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「じゃあ、文化祭の演劇で
カップル役をやるのは 佐久間と〇〇!」
教室がざわめいた。
「えっ!?」
と声をあげたのは私。
隣で、佐久間くんはニコニコ笑っている。
「やった〜!〇〇と恋人役とか、絶対楽しいじゃん!」
「た、楽しそうじゃないよっ!
恥ずかしいに決まってるでしょ!」
「え〜?大丈夫大丈夫、俺、演技得意だから♡」
いや、そういう問題じゃない。
数日後。放課後の教室で、台本を広げて練習する。
セリフの終盤には、まさかの“ハグ”シーン。
「……この部分、どうする?」
「本番っぽくやった方が練習になるよね?」
ニヤッと笑った彼の顔に、心臓が一瞬止まる。
“ふざけてる”と思いたいのに、
目の奥はちゃんと真剣で、笑ってない。
「……っ、ほんとにやるの?」
「演技、だから」
その一言のあと、
ふわっと、腕の中に包まれた。
あったかくて、いい匂いがして、
思わず息が止まる。
「……心臓、速くない?」
「さ、佐久間くんが近いからだよっ!」
「ふーん……じゃあ、俺も同じ理由かな」
耳元で囁かれて、思考が真っ白になる。
彼の顔が近づいて
ほんの少し唇が触れる距離で、止まった。
「本番じゃないけど、今のは“アドリブ”ね」
そう言って、いたずらっぽく笑う。
なのに、その笑顔の奥には
少しだけ照れが混じっていた。
「……〇〇、俺たちさ」
「 ……なに?」
「演技じゃなくても、けっこうお似合いかもね」
舞台の幕が上がる日。
客席のざわめきの中、彼が小声で言った。
「“演技の恋人”は今日まで。
でも、ほんとの恋人には…これからなりたい」
一瞬だけ指先が触れて、
スポットライトの下で、胸がドキンと跳ねた。