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結局道路に敷いちゃったおっもぉーい掛け布団は、ふわふわさん(仮名)が持ってくださって。

「けっ、怪我人なのにホントすみませんっ!」


「多分ですけど……どこにも怪我なんてしてないので大丈夫です」


布団越し、ふわふわさんからニコッと柔らかな笑顔を向けられて、助けるどころか助けられているのは自分ではないかと思ってしまった日和美ひなみだ。



「……お邪魔します」


「どうぞ、どうぞ。狭いところですがご遠慮なく」


そこまで言って、寝室に置いてある秘密の本棚はなぞののことを思い出してヒヤリとした日和美だったけれど、まぁふわふわさんが和室――寝室――に入っていらっしゃらなければ問題ないかと思い直して。


それでもやっぱりふわふわさんの美貌に惑わされて考えなし。

地雷てんこ盛りの我が家へ彼を招き入れてしまったことを今更のように後悔せずにはいられない。


日和美はそれを気取られないよう笑顔で取り繕いながら、我が家の構造に思いを巡らせる。



日和美が住んでいるアパートは、北側にある玄関を入ってすぐがアイランドキッチンを備えた六畳ちょっとのダイニングキッチンで、そのすぐそば――東側――に水回りをまとめるためだろうか。キッチンと空間を二分にぶんする形で洗面所兼脱衣所やお風呂場、それからトイレなどが配置されていた。


玄関からダイニングキッチンを真っ直ぐ南側に抜けた先にリビングにしている五畳半の洋間と、その右隣に万年床と趣味の本たちがズラリと並んだ六畳ほどの押入れ付きの和室。

洋間と和室両方から出入りできる形で南側、道路に面した広めのベランダが横たわっていた。


そんななので玄関を開けたらすぐ、真っ正面にベランダへと続く洋間リビング側の掃き出し窓が開けっ放しになっているのが見えて。

当然と言うべきか、干そうと柵に立て掛けたまま放置された敷布団と、まだ持ち出せていないもう一枚の掛け布団が床に放置されているのまで丸見えになってしまっていた。


(ゲッ)


そのことに内心青褪あおざめた日和美だったけれど、それでも不幸中の幸いだろうか。


いま日和美たちが立っている台所側からは、日和美がひた隠しにしておきたいエッチな本てんこ盛りの和室寝室は見えない構造になっていた。


ベランダに出て、和室の中をしげしげと覗き込んだり、リビングとの境目の引き戸を開けなければ大丈夫。



そのことに一応ホッとしたものの、日和美だって自分が可愛い。危険はなるべく回避したい。



「あ、あの……ソレ」


前述したように、ここはベランダが和室と洋室を繋ぐ形の構造になっているのだ。

和室の方は、本が傷まないよう日中でも常時UVカットのレースカーテンを閉めていたけれど、それにしたって!と思ってしまった日和美だ。


ふわふわさんには、手にした布団を即座に当たり障りのないに下ろして頂いて、〝秘密の花園〟に通じるベランダには近付いて欲しくない。



それで、家に入るなり、ふわふわさんが手にした布団を指差したのだけれど――。


「はい、どこまで運びましょう?」


曇りない天使みたいな表情でふわりと微笑まれて、毒まみれの日和美はグッと言葉に詰まってしまった。


(そっ、その笑顔は反則です!)



「これ、きっとベランダに干している最中だったんですよね? ――差し支えなければ、僕がこのままあそこまでお持ちしようと思うんですけど?」


ふわふわさんがそう言って、布団越し。こちらを澄み切ったキュルルンとした眼差しで見詰めてくるから、日和美はキューッと心臓が握りつぶされそうに苦しくなってしまった。


「よ、よろしくお願いしますっ」


本当は差し支えありまくりだと声を大にして叫びたい。

いや、それを言わなくても、「そこまでして頂かなくても……」とクネクネとしなを作りながらお断り申し上げることだって出来たはずだ。


なのに!


日和美はついついふわふわさんの美貌にほだされて、条件反射みたいにそう答えてしまっていた。



日和美がえっちらおっちら言いながら運んだ掛け布団なのに、柔らかな面差しに見えてもそこはやはり男性。

軽々と運んでしまうふわふわさんに、日和美は危機も忘れて(ギャップ萌え最高ですぅー!)と心の中で一人、キュンキュンときめいてしまう始末。


(あーん、ふわふわ王子っ♥)


なんて声には出さずもだえていたら、自分とは生き物の種類が違うとしか思えない美形のふわふわさんが、「よいしょ」だなんて掛け声とともに掛け布団をさくに上げるから。


(嘘ぉ! 気合いの入れ方、私と一緒♪)


変なところで親近感を覚えて、日和美はますます彼のとりこになった。




「あの、日和美さん」


どうも彼の見目がうるわし過ぎて、色々後手・後手に回ってしまう日和美だ。


ベランダの手すりに乗っけた布団を支えたまま、困ったような顔をしてこちらを振り返ったふわふわさんに、「布団ばさみが見当たらないんですが」と声を掛けられて、日和美はビクッと身体を跳ねさせた。


そう、そうなのだ。

それを取りに行こうと布団から手を離したからあんなことになったわけで――。


目の前でよろしく(?)布団を押さえてこちらを見てくるふわふわさんに、(あの時の不注意な私、グッジョブ! 素敵な王子様ゲットだぜ!)とか不謹慎なことを思ってしまった日和美は、

「ははぁ! すぐにお持ち致します!」

それを誤魔化すみたいに時代劇口調で言って、いそいそと脱衣所へと向かった。


脱衣所の洗濯機そばの壁には、百円ショップで買ってきた白色のワイヤーネットが取り付けてあって、大小様々なフック式のカゴが掛けてある。

洗濯ばさみや布団ばさみなど、洗濯に関する用品は全てそこに入れてある山中家だ。


日和美は急いで布団ばさみを手に取ると、ふわふわさんの待つベランダへ急行した。


「お、待た、せっ、致しま、したっ」


はぁはぁと息を切らしながら、布団ばさみをうやうやしく両手に乗せて差し出したらクスッと笑われて。


「そんなに急がなくても大丈夫だったのに。――有難うございます」

と、この部屋に入って三度目のキラースマイルを頂いてしまう。


「はぅっ!」


その破壊力に思わずその場へくず折れそうになった日和美だったけれど、何とか理性で持ち堪えた。



***



結局重い敷布団に至るまで全部ふわふわさんが干してくれたのだけれど。

幸い〝例の本たち〟はふわふわさんには見つからずに済んだ。


ちなみにその間ずっと、彼はしきりに汚れてしまった掛け布団を気にしていて。


「そんなのカバー掛けちゃえば見えなくなっちゃうし、気にしなくていいですよぉー」と言いながら、日和美は一人、キッチンに立っている。




「ど、ドクダミ茶とかお口に合いますでしょうか?」


お茶でも飲みながらと誘ったくせに、棚を開けてみたら生憎あいにく紅茶を切らしてしまっていた。


(王子様といえばお紅茶なのにっ!)


そんなことを思う日和美に、「ドクダミ、ですか?」と、ほわりとした声音が返る。


「はい」


ならば、と珈琲をいれようと思った日和美だったけれど、元々お茶派の日和美宅には、随分前に友人が来た時に買ってそのままにしていたインスタントコーヒーしかなくて。

それを棚の奥から引っ張り出して恐る恐るふたを開けてみたら、見事湿気ってカチカチに固まってしまっていた。


(こんなのさすがに出せないよ)


スプーンでちょっとだけガリガリしてみてから、全然崩れそうにないことを確認して、後で捨てておこうと決意したまでは良かったのだけれど。


結果お出し出来るものの選択肢が、煮出して冷やしてあるドクダミ茶のストックオンリーになってしまった。


ドクダミ茶は日和美にとっては子供の頃から飲んでいる慣れ親しんだお茶だ。

というより祖父母宅へ行くとそれしか用意されていなかったから、何の迷いもなくゴクゴク美味しく飲んで育ったのだけれど。

ではそれが果たして他の人にとっても、飲みやすいお茶か?と問われたら、疑問符が消せないことをちゃんと知っている。


大人になって、家へ遊びに来た友人へ何の気なしに出したら、「何これ!」と眉をしかめられたことで学習した日和美だ。


ましてや今、自分の目の前にいるのはどこぞのファンタジー国の王族のような見た目のふわふわさん。

ドクダミ茶がこれほど似合わない相手もいないんじゃないだろうか。



「や、やっぱりお嫌……ですよね?」


日和美の住んでいるアパートのキッチンは、今どき風のアイランドキッチンだ。


すぐ向かい側が五十センチ幅くらいのカウンターテーブルになっていて、木製の背もたれ付きの椅子が二つ、横並びに置いてある。


ふわふわさんはそこに腰掛けて日和美の方をじっと見上げていた。


「ううん。全然嫌じゃないです。っていうかむしろ……」


そこまで言って少し考えるような素振りを見せると、ふわふわさんが続ける。


「はっきりとは思い出せないんですけど、何となくドクダミ茶に縁のある生活をしていたような気がします」


記憶なんて戻っていないと言いながら、そんな風に言ってくださるふわふわさんは本当に優しい人だと思った日和美だ。


(あ、だけどもしかしたら)


日和美は、ちょっと前に出た萌風もふもふ先生の最新刊のあとがきで、先生が「本作連載中に読者さんからプレゼントして頂いたハーブティーの影響で、最近色んな種類のお茶にはまっています」って書いていらしたのを思い出した。

そこには、カモミールティーやルイボスティーや黒豆茶、枇杷びわの葉茶、コーン茶、松葉茶まつばちゃなどに混ざってドクダミ茶も書いてあった。


もしかしたら気を遣って下さったとかではなく、本当にふわふわさんもハーブティー感覚でドクダミ茶を飲むような生活をしていらしたのかも知れない。


(でも、一応……)



「美味しくなかったら無理なさらないでくださいね?」


大事を取って好みのお味じゃなかった場合のことも考慮しながら、日和美ひなみはグラスに氷を数個落とすと、ピッチャーに入れて冷蔵庫で冷やしてあったドクダミ茶を注いでふわふわさんに手渡した。


氷が溶ければ味が少し薄まるかな?と期待してお出ししたのだけれど、ふわふわさんはそれを何の躊躇ためらいも見せず、氷が溶ける前に美味しそうに一気に飲み干してしまう。


(あ、あれ? もしかして味云々うんぬんの前に、めちゃくちゃ喉渇いてらした……?)


思えばふわふわさん。どこから歩いていらしたのかは分からないけれど、きっちりとスリーピースのスーツを着こなした状態でお散歩(?)の途中、上空から布団襲撃という不運に見舞われて。

それだけならまだしも、更に日和美宅の布団干しまで手伝って下さったのだ。


喉が渇いていらしても不思議ではない。


「あの、良かったらもう一杯飲まれます?」


余りに勢いよく飲んでいらしたので恐る恐るそう問いかけたら、「いいんですか?」とキラキラお目目で見つめられて。


日和美は危うくドクダミ茶を入れたピッチャーを取り落としそうになってしまった。


「もっ、もちろんです」


それを誤魔化すように言って、ふわふわさんからコップを受け取ると、お茶を注ぎ足す。


「これ、ものすごく飲みやすいです。それに、とっても美味しい」


今度はゆっくり味わうように二口ふたくちほど飲まれてから、ふわふわさんが日和美ひなみをじっと見つめてきて。


「そっ、それはよかったです」


まさか大抵の友人たちには不評のこのお茶が、こんなにも喜んでもらえるだなんて思っていなかった日和美は、わけも分からずやたらと照れてしまった。

溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜

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