ーー○○私立△△高等学校
そこらに沢山あるようなごくごく普通の高等学校だ。世界的に有名である○○財閥の跡取り息子が通っている点以外では。
このクラスでは、いじめが起きている。いじめを受けているのは、艶やかな黒髪をロングに伸ばしている彼女だ。彼女は、卒業まであと数ヶ月ほどしかないというのにいじめの被害を受けている。
ちょうど彼女が登校してきたようだ。彼女はロッカーを開ける。中から出てきたのは、画鋲や、陰口の書かれた紙。さらにボロボロになった上靴になんと、盗撮写真まで入っている。彼女は俯き何かを堪えて、気を紛らわす為か?スマホを取り出しいじり始めた。そして、スリッパを借り教室に入った。クラスメイトは、彼女を無視する。教師でさえも目を瞑っている有り様だ。
しかし、そんな彼女に1人の人間が駆け寄った。○○財閥の息子である彼だ。彼は、彼女に話しかけ、心配してくれるただ1人の人間だ。
「大丈夫か?」
彼は彼女の顔を覗き込み、そう尋ねる。
「大丈夫よ。きっとすぐ終わるから。」
「そうか?」
「ええ、きっと。」
そう答える彼女の声は微かに震えている。
彼は、彼女の手を引き屋上へ連れ出した。そして、晴れた空、風が吹く頃彼女は問う。
「どうしたの?」
「なあ、無理するなよ。辛い時は俺に辛いって言えつったろ?」
そう優しい声音で彼は言う。
「別に辛くなんて、」
【ない】
そう言おうとして言葉が詰まった。彼は優しい笑顔で手を広げた。そして彼女はその彼の胸にそっと抱きついた。
俺は何も言わず、ただ彼女を抱きしめている。彼女はいじめられている。それに関しては間違えていない。ただ、いじめの主犯は、
俺だ。なぜか?俺は初めて彼女に会った時、彼女の艶やかな髪、惹き込まれるような瞳。教師やクラスメイトからも好かれていた。媚びを売る訳でもなく、ただ困っている人にそっと手を差し伸べ、見返りを求めないその姿勢。俺が財閥の息子だと知っても尚、他と変わらずに接してくれた。初めてだった。距離を置いて、ただ財閥の息子だというだけで気を遣われてきた。でも、彼女は違った。そこから俺は彼女に恋をした。でも、アピールを幾らしたって彼女は俺に振り向いてくれなかった。ずっと距離は一定に保たれていて、所詮友達。だから、俺は、俺は、彼女に俺だけがうつるようにしたかった。そんな時、ある本が机に置かれていた。その本は、男の子が女の子に恋をし、振り向いてもらう為に、女の子に裏でいじめをし、表で彼女を助ける。そうして、女の子が男の子を好きになり、付き合うという内容の話だ。題名は、イカリ、イカリソウだったか?小説の真似事をしているだけだが、現実、割と上手くいった。クラスメイトや教師は財閥の立場を利用し、脅した。嗚呼、これで彼女は俺のものだ。彼女を手に入れるためなら幾らでもこの手を汚せる。それほどまでに欲しいのだ。
彼女は俺のものだ。
ーーーーー
俺は今、屋上で彼女を待っている。やっとだ。やっと、やっと彼女が手に入る。そう思うとここまで、案外短かったなあ。ここまで俺の理想通りにトントン拍子で行くだなんて。まるで、物語の結末が決まっているかのような。いや、そんな非現実的なことは無いか。ただ、そうなるように俺が努力しただけの話だ。
ガチャ
「ごめんなさい。待ったかしら?」
俺が感傷に浸っているうちに随分時間が経ったようだ。
「いいや。俺が早く来すぎたみたいだ。」
「そう。それで、話って?」
「1ヶ月前のこと覚えてるか?」
「1ヶ月前、、、?」
「そ、ちょうど1ヶ月前」
「私が初めて貴方に心を開いた日、かしら?」
「ッ!覚えてて、くれたのか?」
「もちろん。」
「なぁ、俺、」
お前のことが好きなんだよ。
俺がそう言った途端、彼女は崩れ落ちた。
「う、嬉しい。私も、貴方が好き。」
ーーーーー
こうして、俺たちは晴れてカップルになった。そういえば、さっき机のうえに置かれていた花。調べたらイカリソウ、だったか?なぜ置かれていたんだろう?
ーーーーー
ふふっ。彼、可愛い♡
まさか私の手のひらで踊らされてることに気づかずに、自分の計画通りと言わんばかりの表情。
私はね、彼が私の表の人格を欲しているのと同じように私もまた、彼を欲している。
でも、彼みたいな恋愛感情だとか、愛だとか、そんなものは一切ない。私が彼を欲している理由は、財閥の息子で時期社長だという立場と、お金があるという理由のみ。これが手に入るなら、私は私という人格を偽るのだって苦じゃない。
私はね、欲望に忠実なの。欲望にまみれた穢れた女。これこそ、この姿こそ人間らしいんじゃないかしら?
私はね、誰よりも狡猾なの。目的のためならなんだってする。だから、私をいじめるように彼に仕掛けた。こんなにまんまとハマるなんて思っていなかったけど。
少しは疑うとか期待してたけどおつむは弱いみたい。仕方ないわよね。だって財閥の息子で今までぬくぬくと育てられたのだもの。
でも少しやり方が いじめされる だなんて周りくどかったかしら?
それでもなぜいじめるようにわざわざ仕掛けたのか?
単純よ?私をいじめていたという証拠で、私から逃げられないようにするの。彼は一生私の手のひらで踊らされるのよ。
酷い?
そんなもの関係ない。騙された方が悪いの。女ってね 怖いのよ。
「チェックメイトよ。」
そう言って私は彼の机の上にイカリソウを置いって行った。
※イカリソウの花言葉
『君を離さない』
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