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俺にとって、高城さんは空気のような存在だった。俺の隣には高城さんが、高城さんの隣には俺が。常に隣いることが当たり前で、あの人がいるから、俺は息ができていた。
「秋元、油断するなって言っただろ。ほら、立てるか?」
何度だって、その手は俺に伸ばされた。俺は何度もその手とった。今こうして膝をついて、泣いている俺に、あの手が伸ばされることはなかった。この先、あの手が伸ばされる日は、二度と来ない。
高城さんの訃報の知らせを受けた時は、耳を疑った。
「え?高城さんが死んだ?東雲ちゃん、止めてよ~。その冗談笑えな~い」
そんなの嘘だと思った。だって、高城さんが死ぬはずがない。朝だって、普通だった。それに、さっきまで一緒にいた。俺を病院に送り届けてくれた。
駆けつけた警察署。そこには白い布に包まれた、遺体が寝かされていた。顔には打ち覆いをされており、見ない方がいいと止められた。俺は震える手でシートを外す。高城さんの死を受け入れるつもりなんてなかった。でも、現実は無情だった。真っ白だった。とても血が通ってるとは思えない白さ。俺に向けられた優しい笑顔の高城さんが、どんどん白で塗り潰されていく。
「高城さん?何寝てんすか?冗談きついっす。高城さんもこんな悪戯するんですね。笑えないよ?ね、高城さん起きて、ね、起きてよ。本当は生きてるんでしょ?ね、高城さん」
何度呼んでも、俺の声に高城さんは答えなかった。当たり前だ。死んでるんだから、返事なんて返ってくる筈がない。
泣きながら、すがり付いた体の冷たさが、更に俺を絶望の縁に落としにかかる。冷たくなった体が、もう、俺が高城さんの隣に立てないことを知らしめにくる。
どうして、こうなった?なんで?高城さんが死ななければいけなかった?俺は誰の隣に立てばいい?
ただ、死にたいとは思わなかった。心を貫く程の慟哭と高城さんを奪われた憤怒だけが、この世に俺を留まらせる。高城さんのいない世界なんて壊れてしまえばいい。俺から、高城さんを奪ったあいつらを、俺は決して許しはしない。
だってそうだろ?俺から高城さんを奪って、のうのうと生きるあいつらが許されていい筈がない。
あぁ、ここはまるで深海のようだ。重苦しく、陽すら差し込まず、呼吸さえままならない。あれ?そういや、息ってどうすれば吸えるっけ?ねぇ、教えてよ、高城さん。どうして、ここはこんなにも息苦しいの?高城さんがいないだけで、呼吸すらまともに出来なくなっちゃった。俺はどうすれば息が吸える?
ねぇ、教えてよ、高城さん。
おわり