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どうして。
今日は不可思議なことばかり起こる。
気が付いたら白い部屋にいて、机の上に置かれていた紙に同県の市を書けと言われた。誰かの市名を勝手に書くのは少し気が引けたから、市ではないけど身内である七の名を書いた。
そのあと少し経って、インカムを確認していたら唐突に、目の前が真っ暗になった。唯一見えたのは、赤文字で記された「deleted」の文字。削除、消す、という意味合いを持つ単語。それが何を意味するのか、その時は解らなかったけど今ならわかる。俺という存在を消した。そういうことだろう。そもそもあの空間がどういうものなのか理解できなかった。近未来的なあの設備を考えるにメタバースを想起させられたが、その推測が正しいかなんて証明しようがない。まぁ、俺たちを巻き込めるメタバース技術なんてあったらたまったもんではないのだが。
再び目を開けて見た景色は、東京の高いビル群だった。あの白い部屋に行く前は確実に■■にいたはずなのに、どうしてだろう。仕方ないから、新幹線で■■まで帰ろうと思った。不可思議なことが幾度も俺の身に起きてるのに、無事に帰れるわけがなかった。少し頭を回せば思い当たることなのに、予想できなかったのは本当にバカだと思う。
自分の異変に気が付いたのはスマホで新幹線の予約をしようと思ったとき。
スマホを持つことができなかった。人や物に触れることができなかった。そもそも、自分の状態にいつでも気づけたのだ。街行く人々の視界に、俺なんて写ってなかったってことに気づければ。その時に悟ってしまった。俺の存在が、人間の中から消されってことに。それと同時に、あの「deleted」の意味を理解した。自覚してから、視界に入る俺の身体が透けているような気がした。
理解はしたとして、行く当てもなくなってしまった。無賃乗車は気が引ける。日が暮れたとしても、東京の街はネオンライトと高層ビルの明かりでずっと照らされ続けている。少しはこの街を見続けてもいいか。そう思ったとき、あの、と誰かから声をかけられた気がした。
「…八戸市、ですよね」
昔に会ったことあるような気がした。参勤交代の時に幾度か出向いてくれた、武蔵国によく似た青年。東京は武蔵国に似ていれど似ていないから、ここまで似ているのはただ一人しかいないだろう。東京都府中市。またの名を、武蔵国国府。
「deleted」された俺を見つけた、唯一の精霊だった。
帰宅が遅くなった。それは重々理解している。今日はやけに仕事の進みが遅かった。それにしては、電話越しに聞いた武蔵野、立川両者の様子も余裕がなさそうな空気だったし、あの二人じゃないとすれば、また23区の誰かがサボっているのだろうか。元宿場町の三人はサボらないだろう、都心三区はサボるなんてことが端から頭にない可哀そうな社畜。ここまでの業務停滞を引き起こすのは適度にサボりを覚えてしまった豊島か文京、江東の誰かか。
まぁそんなのは明日になれば分かる話。
帰路を急いでいたときだった。見慣れない姿を見かけた気がしたから、ついつい後を追ってしまう。あの氷のような髪色には心当たりがあった。ただ、どうして東京に? それを聞くためにも、声をかけた。
「…八戸市、ですよね」
彼は一瞬驚いたように目を見開いたのち、肯定するようにこくりと頷いた。よかった、あってたようだ。どうしたんですか、そう言おうと思ったときだった。気が付いたのはほんの些細な違和感から。彼を見る。ほんのりと、風景に同化しているように見えた。
嫌な記憶が呼び起こされて、呼吸が詰まる。僕はそれを、よく知っていた。武蔵国が消える前とよく似た姿。薄れて、徐々に精霊という存在が忘れ去られていく、あれ。彼は何か話しているようだが、もう声も届かないくらいになっているようだ。…いや、まだ、落ち着け、僕。僕が取り乱すな、諦めるな、八戸自身は僕が声をかけた際に驚いた顔をしていたから、きっと今の自分の状態を理解しているはずだ。ここはひとまず、僕のやるべきことは…。息を深く吸って、吐く。よし。
先ほどの反応から僕の声は届いてる。つまり、こちらからYESorNO、或いは身振り手振りで回答することができる質問である程度のコミュニケーションが可能ということ。とりあえず、このまま外にいるのは僕の明日に関わる。僕の家でいいか。
「あの、こんなところで立ち話もあれなので、僕の家に来ますか? その、僕の方から聞きたいことが色々あるので」
僕に言葉が届いていないこと、彼は気づいているのだろうか。気づいていないだろうな。ただ、僕の家に来る気はあるようで、僕が家に向かって歩くとその後ろをついて来る。
家に着くと、彼は少し居心地が悪そうにそわそわ、うろうろと動き回る。本当に居心地が悪いのかな…それは、ちょっと、悲しいかもしれない…。
「えっと、八戸さん、状況を確認しましょう」
まず、たぶんですが僕に貴方の声は聞こえていません、そう言うと明らかに慌てたようで、忙しなく表情が変わる。…おもろ。
「これからYESかNOで答えられる質問をしても宜しいでしょうか。YESなら首を縦に、NOなら首を横に振ってください」
そういうと、八戸は首を縦に振る。よし、よし、これなら多少なりと意思疎通を図ることができる。
「それじゃあ、えっと、ご自身の状態はご存知ですか。その、透けてるのは…」
…縦に頷いた。透けてる状態なのは知ってる。つまり八戸さんから見ても透けている、ということ?
僕が知ってる症状とは違う。…武蔵のような自然的な崩壊ではないってことかな。でもなら、何故?
「こうなった理由に心当たりは?」
…ある。どんなことなのか聞き出せないのが問題か。…ならば…。
「それは、八戸さんが直接関与できるものだった?」
…関与できないこと。不可抗力? 国が動いたとか? でも何故それは東京都に知らされていない?
…いや、知らされているかも知れないが僕が知らないだけ? …そんなわけない。少なくとも僕は東京に行く書類には全て目を通している。そんな話題は1つもない。中核市が消えるならば必ず話題に上がるはず。
口頭や管制室でメールの遣り取りだったとしても、中核市の半消滅に世間一般が何も言わないことが怖い。少なくとも、まだ、この薄れた状態でも人間の中に精霊という存在の認識は残ってるはずだから。
ならば、1つ確かめよう。これが出来れば、八戸さん遣り取りはかなり楽になる。出来ない場合は、仕方がない。
「八戸さん、ペン、持てますか?」
軽く首を振った。既に他のもので試したのだろうか。やらせて見れば、彼の手はペンをするりと抜けていく。…ダメか。
「うーん、じゃあ、…そうなっちゃった理由には相手がいる?」
…いないっぽい? ちょっと曖昧だったな。…とすれば即いると回答できる国や政府じゃない? いやそう回答するかどうかも分からないけど…。その2つが違うと仮定すると何だろう…外的要因は今の時代だと殆どないし、あるとしたらそれこそ院からデータが消されたとかじゃないとこんなことにはならない。でもそれを確認しようとなると、つくばまで行かないといけない。
うーん、これ八戸さんむず痒いだろうなぁ、言いたいことが伝わらないの。僕が頭を悩ませている時だった。
唐突に、スマホから大きく通知音が鳴り響く。電話。相手を見てみれば、これまた珍しい子だった。…神奈川県厚木市。神奈川の政令指定都市である相模原を押しのけて神奈川県3つ目の首都圏中心地になっている子。時々都庁で顔を合わせるし、昔は矢倉沢往還で大山詣りへ行く際に何度か会ったことがある、なんだかんだ古い付き合いの子。
…どうしたんだろう。こんな夜遅くに。八戸さんが気になったのか覗き込んできていたから、スピーカーにして電話に出る。
「厚木? どうしたんですか?」
『どーも、夜分に失礼します。…あれ、もしかしてあの二人から何も聞いてない?』
何を、そう言った途端厚木の声色が変わった。あの二人、思いつく限りだが、きっと立川と武蔵野だろう。全く、あのガキどもは何を隠しているんだか。
『まぁそんなこと後ででいいや。どうせ説明するし。今おれ都庁に泊まってるんだけど、ちょっとに気なることがあったから聞きに』
都庁に泊まってる? いつも新宿がいるからどんなに都内に残らなきゃいけないくらい忙しくても泊まらないって言ってたのに?
『この特別管制室って、開いたままでいい部屋なの?』
………は? 特別管制室が、どうしたって? 絶句する。あの部屋の開閉ができるのは僕と東京、新宿、千代田の四人だけ。人間が出来ないこともないけど、あの階に来る人間なんて殆どいない。基本霊力でのロックだし、その除外対象となるのは精霊だけだからそもそも気にもしてなかった。人間が入ったところで結局何も出来ないのだから。
でも、その場所がどうしたって、開いたまま? 噓でしょ。
「…開いてちゃいけない部屋ではある。中に入った?」
『いや。入ってない。ただ扉が開いたまんまで、光が漏れ出てたもんで気になって』
明日アイツらに聞かなきゃな。言葉に出ていたのか、電話越しにアイツらって? と聞いてくる声がする。僕が東京都や新宿、千代田の三人と答えると、厚木は一瞬黙った。電話越しだからよくわからないが、これは恐らく無になった、というべきか。
どうかした? 声をかけると本当に知らないんだ、という返答と共に驚くべきことを告げられた。特別区、政令指定都市、中核市に加えて一部都市の失踪。
「はぁ?!?!?! ちょっと待って、あんのガキどもそんなこと一言も…チッ…あ~、わかった。明日都庁に行って色々やる。他の道府県に公的な指令とかを飛ばすのは特別管制室だから、悪いけど一旦特別管制室は放置でお願い。明日一緒に来て。入れてあげる。あと、明日あのガキどもは都庁に来る?」
『たぶん来るよ、だけど、あまり怒らないでやって。あいつらも余裕がなくて視野が狭くなっただけだと思うから。…ところで、こういう管制室って各都道府県庁にあるの?』
あぁ、あるんじゃない? そう思って横で話を聞いていた八戸を見る。青森の県庁候補であった都市だから、知っていると思った。八戸はこくこくと首を縦に振る。どうやら各県庁にあるようだ。僕もそれは知らなかった。
それにしても、怒らないで、ね。考えておこう。
『…神奈川県庁行くよりも都庁の方が行くの楽だから知らなかった』
夜遅くにごめん、ありがと、おやすみ、と彼は電話を切った。はぁ、明日都庁に行く予定ができてしまった。それと、東京に連絡しておかないと。…ガキども、流石に東京には連絡してるよね?
一抹の不安はありつつも、メッセージアプリで東京に連絡をする。すぐ既読が付けばいいんだけど。どうせゲームでもして夜更かしをしているだろうし。
「八戸さん、明日一緒に都庁来ますか?」
僕がそう問うと、彼は口パクで”いいの?”というように聞いてきた。はい。そう返事をすると彼は嬉しそうに頷いた。よかった、提案を飲んでくれて。半分消えかかっている人を放置していくのは流石に不安しかない。
とにかく、僕には情報がほとんどない。明日ガキどもに問い詰めるとして、とりあえず管制室から全体メッセージを飛ばした方がいいか。…いや、ことを大きくしすぎるのも対応が大変になるか。人口が多かったり歴史が深かったりするところにメッセージを出して…。
それで、行方不明になってしまった都市の多いところから色々聞いて…そういえば、行方不明なのは特別区と政令指定都市、中核市。
……ん?
「八戸さん」
「中核市、でしたよね」
こくりと頷いた。…八戸さんを尋ねて導き出した情報、もしかして今回の件に大きくかかわっているのでは?
府中との電話を終える。
…矛盾。やっぱりおかしい。今日はおれがずっと都庁にいた。その間都庁に入った都市はおれ、立川、武蔵野の三人だけ。そして朝、都庁の人間に泊まりの話を通しに行くとき、この廊下を通ったが、ここは閉まっていたはず。このフロアは基本ドアが開きっぱなしになることはないはずだから、開いていたら気づく。
それで、先ほどこの特別管制室のことを話した際に府中から名をあげられた特別区は朝の時点で行方不明。東京都については結局、業務が終わるまであの人に連絡した武蔵野のスマホに返信はなかった。おれが少しドアに触れようとしただけで激しく入室を拒絶されたから触ることが出来るのはあの4人だけなはず。ただ、府中は絶対都庁に来ていない。一番怪しいのは東京都だけど、連絡が付かない以上どうもいえない。
「…この中、何かありそう」
明日、府中が都庁に来るといった。今夜の間、少なくともこの特別管制室は空きっぱなし。何が起きてる。
少なくともこの部屋の管理権限を持っている奴らはそうこういうミスをするような奴らじゃないのは理解している。だからこそ、おかしい、矛盾する。
まぁ、おれが入れないならきっと他の都市も入れない。セキュリティーは確保されているようだし、さっさと戻って寝よう。今日はいろいろなことが起きすぎた。
そう思って借りている部屋へ足を向けようと思った時だった。
「……」
気配。振り向く。何もない。
…気のせい。
…本当に?
本編が話数を重ねるたび、とんでもない文量になっていっています。KRSです。泣いちゃうね。最初1200字とかだったのに、これはあとがきとかも含めて5000字を優に超えています。アホですか。いつも読んでくださってありがとうございます。本当に。
次からはようやく戦闘シーンをかけそうでほこほこしている戦闘シーン大好き人間です。もうそっちは四割くらいは書けてる。
…繋ぎ? なにそれ? 書けてません…。