テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#1x1x1x1
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
902
ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
3,116
他者の気配が完全に遠のいた真夜中の私室。
部屋の明かりは落とされ、カーテンの隙間から差し込む冷たい月光だけが、二人の影を不鮮明に浮かび上がらせていた。
ノスフェラトゥは、主の長椅子のすぐ傍らで、己の重い身体を丸めるようにして息を潜めている。
首輪こそ嵌められていないものの、彼の魂はすでに、この部屋を包む濃密な薔薇の香りと、スペクターという存在そのものに完全に囲い込まれていた。
「……う、……ぁ、……っ」
ノスフェラトゥの喉から漏れるのは、低く、掠れた、獣の呻きに近い音だった。
かつて戦場を支配し、幾千の敵を恐怖に陥れてきた古代の怪物の声。
それはどこまでも頑なで、自らの内に秘めた屈辱と、それを上回る猛烈な疼きを必死に圧し殺そうとする、最後の抵抗の現れでもあった。
胸元を寛がせ、その肌に直接スペクターの長い指先が滑り込んでくるたび、ノスフェラトゥは背筋を硬直させ、奥歯をガチガチと鳴らしてその快楽を拒もうとする。
だが、その強張った身体そのものが、主にとっては最高に愉悦を誘う玩具の反応に過ぎない。
スペクターは、ノスフェラトゥの豊かな黒髪に指を絡め、その頭部を容赦なく後ろへと引き倒した。
無理やり剥き出しにされた喉筋が、月の光を浴びて 脈打っている。
スペクターは、自身の赤いシルクハットをわずかに傾け、ノスフェラトゥの耳元へと、 唇が触れるほどの 距離まで 顔を近づけた。
「……そんな 可愛げのない 声で、 己の 飢えを 隠せると思っているのかい?」
鼓膜を 直接 震わせるような、 どこまでも 低く、 蕩けるほどに 甘い 声音。
それは 物理的な 暴力よりも 遥かに 鋭く、 ノスフェラトゥが 築き上げてきた 理性の 壁を 内側から 崩していく。
「もっと 可愛い声で 啼きなさい。 君が 今、 どこを どんな風に 弄ばれて、 どんなに 気持ちよくなっているのか…… 私に ちゃんと 聞かせるんだ」
「声の檻」が、 ノスフェラトゥの 精神の 周囲に 構築された瞬間だった。
主の 言葉が 耳から 脳へと 融け落ちていくのと 同時に、 ノスフェラトゥの 思考は 完全に 機能を 停止した。
何が 恥かしいことなのか、 何が 屈辱なのか、 その 境界線すらもが 甘美な 濁流に 押し流されて消えていく。
逆らおうと する 意志そのものが、 主の 声という 漆黒の 蜜に 絡め取られ、 従順な 快楽へと 塗り替えられていく。
「あ……、あ、う……っ!、ぁぁーーっっ!んぁ……っ! スペ、クター……、は、ぁ……っ!」
ノスフェラトゥの 唇から、 先ほどまでの 頑なな 呻きが 嘘のように、 高く、 艶っぽい 悲鳴が 溢れ出た。
自らの 意志では 決して 出すことの なかった、 芯まで 蕩けきった 奴隷の 啼き声。
それを 自身の 耳で 聴くことが、 さらに 彼の 背筋を 激しく 突き上げ、 下腹部の 熱を 限界まで 膨れ上がらせていく。
「そうだよ、ノスフェラトゥ。とても 良い声だ。 私の 指が 動くたびに、 もっと 狂ったように 啼いてごらん」
スペクターの 指先が、 彼の 烙印の 周囲を 爪の先で 意地悪く なぞり、 強く 圧迫する。
「あ、……っ、あ……! 主様、スペクター……っ!」
理性の檻を完全に壊されたノスフェラトゥは、自らの喉から溢れ出る声がどれほど淫らに響いているかも気づかないまま、ただ主の名を呼び続けた。
かつては誰もが恐れたその容貌は、今や涙と熱い吐息でドロドロに乱れ、ただただ主の慈悲を乞う従順な生き物のそれへと成り下がっている。
「かわいい子だ。君は本当に、声の出し方をよく分かっている」
スペクターは愉悦に目を細め、啼き続けるノスフェラトゥの唇を、自らの濡れた親指で強く割り開いた。
溢れる唾液が顎を伝い、月の光に濡れて光る。
「……は、あ……っ、お前の、お前の言う通りに、啼くから……だから、捨てないで、くれ……っ」
「誰も捨てないさ。こんなに良い声で啼く小鳥を、手放す理由がないだろう?」
耳元で優しく囁かれるたびに、ノスフェラトゥの身体はびくんと大きく跳ね、下腹部を甘い電流のような快楽が駆け抜けていく。
主の言葉という檻に閉じ込められ、その中で啼くことしか許されない贅沢。
ノスフェラトゥは、主の指先が動くたびに、己のすべてを捧げるような高い悲鳴を夜の静寂へと響かせ、どこまでも深い恍惚の底へ自ら堕ちていった。