テラーノベル
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降り注ぐ弾丸の嵐が、鉄格子を叩き、火花を散らす。
俺は親父の体を抱きかかえたまま、ひっくり返した大テーブルの影に滑り込んだ。
親父の体は驚くほど重く、そして急速に冷えていく。
「…親父!しっかりしろ、おい!」
「……な…情けない声を……出すな……」
親父は血を吐きながら、俺の腕を強く掴んだ。
その指先には、まだ俺を突き放そうとする力が残っている。
「和貴、逃げろ。…お前が死ねば、拓海の……死は、ただの犬死にだ……」
親父が俺の胸ぐらを掴み、その耳元で掠れた声を絞り出す。
「……本部ビル…の、親父の椅子の下だ。…そこに、お前への…『最後の遺言』がある……」
それが、親父の最期の言葉だった。
掴んでいた手が力なく解け、コンクリートの床に落ちる。
関東最大の極道組織を率いた男の終焉は、あまりにも静かで、あまりにも血生臭かった。
「黒嵜!ぼさっとするな、来るぞ!」
志摩が中臣を盾にしながら、俺の方へ転がり込んできた。
中臣は腰が抜け、股間を濡らしながら「助けてくれ、金ならいくらでも出す」と醜く喚いている。
「……志摩。親父が死んだ」
「……ああ。だが、俺たちはまだ生きてる。生きなきゃならないんだよ」
志摩は奪った閃光弾のピンを抜いた。
「これを投げたら、裏の非常口へ走るぞ。……中臣、お前も連れて行く。お前には、拓海の墓の前で土下座してもらう必要があるからな」
「やめろ!撃て、早く撃てと言ってるだろ!」
中臣の叫びに呼応するように、黒服たちの射撃が激しさを増す。
俺は親父の亡骸から目を離し、傍らに落ちていた親父のドスを拾い上げた。
自分のと合わせて二振りの刃。
榊原の看板は、今、俺の背中で砕け散った。
「志摩……合図をしろ」
閃光弾が弾け、世界が白く塗り潰される。
俺は視界を奪われた暗殺者たちの間を、親父のドスを振るいながら駆け抜けた。
斬って、斬って、斬り開く。
工場の外へ飛び出した瞬間、冷たい夜風が俺の頬を叩いた。
雨は雪へと変わり始めていた。
俺の心はもう、この奥多摩の山々よりも深く凍りついている。
親父を殺し、拓海を失い、俺は本当の「一人」になった。
だが、親父が遺した「最後の遺言」。
それが何であれ、俺はそれを手にするまで、死ぬわけにはいかない。
俺は中臣の髪を掴んで引きずりながら、闇の深淵へと、志摩と共に消えた。
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