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白山小梅
12
#借金
1,754
* * * *
電話を切ってから十五分ほどが経った頃、店の自動ドアが開いて瑠維が入ってきた。春香の姿を見つけると、一目散に駆け寄ってくる。
昨日とは違いTシャツにチノパン、そして高校生の時と同じメガネをかけた姿に、春香は懐かしさを覚えた。
「お待たせしました……!」
いつものように無表情で平静を装っているが、額にいくつもの汗が光り、息も切れていることから、きっと大急ぎで駆けつけてくれたに違いない。
それを見た春香は、彼に対して申し訳ない気持ちになる。昨日の今日なのに、こんなふうに私を心配してくれるなんてーー。大丈夫、この人は信用出来る人だと心から思えた。
「あの……来てくれてありがとう」
瑠維は汗が気になったのか、額に触れながら下を向くと、首を横に振った。それから春香の脇に置かれていたビニール袋に目をやる。
「買い物中だったんですね」
「あぁ、そうなの。冷凍食品とかナマモノもあるし、本当は早く帰りたかったんだけどねぇ。ただの私の勘違いかもしれないし、大袈裟に言いすぎちゃったかな」
彼に心配をかけないように、笑顔で軽く言ってみる。とはいえ、ただの買い物がこんな事態になるとは思いもしなかったが。
瑠維は顔を歪め、唇を噛み締めると、顔を上げて春香を見つめた。
「先輩、やっぱりうちに来ませんか。ナマモノは冷蔵庫に入れておけばいいですし」
「でも……」
「解凍されてしまった食材は、うちのキッチンで調理して持って帰ればいい。帰りも送りますから」
「えっ、キッチン貸してくれるの? それはすごくありがたいアイデアなんだけど……けどそこまでしてもらい義理はないし……」
「義理とかはどうでも良くて……! ただ心配なだけなんです……」
こんなふうに苛立つ瑠維を見たのは初めてだった。しかし彼がそんなことを言った理由がわからず戸惑ってしまう。
「あぁ、そうか。瑠維くんってもしかして、かなりの心配性さん?」
「……し、心配性……?」
「だって自分のことじゃないのにこんなに心配してくれてるし」
瑠維は眉間に皺を寄せてから、大きなため息をつく。それから頭を掻きながら、意を決した様子で春香を見つめた。
「……そうです。心配性なんです。だからこのまま帰すわけにはいきません。ついてきてくれますね?」
まるで念を押されるようにグイッと迫られる。その時に至近距離で見た瑠維の顔を見て、不思議とデジャヴのようなものを感じる。
この距離感で、こんなふうに彼に見つめられたことがあったような気がするのに、何故か思い出せない。
春香は間近で見る彼の顔の肌のきめ細やかさや、まつ毛の並びの綺麗さに、仕事柄つい見惚れてしまう。
「先輩?」
呼びかけられて、ハッと我に返る。
「わ、わかった! 瑠維くんの家に行きます!」
そう答えると、瑠維は安心したようにが頬を染めて満面の笑顔を向けた。
瑠維のこんなに優しい笑顔を見たのも初めてで、無表情とのギャップに大きく胸が高鳴った。
「る、瑠維くん! あの……デザートとか食べていく?」
「いえ、今はいいです。とりあえず行きましょう」
春香は頷くと、荷物と伝票を持つ。それと同時に席を立った瑠維は、春香に対してスッと手を差し伸べる。
この手がどの意味を指すのかわからなかった春香は、悩んだ末に持っていたスーパーのビニール袋を手渡した。
「ありがとう。助かるよー」
それから春香が立ち上がった瞬間、瑠維が吹き出したのがわかった。表情は全く変わらないが、昨日からの会話でこの吹き出すという行動こそが、彼が面白いと感じた時の反応なのだと理解し、春香もつられて笑ってしまう。
「私、何かおかしかった?」
驚いたように目を見開いた瑠維は、困ったように口を押さえて頬を染める。
「いえ……あの……先輩に手を差し出したつもりだったのに、まさか荷物を渡されるとは思わず……」
「えっ! そうだったの⁈ あまりそういうスマートな行動に慣れてないから……逆に荷物なんか渡しちゃってごめんなさい」
「いえ、僕の方こそ気付くべきでした。これからは気をつけます」
再び瑠維の目元が優しく笑った気がした。昨日から彼の新しい一面を知るたびに、得した気分になる。
「うふふ。瑠維くんて面白いねぇ。高校の時にその姿を知りたかったなぁ」
先にレジに向かって歩き始めた瑠維の背中を見ながら、春香はこそっと呟いた。それは自然と口から漏れた、春香の本音だった。
「……もし知っていたら……何か関係は変わっていたでしょうか……」
「えっ? 何か言った?」
「いえ、なんでもありません」
春香がレジで店員に伝票を渡すと、横からスッと手が伸び、瑠維が会計を済ませてしまう。
「あ、ありがとう」
「早く行きましょう。ナマモノを冷蔵庫に入れないといけないですからね」
なかなか顔を見せてくれない瑠維に置いていかれないよう、春香は思わず彼のTシャツの裾を掴んだ。
だけど気付けば歩く速度は春香に合わせてくれる。そんな瑠維を可愛いと思ってしまう自分がいた。
さっきまであんなに怖かったのに、またしても瑠維のおかげで心が安堵感が広がる。一人ではどうにも出来なかった道を、彼が拓いてくれた。
瑠維くんと再会出来て本当に良かったーー椿と博之に心の底から感謝した。
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