和室から縁側を通って、宴を開くような広い部屋へ出た。
俺は初めて見る景色に唖然としたが
サーガラはケロリとした顔で机まで案内してみせた。
ララは目を輝かせると、こうサーガラに言う。
「ねぇ、何か食べ物はないの?
ハウスドラゴンでも食べられるような食べ物は。」
(無茶だろ)
俺は呆れて否定しようとしたが
サーガラが腕組みをして頷いた。
「ん〜…あるよ。」
「マジ?!」
ハウスドラゴンの食えるものなんて
聞いたことがねぇ。一体どんなものなのか見てみたい。
サーガラが召使いに運ばせると
それは虹色に輝く円型の飴のようなものであった。
「虹飴(にじあめ)海底の鉄鉱物の一つで
竜や俺含めた龍王のみが食べられる。
とても繊細で美しいことから
竜珠(たつじゅ)なんて言われるよ。」
得意げに説明してみせると、その虹飴を手に取り
ララに渡した。飴の大きさは、ララの体に合っていて
本人もペロペロと舐めながら食べている。
(へぇ。綺麗だなぁ。)
俺が見惚れていると
ララの性格が出たのか、舐めていた飴を噛み砕いた。
バリバリボリボリと鈍い音がして
噛み終わると飲み込んだ。
サーガラは驚く俺を見て鼻で笑うと
乙姫に「酒でも持ってきてお上げ」と命令した。
3分ほど経っただろうか。俺を含めた三人で
話をしていたら乙姫が酒の樽(たる)を抱えて、入ってきた。
「そんな要らねぇよ!?無理無理無理…!」
俺が引き下がっていくとサーガラが片手で
俺の背中を静かに押して、元の位置に戻された。
酒を大きな入れ物に注ぐとララに一つ
手渡した。俺はというとビールのような入れ物に注がれ
渡された。仕方無しに口をつけると独特の苦味と
炭酸飲料のような嫌な感じがする。同時にアルコールの
香りがして脳に刺激が走った。何杯か飲むと頭がボーッとして
クラクラとしてくる。見ての通り俺は酒に弱い。
もう諦めて眠りにつこうと思ったその時
声が聞こえて、俺は目を覚ました。
「アンタ起きなさいよぉ〜ここからが本番なのぉ〜!!」
顔を真っ赤にしてフラフラとするララが
俺の胸ぐらをつかんで起こしてくる。
「オメェ…」
俺がキレかけた途端、サーガラがこう言った。
「まぁ、落ち着きなって。オモロイじゃん。」
そんなことを話すサーガラは
1ミリたりとも酔っていない。なんなら水を飲むように
酒を飲んで、パイプ煙草を吸っている。
「…んで…なんで
そんなに余裕なんだよ?!」
暴れるララを抑えて聞くと、フーっと煙を吐いて答えた。
「…前からストレス発散で吸ってたからね。」
「酒もストレスで飲み慣れた。お前も飲めば慣れるよ。」
ララと俺は止まった。
あの明るいサーガラに、日影が差したように暗くなった。
そして、またパッと明るくなるのだ。
「ストレスって?」
沈黙の中でララが聞いた。
それにサーガラは笑って答える。
「片思い”された”んだよ。」
また、そう言うと高く笑って真顔に戻った。
「俺だって、いつまでも明るいわけないだろ。」
アリにも聞こえぬほどの小声で呟くと
また一杯、酒を口にした。このときに分かったことは
コイツも酔っているということだ。
虚しくなってしまったので俺も酒を飲んだが
ララはしばらくすると、また暴走し始めた。
「あんたら、恋バナとかないの?!」
「はぁ?」
「ほら、まだ私もアンタたちも若いじゃない!
今現在、恋してるでしょう?」
「…恋?」
そういえばしてなかったなぁと思い
今までの記憶を呼び起こしてみたが
俺と関わった女は、ララくらいしか居ない。
(俺は孤独だったからなぁ。)
コップの氷をカラカラと鳴らしながら
そう考えていると、サーガラが口を開いた。
「…友達の話していい?」
「え?何かあるの?」
「うん。」
「破壊神モドキの友人が、メスの麒麟に恋して
麒麟に化けるの。それから結婚して子供作った。」
「だけど、長男のクルル以外クズだったから
封印したんだよね。海底の端に。」
「クルルゥ?!」
普通に驚いた。
クルルって長男なのか…?
助手だからか次男に見えるのに。
「ほへぇ〜〜意外ね。ロウヴェスは?」
「俺は――」
言おうとして、口を塞いだ。
「ない…」
「…そ。」
俺は妙に冷や汗が出てきた。
ララはというと真顔だ。サーガラはニヤニヤしている。
「とか言ってあるんでしょ〜」
空気作りのためかサーガラが聞いてくる。
けど正直、そんな恋愛話はない。
「そうだな…ララ以外の女と関わったことねぇし。」
「他の女と話しても合わねぇな。」
…ヤベェ…何言ってんだ俺は。
違う違う…勘違いされちまう…。
前言撤回しようと口を開ければサーガラに塞がれた。
「ララちゃんは?」
「あ〜、私もコイツ(俺)以外と関わったことないわね。」
「まぁ?他の男と話しても合わないし?」
これは…イジられている。ヤバい。
今の自分の顔がどうなっているか知りたい。
心臓の音の速さが高速道路並みに速い。
ニヤニヤと笑みをこぼすサーガラを見て
イラついた。正確には恥ずかしさで逃げたくなったのだ。
俺はしばらく考えてスピラエに意見を求めようとしたが
よく考えたら煙人だ。意見を言うはずがない。
俺の逃げ場はない。八方塞がりだ。
沈黙の一分間は、まるで三十分。俺の発言の恥ずかしさと
ララの発言に喜ぶべきなのかを考える苦しい時間だった。
そして、時が動き出したかのようにララが口を開く。
「両思いね!」
「?!」
心臓が破裂したかと思った。
盗み聞きしていたのか、縁側で転ぶ音が聞こえたが
それよりもララの発言に耳を疑う。
「えっと…なんて?」
慌てながら冷静に聞くと
恥ずかし気もないケロッとした顔で答える。
「いや、普通に両思いでしょう。
アンタは私以外の女と関わってないし
私はアンタ以外の男と関わってないわ。」
「…確かに。そうだな。」
「でしょ?サーガラはどう思う?」
サーガラに振るなよと思いながらも
返事を待つとサーガラは考えて答えた。
「ん〜〜?両思いなんじゃない?
相性良さそうだし、付き合えば良いよ。」
「”幻獣と人間との共存”に繋がるだろうし。」
付き合う?俺は正面にいるララと顔を見合わせた。
しばしフリーズして、意味を完全に理解すると
椅子から転げ落ちてしまった。
「は?!何言ってんだお前?!」
「ララもなんとか言え!」
「え?私は良いわよ?」
「お前は判断が早いんだよ…!
もうちょい考えろ。酔ってんのか?」
いいや、よく考えたら
ララは酔っているはずだし、これも勢いで…
「は?酔ってないわよ?」
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