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テロリストとの格闘の末、右腕を剥離骨折したひよりは、治療と公安調査庁による聞き取りで、しばらくの間隔離生活を強いられた。その間に、自衛隊を退職する決断をしたのだが、その答えが正解なのかもわからず、日々を過ごしている。

新たな仕事先は、上官の働きかけもあって、特別捜査機動隊外局部に決まってはいるが、それまでの期間は休暇にあてた。

二週間の無職は悪くなかった。

久しぶりに迎える日曜日の朝、テーブルに並ぶモーニングプレートを見ながらひよりはそう思った。


スクランブルエッグに控えめのサラダ。

ツナのホットサンド。

ヨーグルトにちょこんと乗っかるミント。

温かいカフェラテが2つと、共栄用のオレンジジュース。

村長さんはルーフバルコニーのカーテンの隙間から、ジッとこちらの様子を伺っている。

共栄は眠い目を擦りながら椅子にちょこんと腰掛けて、キッチンで働く智明の背中を眺めていた。

ひよりは、そんな在り来たりな日常を、身体いっぱいにうけていた。

仕合わせは、いつ終わるかもわからない不確定なモノ。

約束された契約では無く、いつも不幸と隣合わせ。

それが、ひよりの人生観だった。


同い年の智明と結婚を決めたのは、優し過ぎるからだと、ひよりは公言している。

恐がりで心配性。

すぐに泣く。

そんな男が智明だ。

ひよりとって、男に逞しさは必要なかった。


逞しいのは女に決まっている。


だから、包容力と繊細な心に惹かれた。

ひよりは満足していた。

自分には勿体無いくらいの旦那だと。

智明がテーブルに向かいながら、


「共栄!今日はママがいるぞぉ!あ、あれ?村長さんは?」


話がコロコロ移り変わるのは、智明の楽しい癖だった。

共栄はカーテンを指差して、


「あそこ」


と、すました顔をした。

老猫は、保護センターから引き取った茶トラのオス猫で、映画「禁じられた遊び」に登場するフクロウの名前からとったものだ。

ひよりは、その映画を見たことはないが、地震が来てもソファーから動かない姿を見て、妙に納得したのを覚えている。

智明が皿にキャットミックスを入れると、その音に反応して、村長さんはのそのそとテーブル脇の食事場へと鎮座した。

智明の、


「いただきます!」


の掛け声で、家族水入らずの朝食が始まった。

窓から差し込む陽射しはやわらかく、そんな仕合わせに若干の後ろめたさを感じながら、ひよりはスクランブルエッグを頬張った。

智明が、


「ひより、ミルクが手に入らなくてさ、どこもまだ品薄でね。ふんわり感出せなかった」

「ううん、美味しいよ。ね。共栄」


ひよりの隣の共栄は、口の周りにケチャップをべったりとつけている。

それを拭ってやると、共栄は嬉しそうにからだを上下させた。


「ママ、この葉っぱなあに?」


ヨーグルトに乗っかるミントは、バルコニーのミニ菜園で育った自家製で、他にもレモングラスやミニトマト、ナスやキュウリも智明が育てていた。


「いいにおいするよ。でも共栄にはちょっと早かったかなあ・・・」

「はやくないもん!」


共栄は不服そうに言って、ヨーグルトをスプーンですくって食べた。

そして。


「うげえ!」


と言いながら、ゴクリとミントの葉を飲み込んだ。

その顔を見てひよりも智明も笑った。






東京が世界地図から消えたあの日の落日

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