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滝へ着くと、仙人ナーガさんは指を差す。
「よし、お前。そこに立て」
見当は付いていたが……仕方ない。
滝を見て感じたことだが、今いる冥界の国には、気温と言う概念がないらしく、寒さも暑さも感じない。
ただ、やはり滝に打たれるのは気が引ける……。
僕は渋々も、激しく流れ落ちる滝に頭を付け、その振動を身に浴びる。
しかし、苦痛かと思いきや、意外にも心地よく感じた。
「どうだ?」
ナーガさんは訊ねる。
「なんか……少しだけ落ち着きます……」
「その実感こそが、仙術魔法 神無だ。もう出て来ていいぞ」
僕は少し唖然としてしまった。
「え……っと、もう会得したってことですか……?」
「そうだ。この滝は私のエネルギーで創った。不快感を感じる者は会得できないが、心地良く感じる者には会得できるようになっている」
ガロウさんの時の精神集中と違って、なんだか呆気なくて気が抜けてしまったが、エネルギーは感じる。
「このエネルギーか……」
「でも、まだ使用はするな。死にたくなければな」
はい、お約束ですよね。
仙術魔法という、そもそも特殊な魔法で、異世界と言う “次元を移動できる魔法” に代償がない訳がない。
「まず、お前の認識通り、これは “次元魔法” で相違ないが、お前は異世界に移動することは出来ない」
「え……じゃあ会得した意味がなくないですか……?」
すると、悟さんが刀を構える。
「エイレスとやら、俺の刀を見てみろ」
「うわっ!」
さっきの戦いでは一切見えていなかった、黒いオーラのようなものが、刀には覆われていた。
「これは闇属性を付与してある刀だ。この “次元魔法” を会得することで、この世界の “本来見えないはずのモノ” がみられるようになるんだ」
なるほど……。
それで、悟さんが言っていた “魔法の見切り方” に繋がるわけか……。
「あの金髪の光魔法の光速移動も “見る” ことは出来ないが、どこに出現するのか “光魔力を感じる” ことが出来るようになる。だから俺は反撃が出来たんだ」
今まで気薄だった光と闇という、未知の領域と感じていた魔法属性、その対抗策のような気がした。
「先に説明しておこう。闇の神の元には、神本人のアゲル。そして、守護神のドール。魂の管理者である悪魔ルインという男がいる。全員が闇魔法を使う。闇の神アゲルは見た目も中身も子供そのものだ。自分の友達が欲しくて、冥界の国にずっと留まらせる為に、悪魔ルインと共に魂を奪いに来るはずだ。魂を取られれば永久にこの国からは出られない。気を付けろよ」
困惑、という概念を一度頭から消し去ろう。
アゲルがいない今、一つずつ整理をしよう。
「あの、ちょっと一人になっていいですか……?」
そう言い、僕は一人で散策を始めた。
まず一に、七神である闇の神は子供で、この冥界の国に留まらせるために襲ってくる恐れがあります。
よし、これはなんとなく理解できた。
ラーチのように、純真無垢な子供の神なら、そんな思考になってしまってもおかしくはない。
二に、冥界の国、と言う名だけあって、ここはある意味では “死後の世界” のようなものなのか、はたまたその狭間のような国なのだろう。
危険な場所ではあるけど、一国であり、アゲルからの使命では、闇の神からも加護を受けなければならない。
それに、冥界の国に行く為には条件があるようなことも話していた。ならば諸々が頷ける。
三に、悪魔という存在も分かる。
神がいて、龍がいて、魔法がある世界。
神が悪魔を従えているのは謎だが、世界観的にはおかしい存在ではないし、二人係で襲ってくるのだろうか。
この辺は会ってみないと分からないが、悪魔という存在が危険視されていることは理解した。
最後に、闇の神の名は、”アゲル” ……。
僕が初めて召喚された時、アゲルは確か、『僕もミカエルだとバレないように』と、安直な名前を付けたはずだ。
でも、闇の神の名はアゲル……。アゲルが知らないはずがないし、たまたまなんてこともないだろうし……。
そこへ、龍長カエンさんは静かにやって来た。
「カエンさん……」
カエンさんは、今まで敵対していたとは思えないような笑みを僕に向けた。
「一人になりたいところすまないね。もしかしたら、“アゲル” と言う名を聞いて困惑しているかと思ってね」
やはり長を務めるだけあって、鋭い……。
と言うか、僕が分かりやすいのだろうか……。
「まあ、そうですね……。僕を召喚したアゲルが、何を企んで闇の神の名を名乗っていたのか……分からなくて」
すると、カエンさんはハットを脱ぎ、暗い空を仰ぐ。
「少しだけ、昔話をしましょう。私 “も” 異郷者であることを知って、それも未だに困惑していそうだしね」
そして、ニコッと僕に微笑み掛けた。
情報量が多すぎて、一度「そんなもんだよな……」と保留にしていた問題だ。
でも、聞いておかないといけない気がした。
「私も君と同じ “天使族に召喚された異郷者” なんだ」
「カエンさんも……召喚された異郷者……?」
「私は、ルシフェルという男に召喚され、『この世界を変えることが君の使命だ』と言われた」
僕は救って欲しいと言われたけど、カエンさんは “変えて欲しい” と言われたのか……。
「それから私の旅は始まり、エイレスくんと同じく、様々な属性魔法が使えた。ディムの仙術魔法も然りだね」
そうか……僕と同じ境遇、天使族からの正式な召喚であれば、加護も受けられるし仙術魔法も会得できる。
「と言うか、唯一神の封印をしたのは、龍長、つまりはあなただって聞いてるんですけど……」
少しの沈黙の後、カエンさんは答えた。
「私は、旅の果てでバベルに会った。封印をしたのも私で間違いない。しかし、彼は自ら封印を望んだんだ」
バベルは、自ら封印されることを望んだ……?
「エイレスくん、僕が何故、七神を殺そうとしているか分かるかい?」
「いや……理由は……。でも皆さんいい人だから……」
冷徹な表情を、カエンさんは向けた。
最初に対峙した、炎龍上の時に見せた眼だ。
「バベルは、この世界を創ったことを嘆いていた。絶えない戦争、七神が悩み苦しむ姿、七神の呪い……」
「呪い……?」
「君は七神と共鳴をしたはずだ。どこまで見たかは分からないが、彼らの創られ方は知っているかな?」
ヒーラが風の一部から創られたことを思い出しながら、僕はコクリと頷いた。
「知っているなら話は早い。七神は、自然界に存在する物質と、バベルの魔力のエネルギーの融合体だ。本来、この世界の人間は、魔力が尽きたら死んでしまう。が、七神はバベルから授かった魔力。その膨大な魔力が尽きた時、自然界に在ったはずの物質だけが残る」
物質に還る……と言うことか……?
「バベルの魔力は特別製だ。私たちの居た地球であれば、自然の物質に戻るだけだろうが、彼らは違う」
「七神は……違う……?」
「何故違うのか。それは、『この世界自体、バベルが創造した世界』だからだよ」
「確かにそうだ……元々あったものではない……。じゃあ七神の皆さんはどうなるんですか!?」
そしてまた、空を仰いだ。
「七神の一人でも魔力が途絶えれば、全ての七神が共鳴し合い、この世界を滅ぼすエネルギーを放つ」
僕はまたしても唖然としてしまった。
しかし、もしカエンさんの話が本当なら……。
「七神が世界を滅ぼす前に、殺すという手段で魂を冥界の国に送れば、世界が滅びることはない……」
「やはり、察しがいいね。助かるよ」
そう微笑むと、再びハットを被って去ってしまった。