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ミルキィが起きるのを待って暫く。
この日もレビンは力仕事に精を出していた。
「こんなもんかな」
今はレイラの家の周りの整地をしているのだ。
先ずは乱雑に生えた雑木を等間隔になる様に伐採……根本から引き抜く。
そして、抜いた木を薪や建築資材にする為に、一箇所に纏めて乾かす。
空いた穴には、周囲を均した時に出る余った土で埋めた。
家の周囲は畑を耕す為に、家から20メートルの範囲は木や石がない。これもレビンの仕事である。
「レビンくん。こっちの岩を運んでちょうだい」
「はーい」
今は家を囲む畑に、さらに外側から囲む様に堀を掘っているところだ。
レイラは魔法でレビンの仕事が捗る様に補助をしている。
例えば、堀を掘りやすい様に土を柔らかくしたり等だ。
人族が見れば驚くことだろう。
人族の魔法使いにそんな事はほぼ・・できない。魔導具を使った魔法であれば可能だが、個人でそれを成せる者は少ない。
レイラは長い生を使い、魔法を磨いてきたから容易く出来るのだ。
それを褒め、羨んだレビンに、レイラはこんな小手先の技術では、圧倒的なモノには太刀打ちできないわ。と伝えた。
もちろんレビンの事である。しかし、当の本人は強さよりもそういう御伽噺の様な能力に惹かれている。
ままならないものである。
作業がひと段落したところで、急報が二人の元に飛び込む。
「レビン!我である!」
作業の手を止めて、ハーブティーなるものを飲んで休んでいたレビンの耳に、懐かしい声が聞こえた。
懐かしむほどの昔ではないが……
「あれ?ゲボルグさん?」
声が聞こえたと思えば、本人が目の前に駆け込んできた。
「はぁっはぁっはぁ。レビン。急用だ!これを見るのだ!」
そう言い、一通の手紙を差し出してきた。
余程急いでいたのだろう。ゲボルグは中々呼吸が戻らず、話す事は出来そうにない。
「大丈夫ですか?お水を…」
そういったレビンを手で制し、手紙を見る様に身振り手振りで促す。
「はぁ。では、見ますね。………えっ!?」
手紙を確認したレビンは、未だ呼吸が整わないゲボルグをそのままに、家へと駆け込んだ。
『レイラ。単刀直入に書こう。ダークエルフに攻め込まれた。
国の中ほどまで攻め込まれて、今は最終決戦前の最後の時間にこの手紙を書いている。
ミルキィを頼む。
もう会う事は叶わないが、二人の幸せをいつも願っている』
短い手紙には、二人への『想い』『未練』がひしひしと込められていた。
「レイラさん!行こう!まだ間に合うよ!」
リビングで手紙に目を落とし、固まったままのレイラにレビンが告げる。
「……行かないわ。レビンくんはしたいようにしなさい」
「何故!?家族でしょ!?」
「レビン。やめるのだ」
ゲボルグは止めるが……
「やめません!」
「レビンくん。あの人は、私の夫やミルキィの父親である前に、王なの。
それに、私達家族を戦争に巻き込む事を望まないわ」
「で、でもっ!!」
「レビン。人はそれぞれ歩んできた道が違うのだ。自分の価値観を主張したところで、自己満足にしかならぬぞ?」
ゲボルグの意見を聞くも、レビンは納得出来ない。
「…わかりました。僕が、必ずこの家族を救います。分かってます。だけどどうしても納得出来ないから、僕の自己満足に付き合ってもらいます!」
そういうと、レビンは家を飛び出していった。
「ゲボルグさん。すみませんが……」
「わかっているのだ。我がレビンを……見届けてくるのである」
守ると言いたかったが、それは不可能だと思い、言葉を修正した。
頑張れ二児の父!
信じられない速さで森をかけて行くレビンだったが。
(くっ。あの手紙が書かれたのが……ゲボルグさんが駆けつける時間を逆算しても…)
恐らく間に合わないだろう。
そうわかっていても、じっとはしていられない。
後悔は少ない方がいい。
それがレビンの想いだった。
「確かこの辺りで光った筈なんだけど……」
驚異的な速さで魔の森を駆けたレビンは、以前、首飾りが光った辺りまで辿り着いていた。
「あれ?おかしいぞ…前と違う…」
何処かで光るだろうと思い、辺りをウロウロとしていたが、一向に光らない。
そして、景色が以前と違うことに気付いた。
「木が倒れてるところが……まさか戦闘の跡?」
明らかに鋭利なモノで木が切られている痕や、無理矢理枝を折った様な痕跡を見つけた。
「魔物の仕業の可能性もあるよね…」
一縷の望みに縋りつつ、その痕跡を辿る。
しかし、レビンも頭では気付いていた。魔物の戦闘の跡だったり通った標であれば、この程度では済まないと。
暫く歩き続けると、見慣れてはいないが最近感動した景色が、変わり果てた姿でレビンの前に現れた。
「たどり着いた…精霊魔法が機能していなかったんだ…」
戦争の影響か、はたまたダークエルフの策がこれだったのか。
今のレビンにとって、大事なことはその答えではない。
レビンはバーンナッドと会った地に向かいながら、生き残りを探すことにした。
「そ、そんな…」
レビンの視線の先は、以前寝泊まりをしていた場所だ。そこは見るも無惨なほど、徹底的に破壊された姿を晒していた。
「う、うわぁぁあー!!!」
レビンは叫ぶ。声の限り。
「バーンナッドさーーーんっ!!」
しかし、その呼びかけに応える声は無い。
はずだった。
「おお!レビンくんか!?」
「えっ!?」
まさか幽霊…?
そうレビンが思ったのも束の間。
「こっちだこっち!」
レビンがいるのは、以前寝泊まりをしていた木の上の家の跡地。
下から声がしたかと思ったが、どうやら上からのようだ。
「バーンナッドさん!?ど、どうして!?」
上を見上げたレビンの視界には、大勢のエルフが高い木の上から自分を見下ろす光景が飛び込んできた。
「今降りる!少し待っててくれ」
言うが早いか、バーンナッドはまるで木に足の裏が張り付いているような動きで降りてきた。
「無事だったんですね!」
「無事か…うん。確かに私達は無事だが、多くのエルフと森が犠牲になってしまったよ。情けない事におめおめと生き恥を晒してしまっているよ」
「生き恥じゃないですよ!皆さん、バーンナッドさんを待ってます!ここのエルフの皆さんもですし、レイラさんにミルキィも!
それより、どうしてこうなったのですか?ダークエルフは?」
無事を確認できたレビンは気になる事が口から次々と出てきた。
「それについては上で説明しよう。これからの事もね」
そういうと、木の上へとレビンを先導して上がっていく。
バーンナッドの説明によると、ダークエルフは散発的な争いの時に、エルフが使っている迷わす為の精霊魔法を解析していた。
そして、それの解除方法を知ると、魔物を集めてエルフの国を全方向から一斉に襲わせたのだ。
ダークエルフに魔物を操る術があるわけではない。あくまでも誘導してきたのだ。
そして、魔物がエルフの国を滅ぼせるとも考えていない。
あくまでも魔物はエルフに損害を与える為のもの。
その作戦の結果、国の中まで魔物に入り込まれたエルフは、戦えないモノと国の重要人物を集めて木の上に隠したのだ。
そしてその機に乗じてダークエルフが攻め込んできた。
多くのエルフの戦士が犠牲になったが、なんとかその攻撃を跳ね返すことが出来た。
そして、今に至る。
「では戦争は?」
木の上は枝が組まれていて、葉っぱの床が足元一杯に広がっていた。
「まだ終わっていない。恐らく近いうちに総攻撃がある筈だ」
そして、ここには戦闘は出来ないが、精霊魔法に長けたエルフが多くいる。
そのエルフ達が魔導具なしで隠蔽の精霊魔法を代わる代わる使い続けて隠れていたのだ。
全ての事情を聞いたレビンは、他種族の自分を受け入れてくれたエルフ達を守るため、決意を固めて立ち上がるのであった。
レベル
レビン:79→80(179)
ミルキィ:??