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ジーク「…食べ物に罪は無い。
出来れば吐きたくは無かったんだがな。」
馬車内の吐瀉物を処理しているルシアスの横で、ジークは呟く。
ルシアス「昨日は食べれていましたが…」
ジーク「手足が動かせなくて、お前に食べさせて貰っていただろう。だからだ。…自分で食べようとしたらこのザマだ。」
ルシアス「…まだ食事は残っていますが…食べれそうですか?」
ジーク「無理だ。」
ルシアス(食事をしなければ尚更酔いやすいでしょうし…かといって食事をするにしても…)
ルシアス「…同じ所に長居すれば、悪魔か獣が匂いを嗅ぎつけて襲ってきますので、今日は動きます。ですが、夕方には馬車を止めましょう。 アルケル、それでも良いですか?」
アルケル「大丈夫です。」
ルシアス「テオス様、これ以上体調が悪化しそうであれば、俺かアグレスにお伝えください。」
ジーク「…ああ。」
ルシアス「アグレスもお願いします。」
アグレス「承知いたしました。」
ルシアスが指示をすると、アルケルは馬を馬車へ、アグレスは荷物を馬車に積込みと、手際よく出立準備を行う。
しばらくして、アグレスがアルケルに荷物の積み込みが完了したことを告げる。
アルケル「では出発します。」
アルケルがそう言うと、ルシアスとアグレスは馬車に乗り込み、馬車が走り出す。
ジーク「…随分と早いんだな。」
ルシアス「トスク国からフィヌノア国は、悪魔が非常に多いんです。街道にはいませんが、少し離れた森に生息してまして。運が悪ければ、匂いを嗅ぎつけた悪魔、もしくは悪魔に追い出された獣に狩られてしまいます。そのためすぐに逃げられるように、出立準備は短ければ短い程いいんです。 」
アグレス「本当は馬車を止めないのが理想なんです。まぁ寝れないし食べれないし、無茶な話ですけどね。それに…テオス様酔っちゃうし…」
ジーク「なぁこれ、
俺に嫌がらせでそう言ってるのか?」
ジークはアグレスに指を指し、
ルシアスに聞く。
ルシアス「違いますよ。アグレスは、
テオス様を心配なさっているだけですよ。」
アグレス「俺ずっと、
真面目に言ってるんですが。」
ジーク「それはすまん。」
アグレス「……。」
アグレスは会話中、不自然に馬車の外へ顔を向ける。
ジーク「…なぁアグレスって…」
ジークがルシアスに聞こうとした矢先、
アグレスの声が遮った。
アグレス「止まれ!アルケル!」
アグレスはそう言った後、
口を手で抑え、「あ、やば」と独り言を呟く。
アルケルはアグレスの指示通り、
すぐに馬車を止める。その直後、目の前の木がなぎ倒される。
ジーク「なんだよあれ… 」
木をなぎ倒した正体を見る。
それは黒い巨大な物体だった。
物体。そうとしか言い表せない巨体は、
見かけによらない速度で這いずっている。
ジーク(このまま止まっていても、
いずれ轢かれる可能性が…)
そう思い、喋ろうとしたジークの口は、
アグレスの手によって塞がれる。
ジーク「っ……」
アグレスは自身の口に、
人差し指を当ててジークを見る。
ジーク(…音を出すなということか。
俺だって死ぬのは御免だ。)
周りを見ればルシアスとアルケルも、
同様に口を手で塞いでいるのが分かった。
ジークはこくりと頷く。
ジーク(…ヒトなら意思疎通出来るが…馬、アムシアとスディは…)
馬の方を見れば、アムシアとスディは今の状況が分かってないのかとても落ち着いている。
ジーク(見えていないのか…?)
どれくらい時間がかかっただろうか。
馬がひと鳴きでもすれば、
この場の全員命を落とす。
そんな緊張感の中、息を殺し続けた。
アグレス「もう大丈夫です。」
沈黙を破ったのはアグレスだった。
アグレス「あの…ルシアス様…」
ジーク「うわすっげぇしょぼくれた顔してる。」
アグレス「口調荒くなっちゃって、すみません…。わ、わざとじゃなくて…」
ルシアス「分かってます。アグレスが気付いてくれたおかげで、この場の全員命拾いしたんです。そんなことで咎めませんよ。ありがとうございます。 」
ルシアスはそう言うと、アグレスの頭を軽く撫でる。
アグレス「ルシアス様ぁ〜…。」
ジーク「…お前普段はそんなことで、とやかく言ってるのか?俺は部外者だが、流石にやりすぎ…」
アグレス「違います!ルシアス様じゃなくて…!」
ルシアス「そう言わせているわけじゃありませんよ。アグレスとアルケルは…」
そこまで言いかけ、ルシアスは言い淀む。
アルケル「気遣わなくて大丈夫です。僕達2人とも、分かってますから。」
アルケルはいつの間にか馬車から降りた状態で、そう言った。
ルシアス「…アグレスとアルケルは…助祭としての基準に、足りてません。」
アグレス「もっと噛み砕いて言うと、要は俺達無能なんです。 」
ルシアス「アグレス、そんな言い方は…。本来助祭になる為には、研修等多くの時間を必要とするもので、一朝一夜でなれるものじゃないんです。アグレスとアルケルは、カミールという名の司祭の気まぐれによって、無理に助祭にさせられました。こう言ってはなんですが…彼、我儘すぎるんです。自身の望みが叶わなければ、周りに力を振るうようなヒトで… 」
アグレス「俺達は殺処分される直前に、ルシアス様に助けてもらったんです。ルシアス様が教育という名目で、部下として置いてくれたから、今の俺達が居るんです。だから、ルシアス様は決して悪いわけじゃ… 」
ジーク「今…なんて言った?」
アグレス「ルシアス様は決して悪くないと…」
ジーク「もっと前だ。俺の聞き間違いか?
殺処分って…」
アグレス「聞き間違いじゃありませんよ。」
ルシアス「気に入らなければ、嫌がらせをして恐怖で支配して、飽きれば殺す。それが、
カミールという男です。」
ジーク「…人をまとめる才能なんて、
欠けらも無いようだが、 司祭ってのは、
そんなに簡単になれるものなのか? 」
アルケル「カミール様のやり方は、
いつだって同じです。 」
ジーク「お前どこに行ってたんだ。」
アルケル「アムシアとスディ用のご褒美を取りに。指示に従ってくれましたからね。カミール様は、フィヌノア国の中でも1、2を争う強大な力の持ち主です。誰も逆らえないんですよ。」
ジーク「1、2のもう1人ってクロノ…ええと…」
アグレス「クロノ司教ですね。あの方は強いんですけど…割と司祭全員には甘いので…」
ジーク「あぁそう…。そんないい加減でも国は長いことあるんだもんな。実力はまぁ確かか。」
ルシアス「……。」
ジークはふと自然に気づき、ルシアスの方を見ると、ルシアスはにこにこと笑っていた。
ジーク「何笑ってんだ。」
ルシアス「いえ、体調が少しでも良くなられたようで良かったなと。」
ジーク「食欲は湧かんがな。カミール、ね。見る目がない所の話じゃないな。」
ルシアス「分かってくれますか!?そうなんですよ!アグレス達は自身のこと無能だなんて言いますけれど、カミール司祭が見る目がないというか、八つ当たりしてるだけなんです!」
ルシアスはジークの感想を聞き、嬉々として話しかける。
ジーク「お、おう…。」
(急にテンション上がったなこいつ…。)
ルシアス「アルケルは、アムシアとスディみたいな動物達のことを、言葉が通じているのではというレベルで理解していて、メンタルケアを行ってくださいますし、アグレスは先程のように気配の察知が得意で、何度も助けられましたし…」
ルシアスはそこまで言うと、
俯き歯を食いしばる。
ルシアス「…本当に…見る目がないだけなんです。」
ジーク(俺には覚えがある。ルシアスが抱く悔しさがなんなのか。)
ジーク「…案外似てるのかもな。」
ジークはポツリと呟いた。
ルシアス「なにかおっしゃいましたか?」
ジーク「いいや。なぁ、アグレスはなんで悪魔が来るって気付いたんだ?俺も気配察知には自信がある方なんだが…」
ジーク(ヒトより音を拾えるし…)
アグレス「俺、目がいいんですよ。」
ジーク「目?」
ジーク(耳じゃなくて目なら、血縁者ではないが…)
アグレス「多分テオス様には見えないと
思うんですけど、この先の横道に、
木が1本生えてるんです。
で、その木に鳥が2羽止まってたんですけど、急にその2羽が息絶え木から落ちました。だから嫌な予感がして止まるよう、アルケルに伝えたら案の定でした。…あの悪魔、かなりの近距離じゃないと悪魔そのものの姿が見えませんでした。鳥には悪いと思っていますが、
先に亡くなったおかげで気付いたんです。」
ジーク「木なんて一切見えないが…お前一体どれだけ見えるんだ?」
アグレス「どれくらい…うーん…」
ルシアス「留まるのが良くないだけですから、寄ってみてもいいですよ。その鳥達も埋葬できますし。アルケル、アムシアとスディはお願いを聞いてくれますか?」
アルケル「大丈夫ですよ。むしろもっと走りたいみたいですから。」
ルシアス「ではアグレス、道案内をお願いします。 」
アグレス「承知いたしました。」
アグレスとアルケルはルシアスの指示を聞くと、2人で御者台に乗る。
ルシアス「それじゃ、出発しましょう。」
アグレス「この辺ですね。」
アルケル「じゃあ馬車を止めますね。」
アグレス「着きましたー。」
ルシアス「はーい。」
ジーク「木はあれか?」
ジークは指を指して、
目の前の木で合っているか、
アグレスに確認する。
アグレス「それですそれです。」
ルシアス「馬車は見張っていますので、
3人で見に行かれてもよいですよ。」
アグレス&アルケル「ありがとうございます。」
ジーク「…拘束も何もしないんだな。」
ルシアス「言ったら不利になりますよ。」
ジーク「はぁ…。」
ジークはため息をつく。
ジーク「別に俺が不利なことには変わらないだろ。あんな悪魔が居るんじゃお前らと居た方が安全だ。 …あんな規格外な…」
ルシアス「テオス様、一つだけ訂正させて下さい。その規格外な悪魔がこの地域での普通です。」
ジーク「冗談じゃねぇな。
あんなのが大量に居るとか…」
アグレス「いかないんですか?テオス様。」
ジーク「すぐに行く。」
ルシアス「行ってらっしゃい。」
そう時間をかけずに、
ジーク達はアグレスが言った、
木の元に来ていた。
アルケル「あ…。」
アルケルは何かを発見したようで、
両手で拾い上げる。
ジーク「鳥の死体が2羽…。実際助かってるわけだし、信じてない訳じゃないが本当に見えるんだな。」
アグレス「はい。」
ジーク「お前それ日常生活で困らないのか?」
アグレス「あー…どうしても若干目が疲れやすいですかね。」
ジーク「まぁデメリットが無いわけないか…。獣人との混血とかか?」
アグレス「いんやぁ…それが分からないんですよねぇ。両親は人間なんですけど、祖父母が俺居なくって。でも多分そこの血だとは思うんですよねぇ。というかそう思いたい。だって自分が突然変異とか言われても怖いじゃないですか。」
ジーク「…確かに。」
アグレス「まぁこれで俺の目は完全に信用して貰えましたし、あとは…」
そう言いながらアグレスはアルケルの方へ向く。
アグレス「埋葬、手伝う?」
アルケル「お願い。」
アグレス「テオス様もやります? 」
ジーク「待ってても暇だしな。 」
丁寧に土を掘り死体を埋める。
それが例え無意味な行為だとしても、
気休め程度にはなるはずだ。
ジーク(…コイツらも、ヒトなんだよな。
イドゥン教は俺の敵だ。だが…)
宗教とは大きな組織だ。1人や2人失ったところで変わらず、回り続ける。
ジーク(…下手を打てばトカゲのように、逃げられる。相手を間違えないようにしないと。目的は、クロノだ。)
逃げられないのであれば、立ち向かうまでだ。
どこまでも逃げ続けるなんて現実的じゃない。
ジーク(…武器がなくても情報くらいなら拾えるはずだ。)
アルケル「ありがとうございました。
満足です。」
アグレス「それじゃあ戻りましょうか。テオス様。」
ジーク「…ああ。」
ルシアス「おかえりなさい。」
アグレス&アルケル「ただいま戻りました。」
ジーク「また馬車に乗るのか…。」
アルケル「整備されているフィヌノア国では、道が平坦なのでここまで気分悪くなることはないんですが…この辺りは道がでこぼこなので…。」
ジーク「いっそのこと、さっきの悪魔が道を整えてくれてりゃあな。」
アグレス「それ俺らごと、耕されません?」