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(―誰かに話せたら、楽なのに)


真っ暗な部屋の中。

カーテンの隙間から差し込む街灯の明かりが、天井をぼんやり照らしていた。


ナマエはベッドの上で膝を抱えて、目を開けたまま、天井を見つめている。


『……また寝れないや』


手首の包帯は新しいものに取り替えたばかり。

見られたらまた何か言われるから、今日は制服の袖を長めにしていくつもりだった。


どこかで期待してる。

「無理すんなよ」って、優しく言ってくれる先輩に。


でも、そんなのただの甘えで。

誰かに頼ることを、してはいけないって、自分に言い聞かせてる。


(――“平気なふり”って、上手になったよね、私)


薄く笑って、ナマエはそっと目を閉じた。



「でさー!太刀川さん、また課題溜め込んでて忍田さんに怒られてたの!やばくない?」


『え想像通りすぎて笑う』


昼休み、学校の屋上。

制服のまま、柵に肘をかけて話すナマエの声は、いつも通り明るかった。


隣には出水がいて、自分の弁当の玉子焼きをナマエに差し出している。


「今日のやつはちょっと甘めにしてみたんだけどさ、味見して?」


『え、なにそれ優男アピール?』


「アピールじゃないよ、いつもだろ?」


『……はいはい、誰にでも優しいもんねー』


そう返したナマエの声が少しだけ低くなったのを、出水はちゃんと聞いていた。


「……あんまり笑ってばっかだと、疲れんぞ」


『……ん? なに? 出水先輩、もしかして、私のこと心配してくれてる?』


ナマエがニッと笑って見せる。けれどその目は、笑っていなかった。


「……まあ、先輩だからな」

『じゃあ、ちょっとくらい甘えてもいい?』

「んー、少しだけな?」

『……ん。ありがと』


そう言って、ナマエは玉子焼きを口に運ぶ。

出水の味付けは、ちゃんと甘くて、優しくて、どこか泣きたくなる味がした。


『あーあ、もっとバカな子に生まれてたらよかったのに』

「なに急に」

『なんでもない。……てか、午後から訓練。頑張ろっか』


「おー、じゃあ俺、手加減やめよっかなー」


『やだ、それは全力で拒否する』


ふざけ合って笑いながらも、どこか噛み合わないふたりの会話。


その隙間に、ナマエの小さな本音が、ほんの少しだけ零れ落ちていた。




ーー

放課後ストラテジーやきゅうくらりんの女の子たちをイメージしてくれたらわかるかもしれません

「好き」が言えないふたり

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