テラーノベル
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出番のタイミングになり、涼ちゃんはゆっくりと立ち上がろうとした。けれど、足元がふらりと揺れて視界が一瞬白くかすむ。
「お、おおっ、大丈夫?」
すぐ隣にいた若井が、慌てて涼ちゃんの体を支える。
若井の手のひら越しに、涼ちゃんの体温が熱く伝わった。
「涼ちゃん、熱あるかもよ。無理しないでね?」
若井は穏やかな声でそう言う。でも、その目は心底心配そうだった。
涼ちゃんはしばらく俯きがちに呼吸を整えて、苦しげにうなずいた。「うん……」
その小さな返事は、普段の元気な調子とはまるで違って、どこか力がなかった。
それでも涼ちゃんは一度深呼吸して、静かにキーボードの部屋へ入っていった。
その一部始終を、元貴は何も言わずに見ていた。
目を細め、手の中のスマホを無意識に強く握りしめる。
(やっぱり無理してる。何とかしてやれないか――)
楽屋の空気に一瞬、重たい沈黙が落ちた。
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