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主人公しか勝たん
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誰も死なない世界。それは、俺たちが死に物狂いで掴み取ったはずの、完璧な幸福だったはずだった。
けれど、完璧な世界というものは、得てして残酷だ。完璧であればあるほど、そこにそぐわないものは、異物として排除される。
俺──花垣武道は、その「異物」だった。
「タケミっち、お前さ、少しは自分の立場を考えたらどうだ?」
喫茶店の椅子に深く腰掛けたマイキーが、氷の溶けかけたジュースを指先で弄びながら言った。その瞳には、かつて俺に向けられていた信頼の色など微塵もない。ただ、冷え切った退屈があるだけだ。
「……なんの事っすか?」
俺がそう聞き返すと、周囲にいたメンバーがわざとらしく溜息を着いた。
「またそれかよ。お前が裏で俺たちの情報を売って金を稼いでるって、もうみんな知ってんだよ」
「否定するだけで無駄だぞ。証拠も揃ってるんだから」
誰の言葉だったか、もう覚えていない。ドラケンか、三ツ谷か、あるいはもっと別の誰かだったか。
俺がそんなことをするはずがないことは、彼らが一番よく知っているはずだった。だが、彼らは信じたい方を信じた。俺という存在が彼らの「完璧な世界」のノイズになるなら、俺を排除するのが最も合理的な解決策だからだ。
(ああ、そうか)
俺は心の中で小さく笑った。
誰かの嘘で、俺の築き上げた日々が音を立てて崩れていく。誰も俺を信じない。誰も俺の痛みに気づかない。
「……そっか。すみません。もう行きます」
俺は立ち上がった。
ちゃんと笑えているだろうか。鏡を見るまでもなく、俺の顔はきっと、どこまでも滑稽な道化の仮面に覆われているはずだ。
喫茶店を出ると、冷たい雨が俺の体を濡らした。
傘なんて持っていない。持っていたとしても、差し出す相手なんて、もうどこにもいない。
(俺、居なくても変わんなくね?)
街の喧騒。笑い合う恋人たち。平和な日常。
どれもこれもが、俺という欠落を抱えたまま、何食わぬ顔で回り続けている。
「……あーあ。本当に、枯れちまったな」
足元で踏みつけられた花びらが、泥水の中に溶けていく。
俺も、このまま誰の記憶にも残らず、ただ朽ちていくんだろう。
そう思った瞬間だった。
「──タケミチ」
背後から、低く、けれど温もりのある声がした。
振り返ると、そこにはかつて敵として、あるいは友として拳を交えた男、鶴蝶が立っていた。
「……カクちゃん?どうしてここに」
「お前が死んだ魚のような目をしてるからな。……随分、酷い顔だ」
鶴蝶は迷いのない足取りで俺に近づくと、その大きな手で雨を遮るように俺の肩を抱いた。
「帰ろう、タケミチ」
「帰る……?」
「ああ。誰も俺たちを傷つけない、俺たちが王となる場所へ」
その言葉は、まるで呪文のように俺の心に沈み込んだ。
かつての仲間が与えてくれなかった「必要」という感覚が、鶴蝶の真っ直ぐな瞳の中にあった。
「行けるか?」
「ああ。俺の居場所は、もうここにはないから」
俺は泥に汚れた手を、鶴蝶が差し出した清潔な手で握り返した。
その瞬間、俺の中の何かが完全に死に、そして──美しく、歪な形へと生まれ変わった。
俺の物語は、ここから始まる。
誰も死なない平和な世界を、頂点から葬り去るための物語が。
枯れた花は朽ちて行く
──始──
コメント
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美月ゆめかだよ〜🌸 読んだ読んだ! 「誰も死なない完璧な世界」ってタイトルからもう切ないのに、まさか武道がそこから弾かれる側になるなんて思わなかった…😭 マイキーたちの冷たい視線、胸に刺さるよ… でもそこで差し伸べられた鶴蝶の手!「俺たちが王となる場所へ」って言葉、めっちゃ背筋ゾクッとした〜🔥 平和な世界を葬るために生まれ変わる武道…これは続きが気になりすぎる! ぽてちっぷさんのダークなif展開、推せるっ! 次話も楽しみにしてるね⋆♡