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きっと魔玻璃には意志がある。
ジェラールが魔玻璃に触れても問題がなければ、あの王太子の生まれ変わりだとハッキリするだろう。つまり、凛子に認められた人であると。
「テオの言うように、魔玻璃に触れることが出来たとして。今までも――あの洞窟に何度か足を運んだが、特段何も起こらなかったぞ?」
そう、最初のループを除いては。
「確かにそうですね……」
リーゼロッテと違い、ジェラールが魔玻璃に近付いても光が強まるようことなど無かった。
「だが主人よ。何か変化が起こるのは、来るべき時……全て意味のある時期ではないだろうか? リーゼロッテの場合は、徐々に記憶と共に魔力が増えている。ジェラールが本当に王太子の生まれ変わりなら、それを感じた今こそ魔玻璃に会いに行くべき時なのではないか?」
リーゼロッテは頷いた。
(私はテオの意見に賛成だわ。でも、それを決めるのはジェラール殿下自身じゃなければ……)
「ジェラール殿下のお気持ちは? 私が一緒なら、結界の心配もいりませんが」
万が一、ジェラールが魔玻璃に触れたことで結界に亀裂が入ったとしても、今のリーゼロッテの魔力を持ってすれば何の問題もない。
向こうの世界から魔獣がやって来ても、リーゼロッテに牙を剥くこともないだろう。寧ろ、懐かれ「魔王、魔王」と騒がれる予感しかしない。
(まあ、それはちょっと困るけどね)
それよりも、問題はヨルムンガルドだろう。
「私は……これを読んだ今、ナデージュに会ってみたい。それと、この青年にも」
ジェラールは、肖像画に視線を落とした。
その憂いを帯びた表情のジェラールに、ナデージュとヨルムンガルドを会わせてあげたいと強く思った。
(会わなきゃ仲直りも出来ないしね)
「……その本、持ち出したらダメでしょうか? 3人の肖像画、見せてあげたくて」
敢えて誰にとは言わないが、ジェラールもリーゼロッテの思いを分かっているようだ。
「正規の手続きを踏めば、王族なら可能だ。元々が白紙の本だから問題もないだろう。……それは私がやっておく。辺境伯領へ向かう時間を作るから、魔玻璃の元へ連れて行ってほしい」
ジェラールの真剣さが伝わってくる。心からナデージュに会いたいのだと。
「はい、承知しました。私も、その間にヨルムンガルドを探してみます」
◇◇◇◇◇
ジェラールを王宮に送り、自分の部屋に戻ったリーゼロッテはすぐに魔道具を用意する。
ルイスに宛て、今回の出来事を書いていく。
そして、近いうちにジェラールを連れて洞窟へ向かう予定だとも。
「ねえ、テオ。ヨルムンガルドは、魔玻璃の近くに居るのではないかしら?」
書いている手を止めずに、ベッドで伸びているテオに尋ねた。この時間にテオを部屋に入れるなら、ミニ狼姿でないとまたアンヌに叱られてしまう。
『そうだろうな。リーゼロッテの近くに居ないなら、向こうだろう』
ふと。
リーゼロッテは、ナデージュは森のどの辺りに住んでいたのか気になった。
辺境伯領として邸宅を建てたのは、ナデージュが爵位を与えられた後のはずだ。
(大昔の辺境の地って、一体どんな所だったのかしら……)
テオなら知っていると思った。
「ナデージュは森のどこに住んでいたの?」
『ああ……確か、いつもの花がある湖の近くだ』
「へぇ、あそこなの。……あれ?」
リーゼロッテがヒュドラーを倒す前の湖は、随分と禍禍しい場所ではなかっただろうか。
それに、ナデージュが魔物に慕われていたことを思い出すと、サー……ッと血の気が引いていく。
「も、もしかして……。あの私が倒した魔物って、ナデージュの大切な友達だったのかしら?」
青くなったリーゼロッテに、テオはフッと鼻で笑った。
『安心しろ、あれが住み着いたのは最近だ。私が捕らえられる少し前だったな。タチの悪い奴だから問題ない。魔物全てが凛子を慕っている訳ではないからな』
ホッと胸を撫で下ろした。
どうやら、魔物の世界にも色々あるらしい。
テオ達みたいに、理性や知識がある高位魔獣は極々少数なのかもしれないと思う。
魔玻璃の結界の先ではなく、こちら側に残ったまま悪さをする魔物もいるのだから。
「ヨルムンガルドは、ナデージュが住んでいた場所に居るのではないかしら?」
あの洞窟で、彼を見かけたことは一度も無い。
『湖に行って見てくるか?』
「ええ、そうするわ」
今の話も書き加えると、ルイスに送った。
暫くすると、返事が届いた。
すぐに目を通すと、リーゼロッテは固まった――。
『どうした? ルイスは何と言ってきたのだ?』
「お父様も、一緒に湖に行くって。その時に、今回の件を全て詳しく話すようにって書いてあるわ」
(そうだった……)
リーゼロッテが危ない場所に行くなら、次からは自分も行くと言っていたと思い出す。
文章から『また危ないことに、首を突っ込んでいるんだね』と、ピリピリした雰囲気が伝わってくる。
ルイスと一緒に居られるのは嬉しいが、ヨルムンガルドとルイスが会ったらどんな反応が起こるのか……。妙な胸騒ぎがした。
(どうか、穏やかにヨルムンガルドを説得できますように……)