし、何なら恐らくやんわり振られたので、ここから猛アタックで惚れされてやろうとせっかく意気込んでいたのに。
……それにしても。
「どこがどうして好きなのか、ねえ……」
一目見て彼に惚れた訳ではない。好きと気付いたのはつい最近。そう、告白した日より1週間ほど前のことだ。
といっても、きっかけは自分でもよくわからない。
ただ、可愛いと思った。
過眠がちなぐち逸と久しぶりに会って、話して、なぜか可愛く見えた。
小柄でもなく、無愛想でひねくれていて、記憶も遠慮のない男。
そんな彼をなぜ可愛いと感じたのかわからなくて、最初は自分が気味悪かった。
それでもぐち逸に対する愛おしさだけは積もっていった。もっと可愛い姿を見てみたい、それを独り占めしたい。ついでにそんな感情も。
しかしやっぱり不可解なことに変わらなかった、男を可愛いと思うなんて。確かにザウルスとかのことを良いと思ったことはあるけど、それとは明らかに違う。なんと言うか、少し色っぽいような__
「__店長?魂抜けてます?」
「え?あぁ、ケイン」
豪邸のテレビ前のソファで考えてたんだった。ケインが来ていたのも気づかなかった、アジト内とはいえギャングボスとして有るまじきことかもしれない。
「ん~~考え事してたぁ」
「なるほど。それは868のことですか?」
「いーや?俺のこと」
「そうですか……店長がよければですが相談して下さいね」
どこか温もりを感じる機械音声だ。その気遣いに心が落ち着く。が、この感情何?という悩みなんて正直ケインに話すのが一番不適切だ。彼は感情がインストールされていないロボットなのだから。
……いや、でも一応相談してみようか。逆に感情論の一切ない客観的な意見がでるかもしれない。むしろちょっと心が無い方が俺には丁度いい可能性だってある。
そう思って、誰に対してかは伏せつつ、俺が感じていた感情について話してみた。ケインは時折相槌を打って聞いてくれた。
どう思う?と最後に問うと、少し黙って一言。
「それ恋なんじゃないですか」
「……恋?いや、相手男なんだけど」
「ですが、好きなった途端その人がより魅力的に見えるというのはよく聞く話ですよ。男性の中でもその人だけというなら尚更特別なんじゃないですか」
「恋、恋……」
ケインが言っている内容を咀嚼する。俺が?ぐち逸に?恋。好きってこと?……なるほど。
「ロボットの言うことなので真に受けないでくださいね。というか感情のない私に聞くことですか?」
「あはは……それは俺も思ったけど。でもありがとケイン、参考にするよ」
ケインは私は闇メカニックの作業があるので、と軽く手を挙げて去った。
……そうか、俺はぐち逸のことが好きなのか。好きってことは、ぐち逸とあんなことやそんなこと__
「……イケるかもな」
顎に手を当て閃いたように呟いた声は、豪邸の広い空間に消えていった。今頃どこかにいるぐち逸は寒気がしているかもしれない。
そうだった、そうだった。あの時ケイン相談して良かったなあ。なんて感情に詳しい高性能ロボットだ。
さて、俺がぐち逸が好きな理由は……可愛いからだろうか。どちらかと言うと好きだから可愛いか?まあ、なんでもいいや。
彼に出会って数日経った時に交換した電話番号に電話をかけた。数回コールが続いた後にカチャ、と応答する音が聞こえて食い気味に話した。
「もしもし?ぐち逸ー?メールの内容なんだけど~」
「わっ……何ですか」
「何ってお前の好きなとこだよ」
「……メールで連絡したんですからそのまま返信すれば良かったのでは?今立て込んで」
「誰かといんの?患者?俺も恥ずかしいからさ~人目のつかないとこ行ってくれないとな~?」
俺の押しの強さに少しぐち逸がたじろいだ。電話越しでも息が届きそうな、長いため息をひとつつかれてからまた話し出した。
「もういいです。……それで?理由とは?」
「可愛いから」
「は?」
「おまえが可愛いと思ったから」
「……はあ」
多分、告白した時の同じ、少し眉をひそめた顔をしている。数秒無言の時間が流れた。
「ほ、本当にそれだけなんですか?」
「それだけって何、立派な理由でしょ」
「はぁ…………全く、何の参考にもなりません。聞いたのが間違いでした」
呆れたのかさっきよりも大きくため息をついた。可愛いだけなのかって……こんな気持ちは、俺にしてみれば男を可愛いと思うことは、とんでもないビッグニュースなのに。
……待て。
「参考?ぐち逸?参考って、何の?」
「な、なんっ……なんでもありません、忘れてください。っそれでは」
「ねえ!ちょっと……」
早口に言ってすぐ電話は切れていた。あまり聞いたのことない、照れたような声色を最後に。どういう心情で焦ったのかはわからない。ただ、あの声が可愛くて。
上がる口角に片手を当てる。そんなことを聞いてくるなんて、時間が経って気になってしまったのだろうか。
……あぁ、ふふふ。
ははははっ!
きゅっと喉を鳴らして笑った。 なんだ。思っていた何倍も早いじゃないか。
ぐち逸を俺に惚れさせるまで。
……いや。
ぐち逸に、俺のことが好きと思わせるまで。