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待ち合わせ場所に、黒いロングコートを着た拓人が現れた。
いるだけで空気が変わるような佇まいで、
周りの女性の視線を集めていることに本人は気づいてはいないようだ。
目が合うとこちらへ駆け寄ってくる。大人っぽい彼からの不意打ちの、少年みたいな笑顔にときめいた。
今日の同伴の行き先は
「ここ!前言ってた海鮮居酒屋!」
看板を指さした拓人の目が輝いている。
前に話題に上がって、一緒に行こうって言ってたお店だった。
お刺身の種類が多くて、一つ一つ紙で名前が書いてあるので、話が尽きない。
特に、今まで名前が分からなかった貝の正体が知れたのが良かった。
そして何より、どのメニューもとても美味しかった。
2人で笑いながら居酒屋を出て、お店へ向かう夜道を歩いている時、私はつい自分から話してしまった。
「今日は少し落ち込んでたけど、おかげですごく楽しかった」
そうしたら拓人から笑顔が消えて、
え、あの店で良かったの?と急にうろたえ始めた。
そして、そのまま通りかかった公園にふらっと入り、遊具にゆっくり寄りかかる。
「言ってくれよー」
さっきのお店とは打って変わった、静かで暗い公園で、いま彼と私の目線は全く同じ高さだった。
伸ばされた手に触れると、そっと体を抱き寄せられる。そしてそのまま頬に触れられた。
「気づかなくてごめんね」
触れられた片頬がじんわり温かい。
「でもそういう時は、ちゃんと言ってほしい。寂しいし、情けないよ」
「ごめん。でも本当に楽しかったから忘れてた」
すると拓人は目と目を合わせて、静かに私に声をかけた。
「今から根掘り葉掘り、話聞くから、覚悟しておいて」
つい勘違いしてしまう。
まるで2人のこれからが見えるような優しさ。
いつも、彼といると、悩みなんて元々なかったかのように時は一瞬で過ぎるから。
楽しい時間をありがとう、拓人。
end