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注: この作品はUT-AUの二次創作です。
設定捏造
人によってはキャラクターの解釈不一致を感じる場合が あります。
作品は完結していません。中途半端な場面切り替え、中途半端な切り上げがあります。
あと、とてーも短い。
ワンクッション
神秘で神聖であるべき生と、生を生たらしめる概念を失ったオレとではまるで本質すら違っている。
手遅れなんだ。自分よりも健やかな群衆を散々妬んだ。籠に放り込まれ、それっきり手入れもされない蛾が衰弱していくのと同じ、オレは衰弱を受け入れたいのに無理に生かされる。…そんな弱虫が今、自由になっても一体その蛾に何が残っているか。自分ははたしているのか。
写し鏡は光れないのが、常識という概念だろう。
雪花を背に紫色の古い大扉と向かい合う。スリッパはとっくに真白くなっていて、それが塵がどうかなんて問題ではない。
ここらで2番目に悲痛な場へ足を運ぶのは、オレの思考が堰き止められる。
いや、名残少ない思い出に浸りに来たわけではなく、待ち構えに来たのだ。妙な方向へ進みそうだった。
オレは俯く。ここに立ってから、どのくらいの時間が経過したか誰かに問うてみても、答えてくれる人もいない。
どれだけ待とうが、やる気のない遺跡の扉を睨みたって不信が募るばかりで開くことはなかった。
そして、オレはあることを確信する。絶望も絶望。あのニンゲンが来なかったら、オレはこれから、ニンゲンを殺す以外になにを生きがいにしていけばいいのか、さっぱりわからない。想い願い、それが希望とでもいうように扱ってきたものが崩れ落ちる気がして、酷い動悸とめまいに襲われた。
「パピルス、ニンゲンは_……!」
出した声も息も途絶えた。”ニンゲンは来ない”。最後まで繋ぐことも出来ない言葉の代わりに他が代弁したよう。驚いて耳をすませば、音が聞こえてくる。ガサガサと、後ろの茂みになにかが隠れているような音が。
心身疲れ切り、盲目になっていたオレはその正体がなにかも確認せず、勝手にあの人間だと信じてすぐさま後方へ骨を飛ばしながら振り返る。
「……?」
あれ、と疑問に思う。飛ばした骨が、茂みに隠れていたナニカに刺さった感覚も音も、骨が跳ね返ってくることもなければ側に捨てられることもなかったのだ。_外したかと残念がったが、それよりも断然、現状に目を向けたほうがいいと、いないパピルスが囁く。
そうだ、オレは骨を命中させた。しっかり命中させたはずなのだが、ダメージを食らわなかったのか?
「っ、…!」
それは半ば大当たりで。…そのクラヤミに骨が飲み込まれていったんだ。比喩じゃなかった。
オレはグニュグニュと形をあれこれ変えて動き回る黒い液体のような物体に不思議がり、現実にある永遠の暗闇にぎょっとして、こんな非現実なことにまた驚く。ようやっと動き始めた頭に、ぐしゃぐしゃの服で一体何だと、心で叫ぶ。
あれも違う、コレも違う。全員殺した。ニンゲンではない。_じゃあ、このクラヤミは?
雨に打たれたか、と勘違いするほど垂れた汗の由来は、きっと恐怖であろう。
「っ、! …っ、あっ、…!?」
ついに、後退っても足らず、暗い、暗い木の幹へ背中がついてしまったので、ショートカットでその場から離れの森へ逃げる。酷く混乱した脳が妄言をでっちあげていく。
あのクラヤミも、オレが作った幻覚か? そうならば、オレはとんでもない獣に成り果ててしまったものだ。
森を、雪道をひたすらに逃げた。
(意味が分からない! あんな不安! あんな化け物知らない!)
酸素が体中に巡らず、目を開ききって倒れる。ひとしきり慣れた雪積もりだから、冷たく凍える覚悟は出来ていた。_が、オレが倒れたのは想定していた氷床ではなく、いつの間にやら追いついていたクラヤミの腕らしき所であった。
しまった、と焦りに焦る。そこまではいいものの、そこから抵抗する気力もなく、疲れ切った脳を考慮して意識を飛ばした。
。
いつからだったか。
生を生たらしめる概念を完全にどこかへやってしまったのは、いつからだっただろう。
膜はどこまでも音がなくて、オレの心臓を落ち着かせるのもあっという間。それに安心していくつか経てば足元がいつものキッチンタイルに変わっている。
おかしくなって頭をあげた。
(…パ、ピルス、がいる…。)
弟がいる。
いつもと同じエプロンを着て、いつものスパゲティを煮込んで、いつもと同じ調子に、笑顔で。まぶしくてシアワセで、目を細めたけれども視線は外さなかった。
「____っ! ____?」
パピルスが口を開いている。何か、何か、確かに話している。きちんと返してやらないといけないのだが、こうして口があって、動作があって、温度があって、実体があるパピルスが嬉しくてたまらなかったから、言葉が抜ける抜ける。
ついには心まで、声も。何の話かと問われれば、大事な人の話と答えよう。そうして皆までも失い、その失う要因となったのがオレで?
そうやってクラヤミに一人で丸飲まれたままに自らの意思で抜け出そうとせず、目が劈いてドス黒くなり、クラヤミに落ちて、また自らの意思で嵌ってループして…
目がはっきりしないんだ。
「____ぃっ!」
囚われたのは、わざとだったのかも知らない。
「__ろっ!」
オレは、殺すのが性に合っていただけだったのかも、好きだっただけなのかも。そこに、正義だとか皆のためだとか、無駄な理由は必要なかったのかも。
「もうっ! 起きろってば!」
「っお、わっ…!」
鈍い衝撃がいきなり腹に入った。
突然のことで事態を把握できない頭が取り起きるよう指示を飛ばす。目を点にして、倒れ込んだ姿勢から正せばオレを起こした犯人がいることを理解する。
「はぁっ…手間のかかる愚図だな…!」
籠の持ち主はあのクラヤミだった。