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「荷物はこちらで預かろう。用意した部屋に置いておく」
「ありがとうございます」
「……礼を言うのはこちらじゃ」
雑談が終わり、本題へ話が進む。
私とルイスの荷物は、村長が用意した部屋まで運んでくれるそうだ。
ルイスが村長に礼を告げると、彼は首を横に振った。
「我ら以外に、あの子たちの事を忘れず弔ってくれる。それだけでありがたいのじゃ」
「あいつらのこと、忘れられるわけありません」
「私も……、ルイスと同じ気持ちです」
「そうか、ロザリーちゃんもか」
五年かかってしまったけど、ここへきて良かったと私は思った。
少しの間しかいなかった私の事を覚えていてくれたのも嬉しい。
「長く引き留めてもあれだからな。二人とも、行ってきなさい」
村長が話を終わらせ、私とルイスは村長宅を出た。
一つ用事を終えた。
次は何をするのかと、私はルイスの顔を見る。
(……真っ赤だわ)
そこで、ルイスの顔が真っ赤だということに気づいた。
夫婦か恋人だと勘違いされていたのだ。
村長の発言を聞いて、私も恥ずかしくて仕方なかったけど、ルイスはそれ以上だったようだ。
「ルイス、次は孤児院跡に向かうのかしら」
その場に突っ立っているルイスの服の裾を引っ張り、私は次の目的地を訊ねた。
ルイスは私の顔を見るなり、はっとした表情を浮かべる。
しかし、すぐに私から視線を逸らした。
「そ、そう!! 供える花が、しおれちまう前に行かないとなっ」
次の目的地は孤児院で合っているようだ。
五年前と言えど、孤児院があった場所は覚えている。
孤児院は集落から少し離れた場所にある。
森の中を歩くと着く。
昔の足では時間がかかったが、今だとすぐだろう。
私たちは孤児院に向かって歩き出した。
☆
森の中を道なりに進むと、丘があり、そこに孤児院は建っていた。
私の記憶の中では、私とルイスを含めて 十四人の子供たちと、係りの人が三人、交代で来ていた。
孤児院の近くには大きな木があり、その太い枝に布紐で木の板を吊るしたブランコが小さい子供たちの間で人気だった。
庭園では簡単な野菜や、季節の花を育てていて、収穫したものを調理して食べたり、花のスケッチをしていた。
私はお母さんを失ったこともあり、当時は塞ぎこんでいたけれど、それくらいの記憶はある。
「あ……」
私の記憶にある孤児院はもうない。
目の前には、黒焦げになった樹木と建物の朽ちた柱が残っていた。
私はその光景に言葉を失った。
「なくなっちゃったんだ」
私の心の中は悲しみの感情でぐちゃぐちゃになり、身体は小刻みに震えた。
小さな言葉で呟くと、それを拍子にボロボロと涙の粒が地面に落ちる。
「ロザリー、こっちだ」
涙を流す私の手を引き、ルイスはある場所に連れてきた。
そこには墓標が立っていた。
無残な殺され方をした子供たちの墓だ。
ルイスは墓標の前に花束に置いた。
そして、私たちは長い間、故人に祈りを捧げた。
その間、私は心の中で五年間、事件のことを知らなかったことを謝罪していた。
「あの……、私たちの他に墓参りしている人がいるの?」
墓参りを終え、墓石を掃除するさいに、私は気づいた。
私たちが買ってきたものの他に、もう一つ花束が置いてあることを。
故人を弔うための花束で、私たちの物よりも高価だ。
これは村の人が供えているものなのだろうか。
ルイスに問うと、彼は首を横に振った。
「分かんねえ。けど、村長でもなく、村の誰かでもないのは確かだ」
「私たち以外で一体誰が……」
「気にすんな。考えても分からねえし」
何度も墓参りに来ているルイスがそう言うのだ。
初めて来た私が考えても答えは出てこないだろう。
一年分の汚れを取った墓石は、光沢が戻り綺麗になった。
「また、来年……、だな」
「……うん」
「ロザリー、来年も一緒に来てくれるか?」
「ええ。約束するわ」
これで孤児院の墓参りは終わった。
ルイスは一年後、またここへ来るだろう。
そして、ルイスの隣には私が立っているはずだ。
私と口約束をしたルイスは、真摯な表情から一転して、目が泳いでいた。
「どうしたの? 他にやりたいこと、あるのかしら」
「い、いや! 村に戻るぞ!! 日も暮れるしな! ははっ」
突然、ルイスが棒読みになった。
明らかに動揺している。
この先、村に戻って、村の人たちと食事をして、用意された部屋で一泊するだけだが。
(あっ……)
異性との一泊。
クラッセル子爵はその時までに、ルイスとの関係に答えを出すのだと私に警告していた。
けれど、私はそのことを今の今まですっかり忘れていた。
もしかしたら、ルイスも私と同じように緊張しているのかもしれない。
当時、真面目に考えていたものの、ルイスは私のことが嫌いだという結論を出し、今に至る。