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桃色青春高校が再始動してから、幾日かが経過した。
『さぁ、2099年東京都秋大会決勝戦もいよいよ大詰め! 同点の9回裏! マウンドには大火熱血高校のエース、不知火選手! スターライト学園の強力打線を抑え、何とか延長戦に持ち込みたいところ!』
実況が叫ぶ。
龍之介に勝利した不知火たちは、見事に決勝戦まで勝ち進んでいた。
そして相手は、こちらも龍之介と因縁を持つハルカ擁するスターライト学園である。
不知火は帽子を被り直し、ロジンバッグを手に取った。
「まだまだ、試合はこれからだぜ!!」
彼女は吠える。
その表情は自信に溢れていた。
しかし、不運な内野安打やエラーなどが重なり1アウト満塁のピンチを迎えてしまう。
『4番・ピッチャー・ハルカ君』
「ふふん。いよいよ私の出番ね」
打席に立つは、4番のハルカだ。
彼女は不敵な笑みを浮かべながらバットを構えると、不知火に対して語りかける。
「あんたの球は見切っているわ。尻上がりタイプみたいだけど、さすがにもう限界のようね。満塁だから、四球で逃げることもできない。この勝負、もらったわ!」
「……勝手に言ってろ。アタシは絶対に負けねぇ!!」
不知火はハルカの言葉に動揺することなく、言い切った。
そして、その言葉通り強気のピッチングを見せる。
『ストライッ!』
不知火の球威に、ハルカのバットは空を切る。
そして1ボール2ストライクと追い込んだ後の、4球目――
「予想通り、高めに外してきたわね! でも、ここは私の得意コースよ!!」
ハルカはタイミングを合わせ、バットを振り抜いた。
彼女は一流バッター。
少しばかりボールゾーンに外れた球であっても、ヒットにすることは可能だ。
それが得意コースであれば、なおさらである。
カキィィィン!!
快音が鳴り響き、打球がレフトへ伸びる。
「あははっ! 完璧に捉えたわ! 明日のニュースが楽しみね! 決勝戦でサヨナラ満塁ホームランなんて、これ以上の話題はないじゃない!!」
ハルカが勝ち誇ったように叫ぶ。
その打球はレフトスタンドにまで到達すると思われたが――。
バシィッ!!
「えっ……!?」
レフトが最奥部でフライを捕球した。
ハルカの打球は途中で失速し、スタンドまでは届かなかったのだ。
「ど、どうして!?」
ハルカが困惑する。
ボール球とはいえ、狙い球を完璧に捉えたはずだった。
『ハルカ選手の打球はレフトフライ! しかし――3塁ランナーがタッチアップ! レフトからのバックホームは――間に合わない! セーフ!! スターライト学園、サヨナラ勝ちーー!!!』
「「うおおおおぉっ!!」」
ベンチから、スターライト学園の選手たちが飛び出す。
そして歓喜の輪を作った。
「さっすがはキャプテン!」
「見事な犠牲フライだ!」
「本当に凄かったよ!!」
チームメイトたちがハルカに労いの言葉をかける。
だが、彼女は腑に落ちない様子で、マウンド上の不知火に視線を送った。
「どうして……どうしてなの? 完璧なホームランだったはずなのに……!」
ハルカが悔しさを滲ませながら呟く。
一方、当然ではあるがサヨナラ負けを喫した不知火も、心中穏やかではない。
「くそっ……。打たれちまった! すまねぇ、みんな……!!」
悔しがる不知火。
それに対して、大火熱血高校のナインが彼女を励ます。
試合終了の挨拶を交わした後、ベンチに引き上げる彼女たちに応援席から惜しみない拍手が送られた。
その応援席には、龍之介を始めとした桃色青春高校の面々の姿もある。
「素晴らしい戦いだったぞ! 不知火!!」
「龍之介……。でもアタシたちは負けて……」
「結果が全てじゃない。俺たちはライバルであると同時に仲間でもある。共に特訓した成果は十分に出せた。それだけでも十分じゃないか!」
「……そうだな」
龍之介の言葉に、不知火は少しだけ気持ちが軽くなった気がした。
彼は本当に野球仲間を大事にする男だと改めて感じ、自然と笑みがこぼれる。
一方、そんなやり取りを少し離れたところから見ていたハルカは――
(ど、どうして龍之介があのピッチャーと話しているのよ? それに、一緒に特訓したって……)
彼女は歯がみしていた。
彼女にとって、中学時代のチームメイトである龍之介は決して小さくない存在だ。
龍之介と不知火との親しげなやり取りは、見ていて気分の良いものではない。
(……あのピッチャーの底力は龍之介が影響しているのかしら? いずれにせよ、気に入らないわね。私もジッとしてられないわ……!)
歓喜に沸くスターライト学園ナインの中、ハルカは静かに拳を握りしめるのだった。