蓮 side
蓮 🖤『何事よ?お顔ぺしゃんこだよ?』
あべさくに突進した翔太は涙を流しながらトボトボと、くしゃくしゃの顔で戻ってきた。泣き顔しょっぴーは不謹慎にも可愛かった。
翔太💙『うぅっ抱いてください…あっ間違えた抱き締めてください少しだけでいいから』
蓮 🖤『フハッ//それ言い間違えるかな?期待しちゃうじゃん?』
〝振られました…〟膝から崩れ落ちると床にへたり込んで泣き出した。ぽんぽんと頭を撫でると益々声を荒げた〝参ったな…それじゃぁ抱き締められないよ?〟俺より拗らせが酷いな阿部ちゃん…
タクシーに乗り込みマンションの近くまで走ると、少し歩きたいと言った翔太と二人で歩いて家路に着く途中、突如降り出した雨に慌てて拵えたコンビニの傘は大の大人が2人で入るには小さ過ぎた。
蓮 🖤『もう少しこっちに寄ってご覧』
翔太の右肩を抱くと〝ほらまた〟と言って立ち止まった。訳もわからず翔太の顔を覗き込むと満面の作り笑顔で笑った。
翔太💙『ありがとういつも守ってくれて//俺の左側は蓮の特等席いつも居るね…ごめん女の子みたいだね俺…蓮から守られてんだ』
〝そんなんじゃない〟翔太が濡れないように肩を抱き身を寄せ合って歩いた。家に着くとずぶ濡れの俺の左肩を見てまたわんわんと泣き出した。誰かの優しさが身に染みるのか?そうじゃなかった、翔太は〝俺のせいで皆んなが犠牲になってる〟だなんて言って雨に濡れたくらいで大袈裟だよ?持っていたタオルで翔太は俺の左肩を拭く〝触れて欲しくて濡れただけ〟翔太が風邪をひかないように、せめて身体が冷えないように…そう思っただけだ。
翔太💙『ふっ…あざと……////蓮って嘘つくの下手だね』
傷だらけの2人が寄り添って何になるというのだろうか。2人の間にはもう愛なんてものは存在しないのに、2人の矢印が向き合うことは無く、一方通行の愛を抱えて求め合った温もりになんの意味があるだろうか。玄関ホールで嫌がる翔太を〝寒いでしょ温めてあげる〟だなんて馬鹿みたいな言い訳をして、冷え切った翔太の身体に指を這わすと〝返って冷えちゃう〟と言って冷たい俺の手に身動いだ。
蓮 🖤『すぐに温まるよ///忘れさせてあげるから』
翔太💙『忘れたくない…俺諦めないから//だからごめんね蓮俺出て行くよこの家』
〝ここに居たってできる事でしょ?〟壁に追いやられた翔太は腕を伸ばして間合いを取ると〝ケジメって言葉知らないのかよお願い触らないで〟触るなと言われれば触れたくなる。出て行くと言えば引き止めたくなる。どうしようもなく君を求める俺は嫌がる翔太の首筋に舌を這わした。
翔太💙『ンンンッ…やめてったら』
蓮 🖤『今頃2人もイチャイチャしてる』
〝酷いよ蓮〟力なくズルズルと壁を伝って倒れて行く。酷い言葉なんていくらでも言ってあげられる…それで君が阿部ちゃんを忘れられるならいくらでも言ってあげるのに。〝ベットへ行こう〟ここがいい…優しくしないでと言った翔太の目は光を失ったように一点を見つめると静かに涙を流し頰を濡らした。優しく抱き抱えてベットに運ぶと〝優しくするなら触らないで〟だなんて、忘れたくないなどと言いながら忘れようとしてるじゃないか。
こんな毎日だっていいじゃない?泣いて笑ってまた泣いて色々な君が見れる一番真横の特等席で君の恋の行方を応援するよ?時々今夜みたいに襲ったらごめんね……
一晩中降り続いた雨がようやく上がり、キリッとした寒さを引き連れて冬がやってきた。夜明け前まで暖かかったベットが今は冷たく、足を彷徨わせ探す肌の温もりは、端から端を右往左往させても見つからなかった。
甘い匂いが鼻を掠め身体を起こしてリビングに向かうとテーブルの上に腕組みをしたその上に突っ伏している翔太の姿があった。近寄るとスヤスヤと寝息を立てて眠っているようで、ノートの文字が滲んでいて、ひとりでメソメソと泣いていたのが想像できた。
蓮 🖤『翔太風邪引くよ?』
翔太💙『んっ……はっやばっ寝ちゃった』
慌てて飛び起き向かった先はオーブンだった。いい加減に焼けたスポンジを目尻を下げ薄い唇の口角を目一杯上げると嬉しそうに笑った。
翔太💙『良かった大成功///』
蓮 🖤『また作ってるの?』
恋する乙女のように目をキラキラと輝かせて〝うん〟と笑った翔太は食べちゃいたいくらい可愛かった。なんでも阿部ちゃんに届ける為にケーキを作っていて寝てしまったのだとか。
翔太💙『焼けるの待つのも楽しいよ寝ちゃったけど///この時間が今の俺の細やかな幸せ////』
蓮 🖤『ふふっ可愛すぎだよ…俺の誕生日にも作ってよ』
〝うんいいよ//〟頰を赤らめ鍋つかみをパカパカして見せた翔太は……
蓮 🖤『ねぇもう一回エッチしよう?可愛過ぎるんだけど』
〝ばぁか誰がするかよ〟なんて照れてる姿がまた可愛らしくて愛おしい。慎重にオーブンから取り出したスポンジからは香ばしく甘い匂いが漂った。冷めるまでの間再びテーブルに座った翔太はパソコンを見てはノートに何かを書き写している。
蓮 🖤『何書いてるの?』
〝誕生日プレゼントだよ//〟ノートが?買い物リストでも書いているのだろうか?尋ねても〝ひみつ〟
と言って教えてくれなかった。ケーキが完成したのは朝の8時過ぎだった。まさか寝ずに作ってたんじゃないだろうな?
今から阿部家を直撃するのだとか…こうと決めたら猪突猛進のこの男は、堅忍不抜の精神で耐え忍び目標に向かって直向きに阿部ちゃんに向かって真っしぐらだ。 自分の都合で翔太に別れを切り出し、その後ずっと燻り続け〝見守る〟だなんて都合のいい言葉で言い訳し続けた俺とは大違いだ。
蓮 🖤『じゃあ俺仕事行くから…ここに戻ってきてね?』
翔太💙『分かってる…あっおにぎり作ったから持って行ってよ//愛妻おにぎりだよ〜』
なんでも、ケーキを食べてもらえなかった時用の秘策なのだとか〝念には念を…〟などとぶつぶつ唱えている。何が愛妻おにぎりだ…お零れの愛じゃないか。お礼におでこにキスをすると不器用な三角には程遠いおにぎりを握りしめて家を後にした。
こんな朝だって素敵じゃないか…俺の知らない新しい翔太が増えて行く幸せとお零れの愛のおにぎりを頬張り阿部ちゃんへの愛をお裾分けしてもらった朝、翔太の笑顔の為に繰り出す足は軽快に前へ前へと歩みを進める。
亮平 side
昨夜は我が家のクリスマスツリーの前でひとりキラキラと輝くスワロフスキーをツンツンと突ついては数日ぶりに触れた柔らかい翔太の白い手の感触が僅かに残る腕を撫で寂しそうに肩を落として去って行った翔太を思い出していた。
〝諦めない〟と言った翔太の言葉に戸惑いつつも嬉しかった自分がいる。追いかけ続けた彼から逃げ、自分の気持ちを偽った。きっと今だけ…すぐに忘れるから…ごめんね翔太。
朝方冷え切ったベットの中で目を覚ました俺は、膝を抱えるように縮めて蹲るように二度寝した。浅い眠りだったろうか、真っ白な可愛らしい小さな子犬がベットの中に潜り込んできてゴソゴソと蠢く夢を見た。温かい場所を求めているのか俺の首元に擦り寄ると前足を鎖骨のあたりに置いて上目遣いでクーンクーンと寂しそうに鳴いている。頭を撫でると立っていた耳を後ろに反らし嬉しそうだ。前足と後ろ足をピンと伸ばして欠伸をしている…〝可愛い犬飼おうかな…可愛こちゃんどうしたの?お腹空いたの?〟またクーンと鳴いた白い子犬は足の裏をスリスリ擦って冷たい足を暖をとるように寄せてきた。ふふっ翔太みたいに可愛らしいその姿に胸が熱くなっていく……んっ?デカくないかこの犬…
亮平💚『うわぁ!!!おまえ人の家で何やってんだよ💢』
翔太💙『亮ちゃんおはよっ!今朝寒いね♡』
勘弁してよ…違う意味で寒いと言うより凍りついてる。鍵をさっさと取り上げるべきだった。2日連続の翔太は目に毒だし…これ以上は過剰摂取だ。翔太は夢に見た子犬のように俺の首元に擦り寄って〝寒〜い〟なんて言いながら俺のお腹に冷たい手を差し込んだ。
亮平💚『いい加減にしろよ!鍵を置いて出て行け』
怯えるような目をして怯んだ翔太は一瞬だけ悲しい顔をするとすぐに笑顔になって〝5分だけ待ってて〟と言ってベットから這い出ると寝室から出て行った。再び戻ってきた翔太は何事もなかったように振る舞っているけど少し目が赤くなっている気がした…俺は気付かないフリをした。
翔太💙『誕生日プレゼント持ってきたよ!亮平まだ起きないの?』
ベット脇の床に座り込んで可愛らしく顎なんか乗っけちゃって俺のシャツを掴んでいる。ほんといい加減にしてよ…〝仕事午後からだから…お願いだから早く帰って佐久間が今から来るの!〟嘘をついた…どうしようもない程に君を遠ざけたくて仕方がないんだ。自分が傷付かないように…保身でしかなかった。寂しそうに離れて行った手が翔太の膝の上で小さな握り拳を作って震えている。
こんなにも胸が熱くなるのは翔太くらいなのに…嬉しかったり楽しかったりドキドキする胸に多幸感を覚えたあの日々が蘇る。と同時に 不安になったり、それまで知らなかった自分の新たな感情に翻弄され続けネガティブ要素は全て翔太のせいにして、卑怯にも彼から逃げ出した無様な俺が彼を抱きしめる事を躊躇っている。
翔太💙『そう…ごめんなさいお邪魔して//リビングに…イヤなんでもない。帰るねごめんなさい』
翔太の顔をまともに見れない…だって泣いてるでしょ?寝室を出て行く翔太の後ろ姿を見届けた。昨日肩を落としてトボトボと歩く後ろ姿と全く同じだった。カーテンを開け窓の外を見ると昨夜までの雨が嘘のように晴れ渡る空が広がっていた。リビングに行くと翔太の姿はそこにはなくテーブルに手作りの包み紙が置かれていた。玄関で物音がして覗き込むと肩を震わせながら靴紐を結ぶ翔太の姿があった。
亮平💚『玄関の荷物持って帰って』
俺に見られないように涙を拭う素振りをした翔太は〝歩いてきたから持てないよ…荷物もあるし〟と言ってケーキの箱のようなものを抱えて見せた。
亮平💚『それなぁに?』
ハニカミながら恥ずかしそうに〝誕生日ケーキ作ったんだけど迷惑だよね〟両手で抱えたケーキが邪魔をして流れ伝う涙を拭えずに頰を濡らした翔太は〝食べる?嫌ならおにぎりもあるよ?〟なんて笑って見せた。
亮平💚『置いて行きなよ。そうすれば荷物持てるでしょ』
我ながら意地が悪い。翔太は口を真一文字にキュッと結ぶと〝また来ます〟と言ってケーキを抱えて出て行くとすぐに玄関扉が開いて再び戻ってきた翔太はケーキの箱を差し出して〝んっ!やっぱりあげる食べて!〟と言ってウミガメのぬいぐるみだけを抱えた。
翔太💙『毎日荷物取りに来るね////…ツリー綺麗だね……クリスマスツリーだからツリちゃんだ//…なんちゃって』
帰って行く翔太の後ろ姿はやっぱり寂しそうだった。 リビングに戻りケーキの箱を開けると〝亮はぴば!!!〟とチョコペンで書かれた文字が踊っていた。不格好ながらも丁寧に作られたことが分かるケーキには翔太の愛が詰まっていて俺には重たすぎた。そのまま冷蔵庫にしまうと机の上の包み紙を開いた。〝誕生日プレゼント〟と称されたノートが一冊。
🗒️happy birthday亮平
お祝い遅くなっちゃってごめんね。離れて気付いたけど、亮平の事を知らない自分に驚いた。亮平の好きな物や好きな景色に、欲しい物や行きたい場所何一つ知らなくて、これまで俺の我儘に随分付き合わせてしまっていたんだね。辛い思いをさせてしまってごめんなさい。クイズの出題傾向や来年の対策なんかを自分なりにまとめました。ちょっとくらいは役に立ちたいって思ったけど…
ん???これがプレゼントって事?やっぱり変な子。びっしりと書かれたノートは分かりやすくまとめられており、ご丁寧に最後にはクイズまでついていて、思わず笑ってしまった。
🗒️クイズ1
翔太くんの好きな食べ物なんでしょう?
🗒️クイズ2
翔太くんが好きな亮平さんの仕草はなんでしょう?
🗒️クイズ3
翔太くんが亮平と行きたい場所はどこでしょう?
⚠️全問正解するまでお家に押しかけるからね♡
それから本当に毎朝俺の家に来てはクイズとケーキを置いて帰った。食べていないケーキを覗き込んでは悲しい表情を浮かべ新しい物と交換した。
翔太💙『これじゃいつまで経っても荷物持って帰れないからな!強情な奴だな…こんなに頑固だなんて知らなかった!また新しい亮平さんに会えたね♡』
翔太が毎朝訪れるようになって6日目の朝とうとう途絶えた。翔太が来る1時間ほど前から目覚める俺は布団の中で彼を待つ。毎日ドキドキと高鳴る胸を必死で隠しながら彼の奏でる音に小さな幸せを感じ目を瞑って聴いていた。時にはちょこんと布団の上から俺に跨ったり、頰をツンツンと突いたり狸寝入りの俺はひとりこの時間を楽しんでいた。
スマホで翔太のスケジュールを確認するも、今日は一日オフ日だった。ベットから抜け出すと部屋のカーテンを開ける。俺の心を表すように東京の空はどんより曇り空だった。
漸く訪れた終焉に残ったのは罪悪感と虚しさだけだった。大切な家族を失ったような空虚感は言いようのない孤独感と虚無感を同時に連れてきて俺を暗闇に引き摺り込んだ。
亮平💚『荷物送らなきゃね』
毎日一つずつ翔太が持ち帰っている荷物だが、まだ玄関に大量に山積みされている。車で来ればいいものをわざとらしく徒歩で訪れては少しずつ持ち帰る翔太も、それに付き合いながら荷物を手放さないでいる俺も大概未練がましい。
玄関ホールの扉を開けて俺の目に飛び込んできたのは愛しい人の弱った姿だった。靴を履いたままの翔太は潰れたケーキの箱を大事そうに掴んだまま床に伏せたまま動かなかった。〝翔太!〟身体を揺すると熱があるのだとすぐに分かるくらいには熱かった。
翔太💙『んっ……あっごめん寝ちゃってた?わぁケーキ潰れちゃった//ごめんねまた明日作り直してくるから』
亮平💚『そんな事より翔太熱があるでしょ?具合悪いんじゃない?タクシー呼ぶ?蓮に電話しようか?』
翔太💙『そんな事より……そうか風邪かな?どうりで身体が重いんだ…帰ります』
〝ちょっと翔太!〟のそのそと立ち上がった翔太はふらつきながら玄関扉に手を掛けるとケーキの箱を抱えて出て行った。〝今日は荷物持って帰れなくてごめんなさい〟なんて言いながらやっぱり寂しそうな背中を俺に向けた。テラスから下の様子を見るとゆっくりと歩きながら帰る姿があった。何も躊躇う事はないのに、自分が傷付くまいと保身に走った俺はただの臆病者で、彼を傷付けている。躊躇いがちに俺のシャツを掴んでいた…拒絶されて寂しそうに握った小さな手が今はケーキを支えるためだけに添えられていた。ポツポツと降り出した雨に居ても立っても居られずに傘を掴んでエレベーターに乗ると翔太を追いかけた。
コメント
8件

しょんぼり歩くしょっぴー可哀想で、泣き続けてる😭😭