テラーノベル
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#4「君のままで」
※青桃
※エセ関西弁
※御本人様とは関係ありません
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「ないこ準備は済んだー?」
まろと出会って早一週間、取り敢えず神社に住み着いていたが本格的な逃避行が始まろうとしていた。
神社にはまろに頼めばいつでも戻ってくることが出来るらしい。準備するものはそんなに無いものの、会社用のバッグを再確認する。
「準備とか必要かなぁ」
「あ、ちょっとそれ俺に見せて」
そう言ってまろは俺のバッグを漁り始めた。
「まだ俺いいって言ってないんだけど」
「知らんそんなもん」
「和紙…にしては沢山文字書いてるなぁ、あと何?この大きい板みたいなの」
まろは世の中をあまり知らないのかもしれない。知識がだいぶ前で止まっているように感じた。
「それは会社のレジメ、で板って言ってるのはパソコン。他にあるのも俺の仕事道具」
「ふーん、」
初めて見るものに興味があるのか、しばらくまろはそれをつついてみたり、眺めたりしていた。
「これいらない」
「は?」
ポイっと、レジメやらパソコン、その他諸々まろは山奥に放り投げた。空にばら撒くもんだからハラハラとプリントは舞うし、パソコンはガタッ、と鈍い音を出しながら地面へと落ちた。
「…え、いや…何やってんの!?」
「ん?だってこれもう要らないやろ?」
「今から逃避行するのに、会社の道具なんて必要ある?」
「無いけど…」
「やろ?余計な重りなんて持ってかないでいいよ、今のないこにいる物だけでいいから」
ね?、と妙に説得力のある事を言われ、見つめられると何も言えない。まろの言うことは確かに正しい。俺たちは今から逃避行するんだし、一週間以上経っても会社から心配する連絡すらないんだから、俺の存在はもう社会には必要ない。
「……はは、確かに…もういいや」
「会社の物なんて必要ないよね」
本当に必要なものだけを集めてみる。結局残ったのはスマホと財布くらいだった。
「こんだけになったんや」
「うん、これさえあれば何とかなるかなって」
「ないこはずっとその服でええの?」
「ん?あぁ、スーツは雑魚寝する時に被せたらいいかもしれないし、シャツはこのままでいいよ」
「そっか」
「ま、白衣が欲しかったらいつでもあげるわ」
「じゃ、そろそろ行こうか」
夕暮れ時、もうすっかり見慣れてしまった神社を見つめる。次ここに来るのは何時になるのか。
シャラン、とまろの飾りに付いている鈴が鳴り、俺達の幸せ探しの旅が幕を開けた。
「さぁ、何処に行こうか!」
「そんな元気に言う?」
歩み始めて早20分ほど。もう前みたいに同じ道を繰り返し歩くなんてことはない。未知なる道をただひたすらに進み続ける。住宅街なんてものはなく、平坦な道を一歩ずつ踏みしめていく。
「やって暗いのは柄じゃないんやもん」
横から聞こえる足音と鼻歌交じりの声が底抜けの明るさを物語っている。
「ないこ!ほら、見て蝉!!」
「うわっ、見せてくんな!!」
「しかも何匹もいるし…!?」
ものすごい笑顔で寄ってきたかと思えばこの有様、やっぱりまろを侮ってはいけないのかもしれない。
「いーじゃんいーじゃん!空の上に居たらこんな事出来ないんやから」
「そういえばまろって空に居たんだよね」
「そうやなぁ、俺以外にも沢山神様はいるよ」
「へぇ…」
まろみたいなのが沢山いたら大変なことになりそうだけどな、
「あ、今余計なこと考えたやろ」
「さぁ?」
「ないこが嘘つく時に少し首傾げる癖は俺分かっとるんよ」
もうまろと話すのもすっかり慣れてしまった。余計なことを思ったり、口に出すと頬を膨らませ拗ねたように俺を睨んでくる。
「はいはい、すみませんね」
「それで、みんなまろみたいに動物の耳とか生えてんの?」
「生えとるよ、狼とか…あと兎とかもおるなぁ」
「へぇー、神様って意外に可愛いよね」
「…可愛い?」
嬉しそうに肩を竦めているまろ。照れているのか猫耳を触ったり、指を髪に絡めたりしている。
まろは知らないだろうけど、お前の癖だって分かるようになってきたんだよな。でもそんなこと言ってやんない。
「でも、ないこはもっと可愛いよ」
「………ん?」
今、可愛いって言った?成人男性の俺に?
きっと聞き間違いに違いない。
「今なんて…」
「んー?神様は同じことは二度も言いません」
にひっ、と意地の悪い顔をしたかと思えば急に走り出した。
「いや、走らないで!?」
わはは、と楽しそうに両手を広げて一本道を駆け抜けていく。風を切って装飾の鈴の音を鳴らしながら。
「…もう、しょうがないなぁ」
…走って追いかけるかぁ、運動不足の重い体をなんとかして素早く動かそうとした。
「__!!」
まろ、何か言ってる?手招きをしながら俺を呼んでいるように見えた。遠くに走っていったから聞こえないだけかもしれない。
「何て言ってるの!!!」
まろに届くように全力で叫んでみるが、なんとなくしか返事が聞こえてこない。
「…?」
「…ないこ、どしたん?」
「うぉ、急に来た」
俺を不思議に思ったのか、神様パワーとやらで目の前に一瞬で移動してきた。
「…__」
「…ないこ、俺の声聞こえる?」
「うん、聞こえるよ」
「……そっか」
「置いてってごめんな、ほら、一緒行こう」
手を差し出してきたかと思えば俺の手を握ってきた。
「ないこ、浮くよ」
『浮くよ?』待って浮くって何___
ふわっと身体が宙に浮く不思議な感覚に襲われる。…え、俺今浮いてる?
「…ぇ、…え??」
「歩くの疲れてきちゃった、空の旅もしよっか」
「いやいや、空の旅!?」
地面なんてないはずなのにまろと手を繋いでいるからか落ちることはなく、表現がし難い感覚に陥る。
冷静に考えて俺今浮いてんの…?
「こら、ジタバタしないの、落ちるで?」
なんとも恐ろしい注意を受け大人しく浮くことにした。
「ないこは浮けるんやなぁ、もしかして才能が__」
浮ける、というかまろが居るからなんだけど…途中声が小さくて途切れ途切れに聞こえたが、どうやら俺にはよく分からない話みたいだ。
「そうや、綺麗な景色探しに行こうや」
「綺麗な景色…?」
「そう、ないこが見た事のない凄い景色」
「ないこが好きなのはどういう所?」
「好きな所…?」
考えたことも無かったな、社会人になってからは時間に余裕も無くなって何処かに出掛けたりもなかったし…
「…落ち着くとことか、好きかも」
「落ち着くところなぁ…じゃあ、好きなこととかは?何でもいいから」
「好きなこと?」
好きなこと、食べることは好きだけどそういうのじゃない気がするし、寝ることも…きっと場所に紐付けようとしているはずだから関係ないかも。
「匂いがあるの…香水とか、俺そういうの好き」
「へぇー、意外やわ」
まろも今までの奴らと同じように男なのに香水なんてって思うんだろ?そういう偏見本当に不快__。
「でもええやん、ないこの好きなことしれて嬉しいわ」
「そっか、匂いかぁ…綺麗で良い匂いがある場所」
「…否定しないの?」
「否定?何に対して?」
きょとん、と訳の分からなそうに見つめてくる。あぁ、やっぱりまろは違う。ありのままの俺を受けいれてくれるんだ。
「その…男なのに香水とか、変って思うかなって」
「思うわけないやん、好きなもの好きって言って何が悪いん」
「………」
「ぽかーんってしないでや、俺はないこのままで居て欲しいし」
「…まろは、何が好きなの」
「えー?俺かぁ」
「ないこの笑顔が好きやな」
ド直球にそんなことを言われる。でもその瞳は本心だというように揺るがない。
「…ふふっ、何それ意味わかんない」
「意味が分からなくていいよ、俺がないこを守るから」
宙に浮いてて、隣にいるのは天神様。信じられないことばかりだけどそれがなんだか心地よい。
そんなことを呑気に思っている間も、少しずつ俺の体が何かによって蝕まれているなんて思いもしなかった___。
♯5「ラベンダー」
コメント
8件
文章の書き方好き😭😭表現の仕方がなんか…すごい✨((語彙力無 独特な世界観で見るの楽しい🥹
何に拒まれているんだ、、もう、続きが気になって夜しかねれない((
楽しみにしてますっ🫶🏻