テラーノベル
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捜索は現実的だった。
警察への届け出。
防犯カメラの確認。
近隣への聞き込み。
駅、川沿い、公園、病院。
すちは、ほとんど眠らず、みことの名前を呼び続けた。
あの日記を手にして。
折れそうになるたびに取り出して、滲んだ文字を指でなぞった。
『すちのことが大好きだよ』
それだけで、足が前に出た。
三日目の朝。
知らない番号から、電話が鳴った。
胸が嫌な予感で締めつけられる。
「……はい」
電話口の声は、淡々としていた。
発見されたこと。
身元確認が必要なこと。
場所と時間。
すちは、何度も聞き返した。
理解したくなくて、言葉が頭に入らなかった。
電話を切ったあと、しばらく、動けなかった。
対面室は、異様に静かだった。
白い壁。
冷たい空気。
時計の秒針の音だけが、やけに大きく響く。
係の人に促され、カーテンがゆっくり開く。
そこにいたのは――
眠っているみたいな、みことだった。
顔色は少し青白いけれど、穏やかな表情で、まるでいつもの昼寝の延長みたいだった。
一瞬、すちは本気で思った。
「……おはよう」
「みこと」
「そろそろ起きよう?」
喉まで言葉がせり上がった。
でも、どれだけ見つめても、胸は上下しない。
手を伸ばしても、温もりは、もう戻らない。
「……あ……」
膝から力が抜ける。
「……みこと……」
触れた頬は、冷たかった。
その瞬間、現実が、音を立てて崩れ落ちた。
「……なんで……」
「……なんで、こんなとこに……」
声が震え、視界が歪む。
「……迎えに行くって……言っただろ……」 「……一人にしないって……」
返事はない。
どれだけ呼んでも、もう、みことは目を開けない。
すちは、その場に崩れ落ち、顔を伏せた。
嗚咽が止まらなかった。
ふと、みことの手元に、小さな紙が置かれているのに気づいた。
係の人が、そっと差し出してくれる。
「……持っていらしたようです」
震える指で受け取る。
それは、日記の切れ端だった。
滲んだ文字。
『すち、だいすき』
『ありがとう』
『ごめんね』
たったそれだけ。
それだけなのに、胸が張り裂けそうだった。
「……謝るなよ……」
「……ありがとうなんて……言わないで……」
すちは、紙を胸に押し当てた。
涙が止まらない。
“再会”は、こんな形だった。
抱きしめられる距離にいるのに、もう二度と、声は聞けない。
笑顔も、ぬくもりも、戻らない。
それでも、確かに――
みことは、ここにいた。
すちは、そっと、みことの額に額を寄せた。
「……ちゃんと、見つけた」
「……遅くなって、ごめんね……」
冷たい額に、涙が落ちる。
「……忘れないから……」
「……みことが忘れた分まで、全部、覚えてる……」
日記の最後の言葉が、胸の中で、静かに響いた。
『忘れないで』
「……約束、守るから……」
それからの時間は、現実感がなかった。
手続き。
連絡。
形式ばった言葉。
世界は何事もなかったみたいに、淡々と進んでいく。
置き去りにされたのは、すちだけだった。
夜、ひとりになった部屋。
みことのいないベッド。
みことの使っていたマグカップ。
みことの脱ぎっぱなしのカーディガン。
すちは、カーディガンを抱きしめ、静かに涙を落とした。
「……おかえりって、言えなかったな……」
答えはない。
それでも、すちは、小さく微笑んだ。
「……でもさ……」
「……ちゃんと、好きだったんだよ……お互い……」
胸の奥に残るのは、痛みと同じくらい、確かな愛だった。
コメント
2件
👑くん、、、、最期は🍵くんのことを想ってくれていたら嬉しいです、、! 🍵くんがこれから自分を責めすぎてしまわないかが心配、、、、、! こんな形になってしまったとしても、最後に会えて良かった、、!
予想外の展開かも、こんな形だが最後に会えてよかった。けどあまりにも残酷すぎる