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日差し照りつける七月の土曜日に俺は役所に訪れた。
今日は何の日、フッフ~♪
俺の冒険者登録の日だよ(ガチトーン
防衛省管轄の異常空間対策局は二十四時間対応・年中無休の恐ろしいブラック公務員組織の一つである。
各県に最低一つは置かれている役所で、スタンピード発生時には最初期対策本部にもなるらしい。
役所に入ってイスに腰掛け書類の再確認。出かける前にもしたけど不安になって仕方が無い。
冒険者登録に必要な物は以下になる。
1.冒険者登録申請書
2.本人確認書類
3.国籍・住所の証明書
4.各種預かり金
5.遺書
6.自己責任証明書
7.装備品および鑑定書
8.標準携行品(脱出アイテム等)
1、3、6は国の発行する書類で、必要事項の記入、保護者と本人の署名、押印と住民票で済む。
2は基本的にパスポートで、日本人の場合は免許証・マイナンバーカードでも代用ができる。
4.各種預かり金は各種となっているが実質全部が登録費用のようなものだ。
冒険者を辞めた際には全額戻ってくる事になっていて、今の所未払いは聞いたことが無いが、
戻ってくるのはあくまで辞めた時のみで、死亡時は国に徴収される事になっている。
なお、冒険者に対する公的な保険などは無く、また、民間の保険会社も冒険者向けの保険は無い。
国民健康保険は辛うじて適用できるが、それ以外に慈悲は無い。
理由? 冒険者の経費のトップ3に常時ランクインしている項目が治療費な点から察して欲しい。
5.遺書は言わずもがな。一種の抑止効果を期待しているとも言われている。
国としては高額納税の可能性が高いが、死亡率も高い冒険者にあまりなって欲しくは無いと思っているのだろう。
民間は冒険者事業を煽っているが、実の所、日本の国策としては冒険者事業は推奨はされていないのだ。
職業選択の自由の観点から十五歳以上で冒険者に成る事が出来るが、この間に調べた時、
当初の案では条件が今より凄まじくガチガチだったことが判った。
ダンジョンの増加傾向に伴い自衛隊のみでは将来的に対処が出来かねると判断したのだろう。
日本では十年前にようやく一部のダンジョンが民間向けに解放されたが、
1950年の世界初のダンジョン発生から六十年、各国の対応を調査・検討してようやく踏み切った印象を受ける。
とある事件の影響で、民間側からは強い解放要請が無かった事も一因だろう。
7.装備品および鑑定書に関しては装備品の品質が一定水準以上の物である事の証明に必要となる。
8.標準携行品(脱出アイテム等)はゲームで言うところのアイテム類だが、これも最低限必要な物をダンジョン探索前に所持しておく事を義務付けられるし、ダンジョン突入前にも毎回チェックされる。
内容は大半が消耗品で、これらも冒険者の経費のトップ3に常時ランクインしている。
自己責任証明書に関しては役所側の自己保身と言う見方も出来るが、装備品・標準携行品は実際無いと死ぬ。(迫真
他国では冒険者にはこれらの用意の義務が無いが、用意せずにダンジョンに突入した初心者冒険者の95%が死んでいる可能性が高いと推測されているらしい。
残り5%は只の行方不明だそうだ。(震え声
ここまで用意して死ぬなら役所側の責任は確かに追及し難いとは思うけど、多分この義務は彼らの誠意とか良心じゃないかなー……
なお、用意した二百万円の内、
各種預かり金が五十万円、装備品で百万円以上、標準携行品で五十万程度掛かる。掛かった(泣
装備品に掛かる金額は人それぞれで、探索のスタイルで違いが出てくる項目でもある。
俺の予定している探索スタイルは、結構金の掛かるスタイルなのだが、「いのちだいじに」方針である以上は止む無しと割り切っている。割り切りたい。
書類の確認も終わったので、窓口に向かう。
「冒険者の登録を希望しています、窓口はこちらでよかったでしょうか?」
「はい、こちらの窓口で受付を始めております。本日は書類はご用意されていますでしょうか?」
「……はい、こちらにあります。」
「かしこまりました。それでは書類を拝見させていただきます。確認が終わりましたらこちらの番号でお呼びしますので、番号札を持ってお待ちください」
「……はい」
しばらくの待機の後、番号を呼ばれて書類の記載内容が問題なかった旨を伝えられる。
装備の品質の確認は事前に取り寄せておいた購入予定の装備のメーカーからの保証書を提出するだけなので、こちらも特に問題はなかった。
備品のチェックは別の部署で行ったが、そちらも問題なく、本日中に冒険者身分証明書の発行手続きが行われることになった。
手続きのために最初の窓口に戻った後に窓口で、
「お疲れ様でした。小野麗尾様の冒険者初回講習の日付ですが、およそ一週間後の○○日で午前九時から茂部市の甲正山政府管理講習用ダンジョンの講習棟で受講いただくことになりますが大丈夫でしょうか?」
一週間後、うん何の予定もないな。一週間って事は役所側も都合が空いていたんだろうなぁ
「……はい、大丈夫です」
「ありがとうございます。当日は九時の十分前を目安に講習棟の受付にお越し頂けます様、お願い致します。それでは最後にこちらの冒険者身分証明書をお渡しいたします」
受付の人が手元にあった箱を俺に差し出して、蓋を開ける。
中には腕時計のようなリストと、スマートフォンの様なタブレット機器、ケーブルと説明書が入っている。ネットの写真で見ていたが、コレが冒険者身分証明書か……
「こちらのリスト型の機器は腕時計の様に装着していただく物になります。こちらに付属するケーブルでタッチパネルに接続していただき、身分証の情報確認を始めとした各種機能をお使い頂けます。各種データはリストに格納される形になります。パネルはスマートフォンと違ってデータの表示及び操作が出来るだけになりますので、最悪の場合はリスト型の機器だけでも無くさない様にご注意ください」
スマホ型だけに機能を纏めておくと、落としたりして紛失し易いからだろうか。
「それではご本人様の生体情報の登録のため、起動をお願い致します。起動は機器を装着して接続された上でパネル型の、こちらのボタンを押してください」
ボタンを押すと画面に初回認証手続きの画面が出てくる。指示に従い、両手十指の指紋登録と、両目の虹彩情報の登録、最後に個人設定でパスワードの登録を行った。
「お疲れ様でした。本日の手続きは以上となります。冒険者身分証明書の取り扱いに関しましては、付属しております紙媒体または、証明書内のマニュアルアプリでご確認いただきますようお願い致します。それではお気をつけてお帰りください」
こうして、俺は冒険者(仮)になった。
正直、あまり実感はない。