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「マズイ!」
バックは彼女の危険を察知した。
だが、モブの彼は動くのが遅い。
ワームドの攻撃が少女を貫くかと思われた。
だが、一向にその時は訪れない。
「攻撃を防いだ?」
少女の手というか、その頭上に振ってきたのは巨大な剣だ。
まるで彼女を守るように地面に突き刺さっている。
「こっこれってディスティニーソードじゃないの!」
「おおっ!君は勇者の剣を操る力を手に入れたんだね」
セイの言葉に少女は困惑していた。
その顔になぜ自分が?と言っているようだ。
「なんだよ。そのチート能力…ブツブツ」
嘆きから回復した不気味系チンピラカード使いは悔しそうに漏らした。
正直、俺もうらやましい。
「あのディスティニーソード、持ち上がらないだけど…」
少女は引っ張ったり叩いたり、蹴ったりと勇者の剣に対して敬意も何もない扱いを行っているが剣は地面に刺さったままだ。
「おや、能力と体があってないのかな?」
セイは興味ありげにつぶやいた。
「そりゃあ、そうでしょうね。だって私ただの町娘Bだもん。こんな重い物もてるわけあるか!」
ガルン!
ワームドはまだ元気なようで町娘Bにターゲットを定めていた。
「あぶない!」
バックは今度こそ町娘Bの前に飛び出した。
「喰らえ!モブアタック!」
イケメンバージョンのバックの力にワームドはあっけなく消失する。
「ふう~。何とか撃退できた」
バックの心臓は緊張でドキドキしていた。
こんなハラハラ展開はモブにはきつい。
「あら、イケメンね。私の趣味じゃないけど」
「お前はどの目線なんだよ。同じモブだろ」
「ああん!一緒にしないでよ」
「いやいや、一緒だろ。だって匂いが同じだ」
「どこがよ!」
町娘Bは綺麗なかかと落としをバックにお見舞いする。
地面に叩きつけられるバックの顔はモブ顔に戻る。
「まあまあ。よくやったね」
セイは微笑ましそうに言った。
「まあ、なんか気にくわねえけど倒せたからいいか」
と不気味系チンピラカード使いは続けた。
「どうでもいいわ。あんたら誰よ。説明しなさい!」
「えっと…話は長いんだけど」
町娘Bに踏みつけられる形のバックは恐る恐る語る中、地面に亀裂が入る。
「何?」
「世界が壊れてるんだよ」
セイは静かに紡ぐ。
その先の言葉はバックも不気味系チンピラカード使いも続かない。
底なしの海が流れ込んでいる。この物語は沈む。
俺の世界と同じように…。
「脱出するぞ!」
バックの言葉に町娘Bは一瞬難色を示す。
だが、セイが船の変わりに持ってきたどこかの家の屋根を見た瞬間に彼女の考えは決まったようだ。
「本当にこんなので外に出られるのか?」
バックは心配になった。赤い屋根の上にまたがる男3人と女1人の構図はかなりヘンテコだ。
しかもサーフィンのポーズで荒波に立ち向かっている展開は笑えない。
「大丈夫だよ。僕コメディ世界の住人だから」
一番前でバランスを取るセイの発言にその場の全員の目が点になった。
絶対、ウソだと思った。
それだけはモブ達の考えは一致していた。
なぜだか、分からないが…。
「そうなのか?でもだからってな…」
「ちょっと全然進んでないじゃないの!あら、やだ!私の家が流されてる」
町娘Bの目に涙がにじんでいる。ショックのあまり彼女はバランスを崩しかける。
「どういうことなの?今すぐ説明して!」
「この状態でか?」
バックは適切にツッコんだ。
「いいよ。実はね…」
こういうセイのノリは…
やっぱり、コメディ世界の住人のだからなのか?
いや、でもこの見た目は絶対主要キャラだよな。
すべてが疑わしい。
しかし、セイは流れるように説明していた。
俺達にそうしたように…。
「なんですって!ワームドと呼ばれる虫喰いのせいで世界が崩壊中ですって!」
町娘Bの黒い瞳に闘志が宿り始める。
「許せない!物語がなくなったらイケメン…いや筋肉ウォッチングできなくなるじゃない!」
「気にするのそこ!」
男性陣3人の声が揃う。
「世界を救うために戦ってくれるかい?」
セイ!
この状態で勧誘するなよ。
「いいわ。やる!」
「即決かよ」
「バックも同じようなノリだったじゃないか」
セイは愉快そうに笑った。
「バック?」
「ああ、俺の名前…とはいえ設定されてたわけじゃなくて自分でつけたんだけど」
「ふ~ん」
町娘Bが意味深に返す中、不気味系チンピラカード使いは思いついたように、
「そういや、俺も名前決めたぜフフッ!」
「このタイミングで発表するのか?」
今まさに水に沈むかどうかの瀬戸際なの分かってるのか?
「聞かせてくれよ」
バックの心配をよそにセイはウキウキしている様子だ。
「俺の名前はヴェインだ」
ヴェイン?
「その心は?」
バックは即座に返す。
「特にない」
「ないのかよ!」
「ほら、なんとなく響きがいいだろう」
「いいか?」
首をかしげるバック。
「どうでもいいわよ。そんなもん」
一番後ろから町娘Bの悪態が聞こえてくる。
「私も決めた」
「早くないか?」
「こういうのは勢いが大切なのよ」
「それは一理ある」
ヴェインが加勢に入る。
「よろしい」
「じゃあ、発表するわね」
こいつらやっぱり状況分かってねえだろ!
「私はミナよ」
「いい名前だね。これからよろしく。バック、ヴェイン、ミナ」
振り返るセイ。
「前!」
バックの声と重なるように特製屋根型サーフボードは大波の中に突っ込んだ。