目が覚めると、知らない世界が広がっていた。
「やあ、僕の名前はルシフェル。こう見えて天使なんだ。君を召喚したのもこの僕。よろしくね、レオくん」
不敵に笑う天使は、そう言って私の手を引っ張る。
「君の使命はこの世界を変えることさ! この世界には神々がいるんだけどね、その神々を殺さないとこの世界は滅びてしまうんだよ! 君にしか出来ない! きっと君にしか出来ないんだ!」
随分と口数のうるさい天使だ……。
と、最初は思っていたが、旅のサポートはすごく的確で魔物討伐や、争い事にはかなり助力をしてくれた。
そして、七神を殺す前にやることがある。
それが、唯一神バベルと言う存在を殺すことだった。
全ての国にコッソリと潜伏し、魔法を獲得、それらを繰り返し、やっとの思いで天使の国まで辿り着いた。
「こ、ここの扉を開けたら、バベルがいるのか……?」
「そう。僕は入ることが出来ない。君の使命、覚えているよね、レオくん……」
「あ、あぁ……」
私は、固く閉ざされた扉を開く。
そこには、綺麗な白髪を靡かせ、寂しそうな表情で椅子に座っている、バベルの姿があった。
「君は……異郷者だね」
「七神を殺さないと、この世界が滅ぶと聞きました。そしてその前に、あなたを殺す」
バベルは、表情を変えなかった。
バベルはこの世界を創ったことを悔やんでいた。
私に、この男を殺すことは……出来なかった。
「おい! レオ! 殺せと言っただろ!!」
ルシフェルは、バベルを殺せなかった私に激昂の声を上げた。
しかし、もうそんな気分ではなかった。
私も影響されたのか、情が生まれてしまったのか、酷く最低な気分で、ルシフェルからは「もうお前に期待はしない」と言われ、守護の国を護る岩盤上に落とされた。
「ハハ……こんな日に限って、いい空だな……」
「ふむ。風情じゃな。ここから見える空の良さが分かるとは、貴様、見所があるな」
守護の国の岩盤上で、優雅に空と海を眺めながら酒を煽っていたのは、猫耳の寅の仙人ディムだった。
そして私は、暫くディムに仕え、異郷者であることを話すと、面白半分に私に仙術魔法を会得させた。
そんなある日だった。
「ディムには禁止されているが、この仙術魔法で過去に戻れば、私はバベルを殺せるんじゃないか……?」
ずっと、悔やんでいた。
私が殺せなかったばかりに、この世界は崩壊してしまうのだと。
そして、ディムからは「仙術魔法で過去や未来を変えたら世界が崩落する」と言われていたが、そもそも崩壊が決まっている世界なら、まだ救われる可能性もある。
そう、信じ込んでしまった。
「仙術魔法 神螺……!!」
「ん……? ここは……」
目の前には、子供がいた。
しかし、今まで見てきた世界の形がない。
「わ、人がいる!」
「え、あ、はじめまして……」
すると、子供はププー!と笑い出した。
「私はカナン! 龍さんのお友達である!」
「龍さん……?」
すると、後方から巨大な赤い皮膚で覆われた、初めて見る龍が現れた。
「エンさんだよ! エンさん!」
そう言うと、龍は子供に頬を擦らせた。
「汝、この世界の者ではないな」
「は、はい……」
龍は、いきなり私に話し掛けた。
「妾はバベルに創られし炎を司る龍。炎龍のエンだ。汝の名はなんと言う?」
私は、俯いたまま答えられなかった。
レオとは……もう名乗りたくなかった。
ルシフェルにも呆れられ、ディムのことも裏切った。
「私に……名前はないです……」
「名前がないなんて変なのー! じゃあカナンが付けてあげる!」
すると、フンフンと鼻を鳴らせ、子供は私に近付いた。
あれ……目線が同じ……。
「君は今日から “カエン” です! カナンと、エンを、合体させて、カエン! かっこいい!」
私は、自然と涙が止まらなくなってしまった。
カナンは、私が泣き出すと、「大丈夫ー?」と声を掛けながら頭を撫でた。
そして気付いた。
私は、子供の姿になっているのだと。
私は、何も変えられなかったのだ。
約束を破った果てに、子供の姿になった。
それが、レオの旅の終着点……。
「汝……そんな泣くでない。この世界はこれから始まるのだ。何をそんなに怯え悲しむことがある」
私は、全てを諦め、カナンとエンに全てを話した。
すると、カナンの姿は二人になった。
「え……大人の姿が……増えた……?」
「これは、あなたの仙術魔法と言うものの “崩落” の一片なのでしょう。あなたも、元の姿に戻っていますよ」
大人のカナンは、流暢に言葉を発した。
子供のカナンは、不思議そうに見遣っていた。
「仙術魔法が分からないので憶測ですが、きっとこの世界の始まりにあなたは来た。最悪の事態はきっと免れたはずです。私のみが影響を受けたのでしょう。あなたは元の世界に帰りなさい。きっと、大丈夫」
そう言って、今度は大人のカナンが私を撫でた。
「ありがとう……ありがとう……」
“仙術魔法 神螺”
私は、再び現在に戻ることが出来た。
しかし、仙術魔法の影響は私にも出ていた。
「魔法が……ほとんど使えなくなっている……」
少し過去を変えた影響か、今まで七国を回って得た魔法がほとんど使えなくなってしまっていた。
しかし、私のすべきことはもう分かった。
「再びエンに会い、力を貸してもらおう……!」
そして、私の龍を探す旅が始まった。
龍長カエンの旅が始まった。
ヤマトくん、君の使命は世界の救済か。
七神を殺し、世界の崩壊を防ごうとする私。
今まで、天使族の使命を全うにこなし、七神を守って来たが、それらの事実を知った新しい異郷者、ヤマトくん。
君は、本当の真理を知った。
君の原動力は、君が本当に守りたいものは……
天使族の使命でもない。
この世界の命運でもない。
君が決め、君が選び、君が守る。
ヤマト・エイレス。
君の旅の始まりだ。
――
チッ……。
失態だ……この僕がしてやられるなんて……。
自由の国にいた僕たちは、闇の魔力に飲み込まれたかと思えば、守護の国へと転送され、神々の姿が消えたかと思えば、僕以外の全ての人たちが冥界の国へ連れ去られた。
「組んでるのか……アイツらは……」
こんなことが出来るのは奴しかいない。
仕方ない……一度、天使の国へ戻るか……。
「随分と困った顔を浮かべているようだね、ミカエル」
天使の国で、嫌らしい笑みを浮かべながら出迎えるてきたのは、光の守護神ルシフェルだった。
「お前は追放したはずだ。天使の国の結界をどうやって破ったんだ」
「さあ、貴方様に教えられることは何も……」
人をおちょくる口振りは相変わらずだった。
しかし、魔力の制限がまだまだ強い僕に、この守護神に抗う術もないわけなのだが……。
「ルシフェル、お前、闇の神と組んでるだろ」
すると、ルシフェルは更に口角を上げた。
「闇の神 “アゲル” の名を借りて世界の滅亡を企んでいる貴方様に教えられることはないと言ったんですよ……」
そして、その背に破れた灰色の大翼を広げた。
「光の神、大天使ミカエル様……」
そのまま、ルシフェルは飛び去って行った。
――
俺たちは、闇の渦に飲み込まれたかと思えば、こじんまりとした暗い王城の前に飛ばされていた。
「お、おい! セーカ! カナン! 無事か!?」
「アズマ……? ここどこなの……?」
見たところ、俺たち三人しかいない……。
ヤマトとアゲルは……別の場所にいるのか……?
「やあ、待ってたよ。異郷者のパーティメンバー」
「お前は……」
小さな羽をパタつかせ、白髪の少年が現れた。
「僕は、ここ、冥界の国で魂の管理をしている。悪魔のルインと言うんだ。よろしくね」
そう言うと、悪魔ルインは微笑んだ。
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