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11月。風が冷たくなりはじめたキャンパスで、紗季は久しぶりに葵の名前を口に出してみた。
それだけで、胸の奥にぽたりと熱いものが落ちる。
(ずっと、返事をできなかった)
葵から「距離を置こう」と言われたあの日から、時間だけが過ぎていった。
文章を書いても、笑って話しても、心のどこかが空いたまま。
その隙間を埋めてくれるのは、他の誰でもなかった。
藤堂さんは優しかった。でも――
あの人に話しているとき、ふと思ってしまった。
(もし、ここに葵がいたらって)
それが答えだった。
***
秋の夕暮れ。紗季は思い切ってメッセージを送った。
「少しだけ、会えないかな。ちゃんと話したいことがあるの」
すぐには既読がつかなかった。
けれど翌日、ぽつんと返信が届いた。
「……分かった。日曜の、あの海で」
胸が跳ねた。懐かしい場所。
ふたりが初めて気持ちを確かめ合った、あの海。