その言葉を伝えた瞬間、彼がキスをするのを止め、一旦私から離れる。
変なことを言ったから引かれてしまったのかな。
謝ろうとした時
「そんなことを言われたら、もう抑えられません」
彼は少し長い髪の毛をかきあげる。
蓮さんの男性的な顔つきにドキッとした。
私がもっとして欲しいという要求をしてしまったからか、容赦ないキスをされる。
「……ん。……ん!」
私の吐息とともに、高音のリップ音が部屋の中で響く。
「れ……んさん……くすぐったい」
彼は、私の耳朶にキスをした。
「ん……あぁ!」
耳を甘噛みされ、彼の唇は次第に首筋に。舌の感触がした。
「や……。くすぐったいよ……」
どう表現して良いのかわからない。
くすぐったいが、気持ち良い。私は蓮さんの背中にしがみつくことしかできない。
私の首筋を見て、彼の動きが一瞬止まったような気がした。
そういえば、その辺りはあの人から襲われた時の傷が残っている。
私は急に思い出したかのように、手で首筋を隠した。
「蓮さん、ごめんなさい。私、汚いですよね」
私は見ないようにしていたが、きっと傷は残っているだろう。
「汚くなんかないです……」
彼はキスを止めて、私を優しく抱きしめる。
「これからは俺がずっと守ります。だから、安心してください」
先ほどまでのキスとは違い、優しいキスをされた。
「はい……。私、蓮さんにぎゅっとされると落ち着きます」
ふっと彼は笑い
「それは良かった。こんなことをしておいてですけど」
彼が深呼吸をしたように見えた。
そして
「今日は寝ましょうか?明日はバイトですよね。寝不足だと疲れちゃいますし」
蓮さんも疲れているはず。
「はい」
本当はもっともっとしてほしいだなんて我儘は言えない。
彼は私の髪の毛を優しく撫でてくれる。
「幸せです」
思わず呟いてしまった。
「俺もです」
隣に大好きな彼がいる。
私は、こんなに幸せでいいのかな。
「おやすみなさい」
点いていた尾灯が完全に消える。彼の顔が見えなくなった。
ずっとずっと蓮さんと一緒にいたい。
そう思いながら眠りについた。
次の日、私が目覚めると隣に彼の姿はなかった。
リビングに行くと
「おはようございます」
良い匂いがした。
どうやら彼が朝食を作ってくれたみたいだ。
「私ばかりいつも寝ていてすみません」
何か手伝えることはないか彼に尋ねる。
「大丈夫です。ゆっくり座っていてください」
昨日の夜が嘘だったかのように、彼は普通だった。
彼の唇を見て、ドキッとしてしまうのは私だけなのかな。
一緒に朝食を食べ、私はその日アルバイトだったため、帰ることになった。
彼が車で送ってくれる。
「蓮さんと過ごすと時間が短くて。すごく楽しかったです」
「俺もです。またどこかに行きましょう。バイト、無理しないようにしてくださいね。何かあったらすぐ言ってください」
車から降りようとシートベルトを外すと、彼が私のことを引き寄せ唇に軽くキスをしてくれた。
「……!」
昨日はもっとすごいことをしていたはずなのに、不意打ちのキスに動揺をする。
「可愛いです、顔が赤くなってます」
「蓮さん!」
彼が乗った車が見えなくなるまで見送った。
会えないわけではないのに、心に穴が空いたみたいに寂しいという感情が押し寄せる。
それほどまでに蓮さんのことを好きになってしまったんだ。
次の日、いつも通りに大学に通学した。
親友の優菜にここ数日のことについて話をする。
「愛が大学を休むなんて珍しかったから、心配したよ。そんなことがあったんだね。ケガとかなくて良かった。でも、黒崎さんにLINN、繋がって良かったね。黒崎さんが来てくれなかったら、ゾッとするよ」
「でも……。付き合うことになったんだ!良かったね!私も見たい、イケメン!さっそくお泊りとかしてるし、やることはやったの?」
やることはやったとは、あのことを指しているのだろうか。
「キスだけした」
私の発言に、優菜が飲んでいたお茶を喉に詰まらせる。
「えっ?泊まって、一緒の部屋に寝たのにキスだけ?」
「うん」
私は少し考え
「たぶん、私が襲れたばかりだから気を遣ってくれたんだと思う。怖くないですか?って何回も聞いてくれたし」
「すごいね。彼、紳士じゃん。真面目で優しくてお金持ちで……って羨ましいわ。私も会ってみたいんだけど」
私も優菜に会ってほしかった。
自慢とかそういうわけではなかったが、生まれて初めての彼氏を親友に紹介したい。
蓮さんに優菜についてLINNをすると
<いいですよ。俺も会って、挨拶をしたいです>
そう返事をしてくれた。
蓮さんは仕事の関係で、大学の近くに来る予定があるらしい。時間が合ったため、一緒に昼食を食べることになった。
彼が大学の入り口まで来てくれるらしい。
「なんか、申し訳なかったかな。忙しいのに、会いたいなんて言ってごめんね」
大学の門の近くで蓮さんを二人で待っていた。
「蓮さんも優菜に挨拶したいって言ってくれたから」
「いいな。優しくて」
すると彼が来る方向を見て、優菜が
「ねえ、あの人じゃないよね?」
私に問いかけた。
優菜の言った先の方向を見る。間違いなく蓮さんだ。遠目で見ても、スーツ姿もカッコいいと思ってしまう。
「遅れてしまってすみません」
「いえ、こちらこそお会いしたいだなんて我儘言ってしまってすみません」
優菜が答える。
「はじめまして。黒崎です」
「はじめまして。愛の友達の伊藤優菜です」
優菜が緊張をしているように見えた。
「ご飯に行きましょうか?仕事もあるのでゆっくりはできませんが、お二人の話を聞きたいです」
そう言って蓮さんは優しく微笑んでくれた。
「はいっ!ぜひっ!」
なぜか優菜の顔が赤くなっている。
「この辺りでおススメのお店はありますか?久しぶりに来たので、随分と変ってしまっていて」
「私たちのおススメのお店で良かったら。愛、黒崎さんを案内して」
私の彼氏と友人が話しているのを聞いていて、なんだか不思議な感覚だった。
二人とも私の大切な人。すごく嬉しい。
「うん」
三人で歩きだす。
この時は知らなかった。後ろで私たちのことを見ている女の子《ひと》がいることを。
「なに、あれ。超イケメンなんだけど。まさか、彼氏とかじゃないよね?」
「彼氏じゃないでしょ?あんな普通の子たちの。ねえ、真帆?」
髪の毛は明るく染めており、巻いている。
容姿も男性には困らないだろうと思われる整った綺麗な顔と細めのスタイル。
彼女が口を開く。
「……。私、あの人気に入った!紹介してもらう!」
私も優菜も、そんな彼女たちの会話を知るわけもなかった。
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