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ベッドの上で目を瞑ると、この星に帰って来てからの情景が次々に思い浮かぶ。
「……悪魔、か」
目を開き、考える。炎の悪魔、アウナス。アイツは一体、何だったんだろうか。
「召喚者が居なかった、か……」
明らかに変だ。思えば、あの街中でのコボルトの発生も変だった。あんなところでコボルトを放ったところで大した被害は与えられないのは分かり切っている筈だからな。
「結果、出ましたよ」
「ん、早いな」
俺は思考を打ち切り、体を起こした。
「これが結果です、好きなだけ見て良いですよ。持って帰っても大丈夫です」
「……あぁ」
並ぶ英単語と大量の数字と評価欄にはS+の文字。STRだとか、VITだとかAGIだとか、ゲームで見たことがあるような単語が並んでいる。しかし、その横に書かれた数字がどの程度のものなのか俺には全く分からない。S+は恐らく最高評価の意味だろう。
「分からん。説明してくれ」
「まぁ、これに関しては知らなくても仕方ないですね。これは私が作ったステータスシートというもので、専用の器具で身体をスキャンすることでゲームのステータスのように身体能力を算出することが出来るんです」
こいつが作ったのか。ゲームとか好きなのか?
「このSTRってのは筋肉量か?」
「いや、それは純粋な身体能力だけで計算された最大破壊力です」
最大破壊力? 俺は首を傾げた。
「例えば、老日さんのSTRだと高層ビルくらいなら軽く一撃で破壊できるってことになりますね。評価がS+になってると思いますが、想定された最高評価がSなので、S+は実質的な評価不能ですね」
「確かに、そのくらいなら出来るだろうな」
だが、ビルを一撃で倒壊させる程度なら同じことが出来る人間も少しは居るはずだ。あの少年……黒岬なら恐らく出来る。
「次に、VITは肉体の装甲力です。皮膚、筋肉、骨、これらの総合的な耐久力を数値化したのがVITです。老日さんはS+なので、高層ビルが頭から落ちてきても死なないですね」
どのくらいの高さから落ちてくるかにも依るが、臓器までダメージが到達することは無いだろうな。というか、その高層ビルをやたら例えに利用するのは何なんだ。
「AGIは敏捷性。これは結構評価が難しい項目なんですけど、単純に足の速さとしています。老日さんはS+なので100m走も一秒未満で走れますね」
「あぁ、余裕だな」
分かってはいたが、聞いたところで知らない自分に出会えはしないな。
「悪いが、残りはザッとで良い」
「そうですか? HPは生命力、回復力やどの程度の損傷まで死なずに耐えられるか。MPは体内魔力保有量。INTは魔力変換効率。DEXはちょっと意味が違いますけど動体視力。MNDは魔力や魔素に対する耐性。EXPは魔素保有量。LVは魔素によって高められた階位です。老日さんはどれもS+なので多分人間じゃないですね。EXPに関してはちょっと意味が分からないです。最高クラスのハンターでもこの百分の一あるかないかくらいじゃないですかね。魔物、殺しすぎじゃないですか?」
最高クラスのハンターでもそのレベルなのか。俺が異世界に居た期間は五年だが、数十年戦っていた奴も居ると考えれば俺と同レベルの奴も居ておかしくないと思って居たが……いや、そうか。魔王も邪神もその眷属共も全員殺してきたんだ。質が違うんだろう。
「それと、魔素……EXPについてだが、俺の五十分の一程度の奴は見かけたぞ。ダンジョンコアを取り込んだらしい」
俺もダンジョンコアを取り込んだことは何度かあるが、一度にあそこまでの魔素は吸収できなかった。黒岬はやはり、この世界では特異な存在なのかもしれない。自分でも言っていた通り。
「それは興味深いですね……名前とか分かりますか?」
「知らないな」
一応、プライバシーは守ってやろう。あの調子ならどこかに目を付けられるのも時間の問題だろうが。
「魔素が五十分の一ということは……LVは五分の一程度、ですかね」
そうだな。素の身体能力は俺の五分の一程度はあるだろう。
「まぁ、結果はそんなところか?」
「はい。それと、これは飽くまで魔素と筋肉量だけでの計測なので実際の戦闘力は大きく変わると思います」
「魔力による強化、気による強化。なんでもあるからな」
そもそも、俺の本領は魔術と……聖剣だ。身体能力だけなら俺より上の奴なんて山ほど居た。俺は向こうでは割と小賢しく戦ってきたんだが、身体能力で最強というのは変な感覚だな。そのズレが戦闘に支障をきたさなければ良いが。
「そういう訳で連絡先……携帯、持ってますか?」
「いや、無いな」
「それなら…………これ、どうぞ」
向こうの部屋から持ってきたのは一台のスマホ。そこまで形状は変わっていないが、明らかに魔道具だ。しかし、機械でもある。面白いな。こいつから貰ったものというのは信頼できないが。
「これ、そのまま使えるのか?」
「はい、特に何も弄ってないのでほぼ新品と思って貰って大丈夫です」
俺は受け取ったスマホの電源を入れた。
「……これ、充電口無くないか?」
「はい。空気中の魔力を電力に変換するので充電器は不要です。ただ、消費が激しいと空気中の魔力だけじゃ回復が間に合わないので、そういう時は自分の魔力を注いで下さい」
なるほど、凄いな。技術の進歩。
「LINK、入ってますよね?」
「あぁ、入ってるな。というか、このアプリまだあるんだな」
俺は緑のアイコンをタップし、直ぐに登録を終わらせると、近くの端末をフレンド登録するという項目を見つけた。流石にレイアウトは多少変わってるな。
「これだな?」
「はい、画面出てますよ」
あぁ、犀川翠果。向こうには老日勇。これでお互いに了承すれば登録完了という訳だ。
「オッケーです。それじゃあ、明日は空いてますか?」
「あぁ、空いてる」
犀川は頷き、スマホをポケットに戻した。
「もしかしたら、明日には会えるかも知れません」
「……俺の戸籍を戻せる奴に、か?」
俺の問いかけに、犀川は頷いた。