「仁人、風邪ひくぞ」
屋上の冷たいコンクリートに背を預け寝転んでいると上から降ってくる声に「ほれ」と渡される缶コーヒー。
「なんで、来てんよ」
「仁人がいると思ったから?」
「あなたが来たら雨が降るでしょ」
「おまっ!確かに雨男だけど」
ただでさえ曇り空で雪でも降りそうな寒さ。さっきまで凍えてしまいそうとすら思っていたのにあなたが隣にいるだけでこんなに暖かく感じるのはなんででしょう。
「お前が授業サボるなんて珍しいからさ」
「ふはっ、俺だってサボりたくなることもあるよ」
「ふーん」
サボった理由を聞かないのは優しさ。
ずっとこうやって居れればいいななんて思うけどそんなことは無理で、続かない会話に貰った缶コーヒーを啜る。
「もうすぐ卒業じゃん」
「そだな」
投げられた言葉にたわいもない相槌を返す。
「やり残したこととかない?」
やりのこした…こと。
「あるわ」
「え?あんの?!」
ないと思われてたんだ。
「修学旅行、風邪ひいて行けんかった」
「俺ら同じ班だったのにな」
「テスト100点とれなかった」
「逆にとれると思ってた?」
「サッカー部が全国逃した」
「それ、俺のじゃね?」
「あと…」
「?」
「恋人が出来なかった」
「俺もお前もな」
「一緒だな」って隣で笑ってるけど、あなたの隣にいたいと思ってた人なんていっぱいいたよ。
それなのに3年間あなたの隣は俺のものだった。
卒業してからもなんてわがまま、言っちゃだめだね。
「一緒にすんな」
「一緒だろが」
無邪気に笑いかけてくる笑顔は横顔で「この笑顔も見納めか」なんて思って覗き込むように見てしまう自分が虚しい。
「なん?顔なんかついてる?」
「いいや」
あなたは知らなくていい俺の気持ちなんて。
「これありがと」
飲み干した缶を振りお礼を言いながら立ち上がろうとすると、先に立ち上がり手を差し出される。
俺が腰を痛めてからの習慣。そんな優しさも、もう忘れるから。
手をとらずに立ち上がる。
「も、大丈夫だから」
「そっか」
行き場のなくなった手を握って開いて見つめる様に申し訳なくなって、「でも、ありがと」とつけたす。
「おう」って向けられた笑顔が辛い。忘れる為に離れるって決めたんだよ。だから構わないで。
溢れそうになる想いが浮かんで、言葉に出来ない愛をを1人抱きしめる。
「戻るかー」と先に歩き始めたあなたの背中を見つめる。
抑えられぬ思いが滲ませる涙はバレてはいけない。
こんなに辛いのに「あなたに出会わなければ…」なんて嘘でも言えなくて、声に出さず口の中で「馬鹿だな」と呟く。
教室に戻るまでの道のり「先輩」と呼び止める声。
あーあなたの隣はおしまい。
泡になって溢れる想いが弾ける。
「俺、先戻るね」と声をかけて足早に隣を空ける。
振り返ると笑い合う2人。
あなたは素敵な人だから俺の幸せも願ってくれるけどあの子だけを幸せにしてあげて。
伝えられなかったけど
「 」
END
コメント
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テラーにもあげてくださってありがとうございます😭