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櫛崎家が名家邦川家の家臣となってから、約早三年もの月日が流れた、1616年の九月。
櫛崎家の屋敷に朗報が舞い込んだ。
当主浅長の側室・お露の方が再び懐妊したのである。
御嫡女である澪姫を産んでからというもの、お露には懐妊の兆しがなかったが……ようやく第二子を授かることが叶ったのだ。
これには、家族一同喜んだ。
勿論、数え年四歳となった澪本人も、産まれてくる弟妹のことを喜んだ。
毎日そわそわして、乳母であるさよを困らせた。
そして今日も______。
「ははうえのところにいくのー!」
「ま………っ、駄目で御座います。お露の方様はお忙しいのですし……!」
「やーだー!!」
すると、一目散に澪が廊下を駆けて行った。
「 え 」
さよは一瞬なにが起こったのか分からなかった。
だがすぐに、侍女であるおんとさとに
「さよ様!? 姫様は___?」
「もしかしてまたお露様の元へ? ふふ、弟妹想いなのですねえ。姫様は」
「っ、追いかけないと!」
一方、そんな侍女たちの言動など気にもせず、澪は少し膨らんだ母のお腹に夢中になっていた。
「ははうえのおなか大きいー!」
「ええ。だってもう五ヶ月だもの」
「五かげつ?」
「あと少ししたら産まれるのよ。二月くらいになるかしらね」
ゆったりと、幸せそうにお露は微笑む。
約二年間日本語を勉強してきた成果があったのか、お露は日本語が達者になっていた。
「そうなのですねー!」
そう言うと、澪はガバッと母に抱きついた。
「擽ったいわ。ふふふっ」
「えー、べつにいいでしょう? ね!」
このお転婆姫は、この後一時間ほど部屋に入り浸っていたので、厳しく乳母に言われてしまうのだった。
❁⃘*.゚
その三刻(六時間後)。
浅長は満面の笑みを浮かべて、お露の居る御殿まで足を運んだ。
「まあ。浅長様」
お露は予期せぬ当主の登場に驚きを隠せなかったが、すぐさま微笑んだ。
「妊娠五ヶ月になるそうです。御医者様から申し上げれば、腹をよく蹴って居るので男子ではないかと言われているのですよ」
「男子か……。さすればこの家も安泰じゃ」
「ええ。私も願っております」
「兎に角、身体を厭えよ」
「承知いたしました____」
❁⃘*.゚
そして早くも妊娠七ヶ月となったある日。
今日も診察に来ていた御医者が重い口を開いた。
「もしかしたら、早産になるやもしれませぬ」
…と。
この一報は、櫛崎家に酷い心配の情を齎せた。